05.5
大人しく耳を塞ぎ、目を閉じた彼女を見届けると、僕は男たちに向きなおる。
助けて、と、ヴェスティエ語が聞こえたから、てっきりラトソールの国境を超えてしまったヴェスティエ人がいたのかと思って様子を見に来たが、どう見てもヴェスティエ人ではない、亜人の女性が男に襲われていた。
人間ではなかったが、亜人の女でも、助けを求められたら手を差し伸べないわけにはいかない。しかも、既に亜人の死体が一つ転がっている。この女性が、これから、ただ乱暴されるだけでないことは明白だ。
僕はすぐ傍にいた、男たちの一人に近付いて殴ると、彼が持っていたナイフを取り上げる。剣は持っているが、流石にこれを使うと、面倒なことになるのは分かる。
ただでさえ、この辺りの国境問題は昔からあれこれといざこざがあるのだ。ヴェスティエ人が国境を超えて悪事を働くこともあるし、その逆もある。
『くそ! お前ら、やっちまえ、殺したところでここはソルテラの領地だ。どうにでもなる!』
リーダー格と思わしき男がそう声を上げると、残りの面々がその声に応え、雄たけびをあげる。……厄介だな。
彼らに負けるようなことはない。その辺のごろつきに遅れを取るような訓練はしていない。とはいえ、ある程度、彼らが歯向かってこないように心を折る必要がある。
僕の拠点はそう遠くない。男どもを撒くには、少々距離が心もとない。
仕方ない、と、僕は襲い掛かってくる男の足を狙ってナイフを指す。上手い具合に太ももへ刺さってくれた。苦しむ男を蹴飛ばして、外側へと転がす。手当が間に合えば死ぬことはないだろう。
一人、二人、と対処していたが――三人目と四人目でアクシデントが起こった。
「――あ」
僕を殺そうとした男たちの、三人目と四人目が、避けた僕への対応がしきれなくて、互いに相手を殺してしまったのである。
――殺すつもりはなかったが、ここまでくれば、二人も、三人も、四人も変わらないか。後で面倒なことになるよりも、始末してしまったほうが楽でいい。
僕はナイフを握りなおすと、足を押さえて痛がってのたうち回っている男の前に立つ。
最初からこうしていれば、無駄に苦しませることもなかったか。失敗したな。
『や、やめてくれ……!』
僕を殺そうとしてた男共は、情けなく命乞いをし始めた。しかし、人間として、彼らを捨て置くわけにはいかない。
人間しか扱えない東語を話す彼女は、きっと『継ぎ子』に違いない。亜人ではあるが、亜人の『継ぎ子』に前例がないわけじゃない。
僕は男の喉元にナイフの切っ先の狙いを定め、そのまま振り下ろした。