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謎のイタリさん推しをカゼミさんから受けつつ、彼女の迎えが来たことで、この話は終わった。カゼミさん、わたしより少し下っぽかったけれど、丁度そういうことに興味がある年頃なのかな……。わたしも、貴族令嬢というからには、そういう年齢だとは思うのだが。前世と違って、一生一人で生きていく、という選択肢もなかなか取れない立場だし……。
いや、わたし、もう貴族のご令嬢じゃないから、別にそういうの気にしなくてもいいのか?
このままだと、わたしは平民になるのかな。騎士とか体力筋力的に無理だし、王家の剣だというのなら、外の国からやってきたわたしには就けない仕事だろう。
――もし、イタリさんとの婚約を、ほどよいところで解消してしまうのなら。
……別に、貴族らしい生活を続けたいというわけじゃないけれど、イタリさんに会いにくくなるというのは、ちょっと、さみしいような……。今生の別れとは言わずとも、頻繁に会えなくなるのは確実で。
「――アルシャ嬢?」
「うわぁっ!」
イタリさんのことを考えていたはずなのに、なぜか現実にイタリさんがいる。びっくりして、大声を上げてしまった。
怒られる、と思って身構えるが、イタリさんはただ「驚かせたか、すまない」と軽く謝るだけだった。
……ラトソールにいた頃だったら、絶対怒られていたのに。多分、はしたないとか、そういう理由で。
怒鳴られるだけならいい方で、下手をすれば手を叩かれた。罰として。
でも、イタリさんは怒らないのか。
『ご、ごめ――』
「アルシャ嬢はここで何を――すまない、何か言ったか?」
「あ……、な、何でもないです」
いつもの癖、ラトソール語で謝ろうとして、イタリさんと言葉が被ってしまった。本当に怒ってないんだ……。
「あ、えっと……、さっきまで、カゼミさんがいて、見送りの、帰りで……」
何をしているのか、という質問に、わたしは答える。カゼミさんが帰ったのは本当についさっきのことだが、客人という立場上、あまりうろうろするのは褒められたことじゃなかったか。屋敷があまりにも広いから感覚が麻痺してしまっていたけれど、普通は客室等、行ってもいいとされた場所以外立ち入らないほうがいいものだよな。
玄関ホールにとどまらず、さっさと客室に戻った方がよかったかな。
「ああ、なるほど。確かに先ほど個人馬車を見たな。カゼミが乗っていたのか」
どうやら、イタリさんも外ですれ違っていたらしい。
「出迎えてくれたのかと思った」
少し、冗談っぽい声音で言うイタリさん。表情こそ、普段とあまり変わらない無表情ではあるものの、ちょっとだけ、わたしをからかおうとしているのだろう。
でも、出迎えだなんて、そんな本当の婚約者みたいな……。
……い、嫌じゃないけどね?




