48.5
ノック、というにはいささか乱暴な勢いで、扉が叩かれる。この感じはコマネだろう。いつぞや、扉をノックしたことに気が付かれず、部屋に入ったらかなりの修羅場に遭遇し大変な目にあったから、と話していたが、返事がされる前に入る彼に非があるのではないだろうか。
「入りますねー」
案の定、僕の返事も待たないままにコマネは僕の執務室に入ってくる。まあ、僕は執務中に見られて困るような行動をしないので、構わないと言えば構わないのだが……。
「何かあったか?」
今はちょうど訓練の時間のはず。休憩にはまだ早い。何か、僕に報告しないといけないような問題が発生したのだろうか。
「いえ、少しばかり、声をかけておこうかと思って。今、アルシャ嬢がここに来ているらしくて」
「……は?」
思わず低い声が出てしまった。コマネが「おー、こわ」と、全く怖がっていない様子で軽く笑う。
「団長も聞いてなかったんですね。ついさっき、カゼミちゃんと一緒に来たらしくて。差し入れらしいっすよ」
「……カゼミ」
その名前を聞いて、察するものがあった。「今度お邪魔しますね」と言われていたが、まさかアルシャ嬢を連れてくるとは。そこそこの頻度でヒスイのところに来るから、いつものことだと思って深く考えていなかったが……。だが、わざわざ僕に言ってくるということは、普段とは違う何かがあるのだと、少し考えれば分かったはず。
「事務の方は久方ぶりの団長の婚約者に興味深々ですし、団員の方は完全にカゼミちゃんのお友達か何かだと思って結構気楽に話しかけてるっすよ。共用語を頑張って話そうとする姿が可愛いとかなんとか」
「…………は?」
さっきよりも低い声が出た。流石のコマネも少し怖気づいている。
「あー、多分、カゼミちゃん、事務の奴らにしか声かけてなかったんじゃないっすかねえ。事務には何人か友達がいるみたいですけど、団員は別にそうじゃないんで」
慌てたようにコマネが付け足す。
「……、別に怒っているわけじゃない」
咳ばらいを一つして、僕は声音を普段のものに戻す努力をする。
「語学の上達には他者と話すことが最も効率がいい。外に出て会話をすることは悪い選択肢じゃないだろう」
「……そうは思ってそうな顔じゃないですけど」
コマネが言うので、僕は軽く顎周りを触ってみるが……いつもと表情が違うかどうかは分からんな。
「今ならまだ室内訓練場にいると思いますよ」
「……そうか」
僕はちらり、と手元の書類に目を通す。……少し離席するくらいならば、何ら問題ないな。
軽く机の上を片付け、僕は室内訓練場へと向かうことにした。




