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 カゼミさんの授業は面白くてあっという間に時間が過ぎていった。ずっと言葉が通じない生活をしていたからか、こうやって会話ができるだけで夢中になって話をしてしまうのだが、それはそれとして、カゼミさんの教え方が上手いのだと思う。カゼミさんにとって、教師が天職なんじゃないだろうか。

 体で覚えさせる、というのが基本的な勉強スタイルだったわたしからすれば、こうやって萎縮しないで学ぶことがどれだけありがたいことか。


「アルシャさんはなにかしてみたいことはありますの?」


 授業の片付けをしながら、カゼミさんはわたしにそんなことを聞いてきた。


「してみたいこと?」


「ええ。イタリ様に恩返しをしたい、という話は聞きましたけれど、他にもないんですの?」


 「目標があると勉強もはかどりますわよ」とカゼミさんは言うけれど……。今のところ、恩返し以外にしたいことって、あまり思い浮かばない。イタリさんに一番お世話になっているから、イタリさんに恩返しがしたい、とは言ったけれど、勿論コマネさんやヒスイさんにだって恩返しがしたい。

 こうして、わたしが人間らしい、周囲におびえないで生活できるようになったのは、わたしを助けてくれた人たちのおかげ。その全員に恩を返したい、とは思っているけれど……。


 多分、カゼミさんが言っているのって、そういうことじゃないんだよね? 例えば、将来なにかしたいことがあるか、とか、そういう話だろう。

 今のわたしに、未来のことなんて考える余裕もないけれど……。


「――あ」


 一つだけ、思いついたことがあった。


「街にあった、飴屋さんにまた行きたいです。ショーウィンドウに飾られた飴細工がとても綺麗で……。パンフレットが全部読めるようになったら、また連れてってくれるってイタリさんが言ったんです」


 多分、これも、カゼミさんが求めている回答じゃないだろうな、と思いつつも、わたしは言った。いや、本当にこのくらいしか思いつかないんだもん。

 異世界に転生したのなら旅をしてみる、というのも案としてはあるだろうけど、言語が通じないことが本当にストレスだったわたしからしたら、一生この国から出たくない。


 たいしたこと言えなくて、カゼミさん、がっかりしたかな、と思ったけれど――。


「まあ!」


 なんだかとってもきらきらとした目で見られている。ほほえましいものを見ている、みたいな視線、ちょっと気まずい。パンフレット一つ読めるようになりたい、って願望は、子供っぽかっただろうか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アルシャがとても可愛いです。 言葉が通じず大変だったろうに、前向きで努力家で尊敬できます。 ぜひ溺愛されて幸せになってほしいです。
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