表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/19

娘と父2

「堪子?」


 また名前を呼ばれ、堪子は慌ててドアを開けた。

 そこには少し疲れた顔を父親が立っていた。


「お、おかえり」


 堪子は、言い慣れているはずのその言葉をぎこちなく言った。


「ただいま。堪子、少し話せるかな?」


 父親の提案に、堪子は小さく頷いた。

 ベッドの端に、はじめて二人で座った。落ち着かなかった。


「こうして話すのは、はじめてだな」


 父親も同じのようだった。

 堪子の目を見ようとするも、どこか視線が定まらない。何から話せばいいのか迷っているようだった。

 しかし、意を決したように娘の方を見た。


「堪子、ごめんな」

「え……?」


 父親からの突然の謝罪に、堪子はまずます動揺した。

 父親が、ゆっくりと話す。


「お母さんから聞いたよ。学校から電話がかかってきたって」


 謝罪の理由はなんだろう。

 堪子は父親の言葉に集中した。


「俺達が卓哉のことばかり構っていたからかな? そんなことをしたのは……」

「そんなこと?」


 訊かずにはいられなかった。

 堪子の疑問に、父親はまた噛み締めるように言う。


「他のお子さんに、水をかけたって。何か不満があるんだろう?」

「……私は、やっていないよ」


 込み上げる悲しさに、堪子の声は震えていた。

 父親が困惑する。


「嘘は吐かなくていい。怒っているわけじゃないんだ。知りたいから……」

「何を知りたいの?」

「え……?」


 悲しみはやがて苛立ちに変わっていく。

 堪子の暗い声音と視線に、父親は完全に気圧されていた。


「ど、どうしてそんなことをしたのかっていう理由をさ、話してくれないか?」

「やってないって言っているのに? 私の言葉を信じてくれないお父さんに、どう話せって言うの?」

「そっ、それは……」


 何もかもがバラバラだ。

 我慢していたのは、自分だけだった。

 堪子はすっと立ち上がった。


「堪子?」


 弱々しい父親の声がした。

 それには答えず、堪子は部屋を出た。階段を下りれば、母親が怯えた顔でリビングから出てきた。

 堪子は何も言えなかった。

 玄関に向かう娘の背中に、母親は「どこへ?」と小さく呟いた。

 どこにも行けない。

 でも、ここではない場所へ行きたかった。今いる場所は、ここではない気がしていた。

 堪子は少しだけ母親に振り向いて、家を出たのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ