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本当の姿②

「(…バレてる?!)」


 体は強ばり、呼吸が浅く速くなっていくのを感じた。

 ゆっくり、ゆっくり、深呼吸をしてから叱られてしまうかと不安そうにティミスに視線をやると、特に変化は無い。あれ?と周りを見渡したら使用人たちも「他にも魔法使ってたの?」という不思議そうな顔をしていた。

 使用人たち全てが魔法を使えるわけではなく、どこに使用されているのかなど判別は普通はできない。だが、ティミスは魔法大国と言われている帝国の皇子。何かしらのスキルを持って、あるいは道具を持って、ナーサディアの魔法を感知したのかもしれない。

 色を隠していることをこうして知らされても、使用人たちは怒る気配は一切なく、思いがけない全員の反応にナーサディアだけが目をぱちくりとさせていた。


「大丈夫だよ、ナーサディア。ここには、君に害為す人間なんて居ないんだ。怖がらないで」


 ティミスの言葉に、使用人たちも微笑んで頷く。塔の生活で萎縮しきり、自分をすっかり隠し通すことが得意になってしまったナーサディアの心を、少しずつでも解きほぐしてあげたかった。見事に全員、同じことを現在進行形で思っていたのだ。


『母』という立場で精神的にも、時には肉体的にもナーサディアを痛めつけたエディルは、王宮内の客室(ここ)までは入って来られない。

 更に、この部屋はティミスが滞在するものとして用意された貴賓室でもある。入ってくる資格があるのは、国王夫妻、あるいは王太子くらいだろう。ベアトリーチェがもしかしたら双子だから、という理由で来るかもしれないが、少し前に相当な拒絶をしていることから、そうホイホイと来るとも思えなかった。


「…隠して、ます。髪の色と、目の色…」


 だからこそ、ナーサディアはポツリと。とても小さい声ながらも、隠していたことを素直に告げた。

 本来の髪色と目の色からかけ離れてしまった自分の色を見て、気持ち悪いと思われたくない。化け物と言われたくない一心で、必死に隠していたのだ。

 膝の上に置いた手をきつく握り、体はガチガチに強ばっていたが、ナーサディアにとっては精一杯の勇気。

 今までこうしてエディルに対しての隠しごとを話せば、容赦なくぶたれたし、酷い言葉を浴びせられ続けた。


『化け物のくせに隠しごとをする悪知恵は働くのね!』

『本当に忌々しい子。隠しごとをするということは、それが後ろめたいからでしょう?!』


 そんなつもりはないのに、母に叱られたくなくて、怒鳴り声を聞きたくなくて、耳を塞いだら更に酷く罵声が飛ばされる。

 そして、頬を思いきり叩かれた。


 思い出すだけで体は強ばり、うまく呼吸もできなくなってしまう。


 そんなナーサディアの様子をいち早く察していたティミスは、自分の手を、彼女の小さな手に重ねた。


「大丈夫。…大丈夫だよ。ここには、君の味方しかいないからね」


 静かな、とても柔らかい声音に少しだけナーサディアの緊張が解れた気がした。

 最初から、ずうっとティミスはナーサディアに対しては優しい言葉しかかけない。追い詰めるようなことも言わない。そして、何より視線がとても優しい。


「……っ」


「今まで怖かったね。…苦しかったね。…もう大丈夫、これからは僕や…彼ら、そしてカレアムの皆がいるよ」


 この国の人達が使用人以外に含まれていないのは、決別するから。含んでやる必要もないし、たった一人の女の子があんな場所に閉じ込められて、身内からの愛情がほぼ一切与えられない中で育てられてきたのだ。しかも、その親は自分のエゴのためだけにナーサディアをあの塔へ追いやった。

 使用人たちは逆らえば己の仕事がなくなるから、不満を言いたくとも言えなかっただろうが、ティミスは違う。

 ナーサディアをここに連れてきて、まだ数時間しか経っていないが、早々に補佐官に命じていたのだ。ハミル侯爵家がこれまで周りから徹底的に隠して何をしてきたのかを。


 そして巧妙に隠されていたナーサディアの存在が分かり、そこから芋づる式にあの両親が今までやってきたことが分かった。ベアトリーチェがナーサディアを助けられなくて仕方なかったのかもしれないが、それでもたった一人の姉妹なのだから少しでもどうにかできなかったのか、と。何も行動せず、愛される存在であり続ける彼女ですら、ティミスの怒りの対象になった。


「ナーサディア、嫌ならそのままでいい。でも、魔力消費がもしも辛いなら…僕たちの前でだけは、無理しなくて良いんだよ」


「…………」


 ふる、とナーサディアは首を横に振って『辛くない』と意思表示してみせた。

 そして、深呼吸をしながら魔法を解除する。


 ぱりん、という小さな音とともに、頭のてっぺんからナーサディアの髪色がみるみると変わっていく。

 現れたのは見事なプラチナゴールドの髪に薄い金色が混ざった、けれどほぼ白に近い限りなく淡い金目。


「すごい…」


 恐怖でもなく畏怖でもなく、その場にいる全員が彼女に見惚れた。


「……宝石の色に近くなる、とは聞いていたけれど…見事だね…これは……」


 ティミスも、ナーサディアの髪色と目の色に思わずほぅ、と感嘆の吐息を零す。


「気持ち悪く、ない…ですか」


「え?全然?」


 あっさり言われ、ナーサディアが目を丸くした。

 慌てて使用人たちに視線をやると、彼らも同様に頷いている。


「ど、して」


「何で気持ち悪いの?綺麗なのに」


「綺麗…?」


 言われたことのない台詞の数々に、優しい声音、おまけに皆からのあまりに温かい雰囲気。


 これまで冷遇されきっていたナーサディアの精神は、別の意味で限界を迎え、ぐるぐると視界が回った後、ソファにそのまま倒れ込んでしまった。


「な、ナーサディア?!」


「お嬢様ー!!」


 ぱったりと倒れたナーサディアの額に触れると、とんでもなく熱かった。


「…環境の変化と…雰囲気の変化に、耐えきれなかった、かな…」


「恐らく…」


 メイド達が慌てて冷水とタオルを手配してもらい、老執事がそっとナーサディアの体を抱き上げて運び、ベッドに寝かせた。


「恐れながら。…ティミス殿下が運ばれても良かったのでは…」


「まだ駄目だよ。婚約者でもないのに触れたりしたら、彼女に対して失礼だ」


「……承知致しました。そして、無礼極まりない我が発言、お許しくださいませ」


「無礼とか思ってないよ。君たちは本当にナーサディアをよく守ってくれた。カレアムに行ってからもよろしく頼むよ。もうすぐ僕の護衛騎士もやってくる。君たちも休みなよ」


「…はい、かしこまりました」


 ベッドの脇に椅子を持ってきて、ティミス自らナーサディアの額のタオルを取り替える。

 傍付きのメイドは慌てていたが、ナーサディアに対するティミスの様子を見ていただけに止めることもできず、何かあった時のために傍に控えた。



 一時間も経過しないうちに室内に魔法陣が展開され、カレアムからのティミスの護衛騎士が五人ほど到着するのだが、自ら病人の世話をしている様子に全員が硬直したことは言うまでもない。

優しさの過剰摂取でぶっ倒れたナーサディア(´・ω・`)

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