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15.5

 アルシャ嬢を見送り、僕は部屋へと戻る。


「あ、どーも、旦那。邪魔してるぜ」


 僕の部屋のソファにだらしなく寝そべっているのは、チェニールだ。昔は僕の影武者をしていたが、僕よりも身長が高くなり、明らかに体格差が誤魔化せなくなってからは、僕専属の情報屋として働いている。


「そんな顔すんなって」


 チェニールが起き上がりながら言う。顔立ちだけは未だに似ているこの男がだらしないことをしている場面に出くわすと、どうしても眉間にしわが寄ってしまう。


「……それで。確認は取れたのか」


「おうとも。間違いなくソルテラの嬢ちゃんだと。旦那の名前を出したら分かりやすく手のひらを返したぜ」


 チェニールの表情を見るに、あまりいい態度を取られなかったのが簡単に分かる。あのような、賊に娘を処分してもらおうとしている時点で分かり切っていたことだが。


「……彼女の処遇は」


「ソルテラの家ではもう死んだことにしたらしいからな。『あの話』、通すってんなら実は生きていたということにするが、こっちは関与しない、ってよ。本当に死んでも離縁しても、便りはよこさないでいいらしい。ま、勝手にしろってこったな」


 ……なんともまあ、むごい話だ。

 いくら感情よりも利益と打算が先に来る貴族家とはいえ、実の娘をそんな扱いをするとは。ウィンスキー家では考えられない。


「旦那の家んところは仲がいい方だからなあ。ま、貴族じゃなくても世の中こんな家族もいるもんだぜ? 血しかつながってねえような、さ」


「…………」


 僕の生家の領地にある孤児院に捨てられ、挙句僕に顔が似ているからと影武者に買われたチェニールが言うと、説得力が違う。少なくとも、両親からそれなりの愛を受け取って生きてきた僕には分からない世界なのだろう。


「いいんじゃねえの? 本当に旦那が幸せにしてやればさ」


「馬鹿なことを言うな。僕のところにきたとして、幸せになると思うのか?」


 僕の側に置いたとして、彼女は同情されるだけだ。女としての幸せを、彼女に与えられるわけがない。


「知らねえよ。俺はうまい飯とあったけえ布団があれば十分幸せだぜ? でも旦那はそうじゃねえかもしれねえし、あの嬢ちゃんだってそう。何を求めて何が満たされれば幸せなのかは本人しか分からん」


「それは……」


 そう言われれば、確かにそうなのだが。


「じゃ、俺は帰るぜ。また何かあれば、すぐ呼んでくれよな」


 そう言って、チェニールは音もなく、素早く姿を消した。……窓が少し開いている。今日は窓から帰って行ったのだろう。


「さて……」


 彼女に、このことをどう伝えようか。僕は珍しく、言葉を探すのだった。

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