~summer memory~
――—――—目が覚めると、たくさんのひまわりに見つめられていた。
どうやらいつのまにか寝てしまったらしい。あぜ道に入り、バスの揺れが激しくなってきていた。
照り付ける太陽が腕に当たり、バスの中でも日焼けしそうだ。外に出たら運動不足のオレには5分と歩けないだろう。
夢を見ていた。子供のころの夢。普段は都会に住んでいるオレだが、夏休みになると実家のある遠い田舎によく行ったものだ。そこでは地元の子どもと川で泳いだり、おじいちゃんの田んぼの手伝いをしたりと田舎でしかできないような様々な遊びに夢中になった。しかし、高校生頃になるといつのまにか実家に帰ることは減り、大学生になった今、約5年ぶりの帰郷となる。
窓の縁にひじを下ろし、もうひと眠りしようとした。揺れのせいでもうあの心地よい眠りには戻れそうにない。襲い掛かる眠気と照り付ける太陽と戦いながらオレは目を閉じた。
目を閉じるその瞬間、ふと窓の外に目がいった。ひまわり畑のなかでその存在は異色を放っていた。
風に吹かれ、長い黒髪が揺れている。伏し目がちに下を見ているが、その肌の白さと整った顔からは彼女の可憐さが伺い知れた。そして、なにより今の時代には似つかわしくない白いワンピースと麦わら帽子。絵画の世界から出てきたような不思議な魅力を感じた。
「次は三ツ谷~次は三ツ谷~」
運転手の声で我に返り、前方の電光掲示板を見るとどうやらまもなく目的地に着くようだ。急いで降車ボタンを押す。もう一度窓の外に目をやると既にあの少女は消えていた。こちらはバスなので当たり前だが。
「可愛い子だったな・・・」
思わず声に出ていることに気づき急いで周りを見渡すが乗客はまばらでおじいちゃんとおばあちゃんしかいなかった。誰も気づいてないらしい。よかった・・・。
オレはリュックを背負いバスを降りた。
5年ぶりの『三ツ谷』オレはある目的を果たすためここに来た。