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 朝食が終わると、コマネさんが帰っていった。「団長、それでは一週間後に」と言っていたから、イタリさんはそのくらい休むのだろう。……わたしのせいで休ませた、と考えると、申し訳ない。


 それを見送ると、わたしたちは王都へと足を運ぶことになった。明後日にはわたしに共用語を教えてくれる人が屋敷に来るそうなので、今のうちに王都を案内してくれるらしい。

 昨日の今日で、もう家庭教師の手配が終わっているなんて……仕事の出来る人なんだなあ。

 イタリさんの住んでいる屋敷がある場所は、いかにも高級住宅街という場所なので、馬車を使って街にまで出る。結構広い住宅街らしく、大きな家がいくつも並んでいる。もしかしたら、これらのほとんどが貴族の別邸とかなのかもしれない。


 がたごとと揺れる馬車の中、どちらとも話をしない。あんまり気まずい沈黙でもないけれど――わたしはちらっと、イタリさんを見た。何か話題を振ろうかな、なんて考えながら。しかし、わたしの視線に気が付いたのか、すぐにイタリさんがこちらを見てくる。まさかそんなすぐに気が付かれるとは思わなくて、心の準備が出来ていない。


 なんとなく、気が付かれたことが気恥ずかしくて、パッと目を逸らした。


「――やはり、怖いか?」


 ふ、と、イタリさんがそんなことを言うものだから、わたしは再び、彼の方へと視線を戻す。なんとなく、さみしそうな表情をしているように見えた。


「先ほど君はコマネにああ言ったが……無理に繕わなくていい。君は僕に恩を感じているかもしれないが、無理に立てる必要はないんだ」


「う、嘘じゃないです!」


 わたしは思わず立ち上がりそうになって、慌てて腰を下ろす。馬車の車内だった。勢いよく立ち上がったら普通に危ない。バランスを崩して座席に頭を打つ可能性もある。

 座ってから、わたしは、もう一度、「嘘じゃない、です」と言った。


「イタリさんはわたしの命の恩人で、その、ヒーローみたいな人です! だから、怖くなんてないんです!」


 助けてと、怖くて泣き叫んでも、わたしの言葉が通じるなんて、思っても見なかった。あそこで死ぬんだって、本気で絶望した。

 でも、そこに現れて、わたしを助けてくれたイタリさんは、本当に、物語のヒーローのようにかっこよくて、安心できる存在なのだ。


 わたしが必死に弁明すると、一瞬、きょとん、とした表情を見せたのちに、イタリさんが「ヒーローか」と破顔した。


「そんなこと、初めて言われたな」


 今まで見たことないくらい、表情が変わって、笑っているその姿を見て、一瞬、見惚れてしまった。 イタリさんの笑顔を見てしまって、妙にドキドキしながら馬車に揺られてしばらくすると、いくつも馬車が並ぶ、駐車場のような場所につく。

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