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友人の言葉4

 背に受けたその声。


 堪子は、振り返りたかったが、なぜか――どうしてだが、緊張と歓喜と若干の恐怖とが綯い交ぜになった感情からか動けなかった。


 いや、金縛りなのかもしれない。

 だって、彼女はお化けだから。


『変なとこで真面目なんだからさ。せっかく自分で選択して、相談できる人もできて、素敵な時間を過ごせているのに。生きている者とあたし達は違うんだから、もう忘れていいんだよ』

「忘れるわけない!」


 堪子は窓枠をグッと掴み、大声で叫んだ。

 振り返ることは、やはりできなかった。

 でも、言葉は彼女に届いていたのだと、嬉しくて涙が出た。

 気配が苦笑した。


『もう。強がりなくせに泣き虫ね、タエは』

「嬉しいのよ……!」


 窓の向こう側を見ているのに、赤いワンピースを着て、ちょっと小生意気な可愛い笑みを浮かべた少女と向き合っている気分だった。


『大きくなったね、タエ』

「体だけね。心は……なかなか追い付かなくて」

『いいんじゃない。自分は大人だからって威張ってる奴よりよっぽどいいわ』


 花子の長い黒髪が、さらりと揺れた気がした。


『動画、良いじゃん。でもあたし、爬虫類は食べたくないなぁ』

「けっ、結構美味しいのよ!」

『ささ身みたいって言ってたけど、ほんとなの?』

「うん! 私も、さすがにタランチュラは食べるのに五分くらい迷ったけど……」

『げげぇ……それ、蜘蛛でしょ……うげぇ』

「味は美味しかったよ」

『食べたの⁉』

「行った先の郷土料理は必ず食べるがモットーなの」

『プロ根性ねぇ。お祭りもいいなぁ! あの踊り、こう? こんな感じ?』


 声を弾ませている花子は、目はキラキラさせながら動画内で紹介している祭りの踊りを真似しているのだろう。


『今度、みんなに見せてあげよっと!』


 堪子も思わず笑ってしまった。

 笑っているのに、なぜか涙が出てしまう。

 ずっとこの時が続けばいいのに、と願ってしまう。


『タエ、良いお仕事してるじゃん』

「花子」


 声が震え、口の端からしょっぱい雫が滑り込んでくる。


「私……新しい世界に飛び込んだのかな、それとも……自分の世界に逃げ込んだのかな?」


 堪子は、滲む窓の向こう側を見ながら言った。

 それが不安だった。

 匿名の心無いコメントや知人からの白い目は、徐々に堪子を蝕んでいたのだ。

 それに、気付いた。


「また……怖くなっちゃったの……」


 この歳になっても、涙は子どもの頃と変わらずに流れていく。

 理解をしてくれる家族だから、その不安は言えなかったし、常に新しいことを模索し合う仲間にもこれだけは言えなかった。

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