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 手を渡したら、指輪をはめられてしまう。この指輪、絶対につけたくない。弁償できないし、わたしなんかに似合わない。つけるべきじゃない。この指輪にわたしはふさわしくないのだ。

 ただの居候にこんな高価そうで特別な指輪を渡そうだなんて、何を考えているんだろう。


「――手を」


 どうして手を出してくれないのだろう、という表情のイタリさんに負けて、わたしはおとなしく左手を差し出した。

 せめてもの抵抗で、そろそろとちょびっとだけ差し出した手を、イタリさんが握りこむようにして引っ張る。


「――……っ」


 ひぇ。

 思わず変な声が出そうになって、わたしは息を飲み込んだ。


 イタリさんの手は、思っていたよりも温かくて、人肌に触れて体温が混ざり合う独特の感覚に、わたしの心拍数が上がるのが分かる。

 騎士団長、というだけあって、結構ごつごつして、マメの感触もある。そして予想以上にかさついている。

 手のひらは大きいし、指は長いけれど太い。顔だけなら、細い指にすべすべの肌、と、女のわたしより綺麗な手をしていそうなのに。


 全然、思った以上に男の人の手――。


 そんなことを考えていたら、変に意識し始めてしまう。良くない、別のことを考えなきゃ。

 何か、別のことを……。


「――少し緩いな」


 急にイタリさんが声を上げたので、わたしの肩がびくっと跳ねた。恥ずかしい。イタリさんは全然意識してなくて、いつもと大差ないのに、わたしばっかり気にしている。


「スカスカ、というわけではないが、何かの拍子に落ちるかもしれないな。チェーンを通してネックレスに――どうした? 体調が悪いのか?」


「え、えっ!? な、なんでもないです!」


 話しかけられてびっくりして、妙に大きい声を出してしまった。しかも声が裏返るし。

 流石のイタリさんでも、わたしがそんな反応では、わたしの様子がおかしいことに気が付いたのだろう。


「体調が悪いのなら無理はするな。先日のようなことがあったのだ、精神的なものが原因で体調を崩してもおかしくはない」


 真剣に、心配そうに声をかけてくれるイタリさん。変に意識して慌てているのが恥ずかしくなってくる。


「――……本当に、大丈夫です」


 でも、赤くなっているのであろう顔は、そう簡単には元通りにならない。

 どきどきと、心臓を高鳴らせながらも、わたしはイタリさんに平気だ、と言葉を重ねるしかなかった。本当に体調不良を心配している相手に、妙な意識をして顔が赤い、なんて知られたくなかったので。

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