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 案内された部屋は、わたしが元いた国の装飾とは異なって、あまり華美に飾られてはいない。それがこの国の意匠なのか、単純にイタリさんの趣味なのかは分からないけれど。でも、少なくとも、置いてある家具の質はどれも良さそうだ。分かりやすく装飾にこだわっていない分、ごまかしが効かない上品さと高級感がびしびし伝わってくる。


「御夕飯まで時間がありませんから、サクサク湯あみをしてしまいましょう。準備は出来てますよ」


 おかっぱみたいに、前髪も後ろ髪もきっちりまっすぐ切りそろえられた、黒いセミロングの獣人メイド、シノさんがわたしに声をかけてくれる。


 ろくに部屋を探索しないまま、風呂場に案内される。まあ、これだけ汚れていたら、この部屋の中をうろつくのは、はばかれるからむしろありがたいんだけど。

 この客室は、ベッドルームから風呂場と洗面所、トイレに直接行けるようになっている。どれも広い。高級ホテルのようだ。


 わたしはシノさんとメノさんに服を脱がされ、風呂へと入れてもらう。シノさんが、何かしようとする度、次はどこを触りますね、何をしますね、と声をかけてくれるので、非常にありがたい。

 元の国にいた頃も声をかけてはくれていたものの、その言葉を理解する前に触られたり洗われたりすることがほとんどだったので、折角お風呂に入っていても一瞬たりとも気が休まらず、ずっと疲れていた。


 でも、今日、ようやく、転生して初めてゆっくりとお湯につかれた気がする。わたしは深く息をはいた。声を出すのは我慢しないと、ではあるが。

 もっと欲を言えば、一人で気ままにお風呂に入っていた前世が恋しいけれど……これ以上の贅沢は言うまい。それに、流石にある程度は慣れたし、言葉が通じるだけずっといい。


「頭、洗わせていただきますね」


 シノさんが髪を洗ってくれる。一人で入る方が好きではあるものの、こうして髪の毛を洗ってもらうのはなかなかに贅沢だと思う。

 他人に髪を洗ってもらうのって、どうしてこうも気持ちいいのか。髪が長いと洗うだけでそこそこ体力を奪われるからだろうか。ぼーっとお湯につかっているだけで頭がさっぱりする、というのだけは、使用人と一緒にお風呂に入る、大きい利点だと思う。


 妙にいい匂いのする、適温のお風呂に入って、ちょっとだけうとうとしてしまう。このまま寝たい。

 死にそうな目にあって、助けられ、馬車に揺られて、知らない国にやってきて。ここにきて、ようやく緊張の糸が切れたんだろう。


 でも、ここで寝るわけにはいかない、と、わたしはあくびをかみ殺した。

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