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神隠しのサイカイは。  作者: 八戸之部花信
1/5

憶えてるけど憶えてない

小さな頃に、神隠しに遭ったことがあるらしい。

親たちが目を離している隙に、跡形もなく消えてしまったのだとか。


勿論親は大慌てで村中駆け回り、ポスターを貼り呼び掛けをして探してくれていたと後から聞いた。とはいえ狭い村の中、5歳児に行ける所などたかが知れている。


そんな奇妙な安心感と、閉塞感をぶち破ったのは他ならぬ私だった。


居なくなったのは自分の家の庭。そこから直線距離にして、3kmという破格の距離で当時5歳の私は発見されたのだ。

いったいどうやって。どうして。


......何故、其処に居たのか。真相など誰にも分からない、分かるはずも無い。


だってどうして居なくなったのか分かれば、それはもう誘拐事件として成立し、私もスッキリさっぱりして(そんな訳無いが)この事を忘れ去って平和に暮らして居たかもしれない。



でも、分からなかったのだ。

何故行方不明になって1週間という時間の中で3kmという、

遠くも近くもある距離を移動していたのか。


何故栄養状態もよく、怪我一つ無かったのか。


分からなかったのだ。何一つ、分からなかった。


だって、

当事者である私ですらなにも憶えていなかったのだから。


当人ですら分からないのならどうしようも無い。

私が憶えているのは、つんざく様な叫び声と、

こちらを射す眩しい光(恐らく懐中電灯の類だろう)と、

何故か白く霞んだ視界のみだった。


かくして其れは神隠しとなった。

誰にも分からない失踪事件、

当事者にも無い事件時の記憶。

人々の想像力を 下卑た好奇心をかき立てるには

充分過ぎたのだ。


それから暫らくの間は苦労した記憶がある。

何処で聞きつけたのやら、メディアは押し寄せるわ

知らない人が検査入院していた病院に押し掛けて来て親に「お前がやったんだろ!嘘つくな!!」とか怒鳴り散らすわ...


正直腹が立ったのでベッド脇の相棒(気に入っていたハムスターのぬいぐるみ)を投げ付けてやった。


今でもその人の顔は忘れられない、両方の意味で。


子供ながらにとてもスカッとしたが親に怒られてしまい、

だってお母さんとお父さんを悪く言うから...と言う

と涙ながらに抱き締めてくれ、親子3人で抱き合ったのは

神隠しに関する数少ない良い思い出だ。


救いだったのは近隣住民、つまり近所の方々は騒がず静かに守ってくれた事だ。

まぁ静かに、と言うには少し語弊があるかも知れない。1度、家にまで野次馬が来て、近所の人がスリッパで叩いて追い払った事があった。

また相棒を顔面にストライクしてやろうかと身構えていたのだが...

「今のお気持ちは!」

「本当は全て自作自演では無いかとの声も挙がっていますが!」

「奇跡の1夜から1ヶ月が経ち、行方不明になった少女の家では...」

その時だった、突然人垣が崩れたのは。

今のうち!と両親に抱えられてその時はされるがままに連れて行かれたのだが、今なら分かる。

あれは、見兼ねた近所の人が追い払おうとしてくれていたのだと。感謝しかない。


...話が長くなったが、

それが私の憶えている事全てだ。

これが全てであり、これ以上は何も憶えてはいない。


もう、11年前の出来事だ。それでももう少しだけ話す事を許して欲しい。

私の特異な癖のことを。

私の違和感についてを。

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