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「二度目の訪問の際に、ウィンスキー家の嫁として、アルシャ・ソルテラを迎え入れることは可能か、と聞いたら、許可が出た」
「……?」
いや、一度目と二度目の間に何があった? 順を追って説明してくれているはずなのに、理解が追い付かない。急に使ってる言語変わった? それとも、わたしの理解力が低いだけ? ……いや、でも、これだけ生きてきて、言葉を習得出来ない、というのは、いくら前世の記憶が下地にあるとはいえ、なかなかにアレなので、理解力が低いことは否定しきれない。悲しいことに。
わたしがあまりにも納得していない顔をしていたからだろうか、イタリさんが、不思議そうな顔で、話を続けた。
「君の両親は人格に難があるようだったが、ソルテラ家自体はなかなかに歴史と格のある侯爵家だ。他国の家ではあるが、ウィンスキー家とのつり合いは取れている。僕はウィンスキー家の跡取りではないから人間と結婚する必要もなく、婚約者もいない。君の正しい身分を聞き出せるなら、合理的ではないか?」
なんにも合理的じゃないんだよなあ。わたしが理解力ないというも事実だが、イタリさんの思考回路がぶっ飛んでるのも事実じゃない?
「わたしなんかと婚約しちゃってどうするんですか……。貴族ですから、好きな人ができたら、とかは言いませんけど、もっと都合のいい人と結婚でいるかもしれないのに……」
こんな、身分だけはあったけど、中身がそれにふさわしくない嫌われ者よりもっといい縁談があるでしょ。
しかし、イタリさんはバッサリと、「それはない」と言った。
「既に僕は何度か婚約破棄されている。どれも正式な婚約が成される前に白紙に戻ったので、婚約破棄とは少し違うかもしれないが。おそらく、周りが僕との婚約を知ったとして、同情されるのは君の方だ」
……顔よし、家柄よし、地位よしで、どうして婚約が白紙になるのかわたしには分からない。本当に、本気で言っているの? テーブルマナーのように、和ませるための冗談ではなく?
「君の身分に関しては言質が取れた。今後、君がこの国にいてもなんの問題もない。適当に時期を見計らって、婚約をなかったことにでもすればいい」
「す、すればいいって……」
それ、イタリさんの経歴が、修正不可能なレベルでぼろぼろになってしまうのでは……? 何度も婚約が白紙に戻り、それを経て婚約をしたものの、それも破棄となれば、もう次はないんじゃないだろうか。
それはどうなの、と思うけれど、「説明は以上だ。流石にもう寝た方がいいんじゃないか?」と言ってイタリさんが立ち上がり、就寝の挨拶をして退室していったので、もう、何も言えない。
いや、明日からどうなってしまうの……?
混乱した頭のまま、ふらふらとベッドに戻る。
この世界に生まれてからの今までとは比べ物にならないくらい激動の一日に、わたしは、気絶するように眠ってしまった。