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 食事も後半戦。ここまでくれば緊張もほぐれて、多少は余裕も出てくる。テーブルマナーに自信はないままだが、本当にイタリさんは何も言ってこない。

 なので、わたしは意を決して聞いてみた。


「――イタリさんは……イタリさんたちは、どうしてこんなにもよくしてくれるんですか?」


 わたしがずっと、不思議に思っていたことだ。イタリさんが、助けたなら最後まで、という真面目な性格をしていたとしても、他の人たちがわたしに優しくしてくれる理由が分からない。ヒスイさんなんかも、わたしに言葉を丁寧に教えてくれたし。

 国民性なのかな、とも思ったが、どうなんだろう。


「……それは、君が『継ぎ子』だからだろう」


 ……つぎこ? 言葉は聞き取れるのに、意味が分からない。何か特別な言葉、なのはなんとなく分かるけど。


「人間の間には、生まれ変わり、という概念がある。前世の記憶を引き継いでいる者を『継ぎ子』と言う。君は東語を話しているだろう。隣国に亜人として生まれてはいたが、前世は東部の人間だったんじゃないのか」


 ……いや、たぶん、違う。


 確かに、前世の記憶があるのは事実だ。でも、わたしが生まれ育った、前世の世界に獣人はいない。いなかった、はず。いないものを証明するのは非常に難しいので、言い切れないが、少なくとも、わたしの周りは人間だけだった。獣人だけが暮らす東部の出身ではないのだけは分かる。国の名前だって、違うし。


「『継ぎ子』であるなら、我が国民と同じようなものだ。同胞に良くするのは当然のこと」


 でも、そう言われてしまうと、違います、とは言えなかった。騙すようで卑怯だが、『継ぎ子』でない、と知られて、追い出されるのが、怖い。心苦しいけど、卑怯だけど、少なくとも、共用語を覚えて、一人でも生きていけるだけの土台を作ってからでないと、本当のことは言えない。


「……もし、『継ぎ子』じゃなければ、助けてくれなかった、んですか」


 でも、わたしは気になって、聞いてしまった。よせばいいのに。

 ――しかし。


「明らかに襲われている婦女子を放置することは出来ない。君が仮に『継ぎ子』でなかったとしても、あの男どもと合意でことに及ぶのではなく、助けを求めていたのなら、同じことをした」


 なんのためらいも、間もなく、それが当たり前のことであるようにイタリさんは言った。その声音に、嘘は感じられない。


 もし、この家を出ていくことになったら、本当の『継ぎ子』じゃないということを、彼にだけは伝えよう。今はまだ、言う勇気がないけど。

 わたしはそう、心の中で誓った。

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