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 不安になりながらも、正直シノさんの方が残って案内してくれて助かったな、と思ってしまう。だって言葉が通じるんだもの……。

 言葉を早く覚えなきゃ、と思う反面、既に通じる人間に頼りたくなってしまうのは仕方ないと言えば仕方ないかもしれないけど、情けなくもある。


「こちらが食堂になります」


 シノさんに案内されて、わたしは食堂へと入る。中には、既にイタリさんが座っていた。

 シノさんはそのまま壁際へと立つ。わたしが食べ終わるまで待って、また帰るときに部屋へと案内してくれるんだろう。


 それにしても、おいしそうな料理が並んでいる。お腹が空いて、すぐにでも食べたい半面――わたしはすごく、緊張していた。


 というのも、言葉が通じないわたしへのマナー教育は、体で覚えさせると言わんばかりの指導方法だった。わたしに物を教える三人の女性がいたが、マナーを教えてくれる人が一番厳しい性格だったと思う。


 仕方ない、と言えば仕方ないのだが、間違えた時には、違います、という言葉の代わりに手をひっぱたかれた。違う、という言葉に気が付かないわたしが悪い、と言えば悪いのだが。わたしが国を出る少し前に、妹もマナー教育が始まって、あの女性に鳴かされていたが、わたしのように手が赤く腫れていることは一度だってなかった。


 何が悪いのかわからなくて、何度も手を叩かれて、痛みで、カトラリーを持てなくなったこともある。でも、言葉で説明されても、ほとんど何も分からない。

 食事がトラウマになって、食べたくないと突っぱねることが増えた時期もあったが、流石に何も食べずには生きられないので、最終的には痛みと恐怖を乗り越えてマナーを習得した。


 今ではある程度、周りの様子をうかがわなくても食べられるようになったけれど、初対面の人だと緊張するし、ましてや、イタリさんはわたしの出身国とは違う国の人間だ。もしかしたらマナーも違ってくるのかも。


 すごくお腹が空いている半面、この場から逃げ出したくなってきた。逃げる場所がないから、そんなこと言ったってどうしようもないんだけど。しかもわたしを助けてくれた上に衣食住を提供してくれている相手に失礼でしかないのは分かってるんだけど……!


「――座らないのか」


 急に話しかけられてわたしは思わず肩を揺らしてしまった。緊張しすぎて、立ちっぱなしになっていたようだ。

 ちら、とイタリさんをうかがう。……大丈夫、たぶん、怒っていない。相川あらず無表情だけど、怒っている雰囲気は感じない。


 わたしはごくり、と唾を飲み込み、覚悟を決めて席へと座った。

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