本当の自分3
堪子の心に、もやもやと影が蠢く。
「花子が余計なことしなければ……私は、水をかけられるだけで済んだのに……」
それを皮切りに、堪子の不満はまるであの黒い突風のように爆発してしまった。
「花子があんな風にあの子達を追い払ったりしなければ、私のせいにされなかった……! 誰も私のことなんて信じてくれない……花子が邪魔しなければ、私は楽になれたのに……! お父さんも、お母さんも、先生も……! 誰も信じたくない!」
浅い息で言い切った時には、さっきまでの轟音が嘘のように静まり返っていた。
辺りは暗闇そのものだった。
花子の長い黒髪と赤いワンピースが、それでも静かに揺れているとはっきり分かる。
それを見ていると、また涙が溢れてきた。
今度は後悔だった。
「ごっ……ごめん……ごめんなさい……」
放ってしまった言葉は、もう戻ってこない。
それは、堪子が一番知っていることだ。自分に放たれた乱暴な言葉達にどれだけ傷付けられたか知っているはずなのに、自分も同じことをしてしまった。
堪子は、蹲って泣いた。
「ごめんなさい、花子……私……あの子達とおんなじだ……」
誰も信じられない。その気持ちが消えない。
人への恐怖心が、波のように押し寄せては、一旦引いて、また押し寄せる。
それが、堪子の心を蝕んでいった。
暗闇が唯一の味方だと思えるほど、前にあるかもしれない光が恐ろしい。
顔を上げられなかった。
声が聞こえてくる。
『タエは、なぁんにも悪くないわ』
堪子が思っていた言葉でないものだった。
恐る恐る顔を上げれば、花子が目の前で膝をついていた。
「は、花子……」
『もう、なんて顔してんのよ?』
そう言った花子の顔も、苦笑気味で悲しそうだった。
『あたしの考えが至らなかったせいよ。タエがあたしを責めるのも当然』
花子はそう言って、堪子の頬に手を当てた。触れた感覚は全くない。
しかし、温もりを感じた気がした。
『本当はね、タエにこっちへ来てほしいんだ』
「え……?」
にやっと笑った花子の顔に、堪子は一瞬だけ凍り付いた。
が、すぐに彼女は微笑み、堪子の不安までゆっくりと溶かしていく。
『だって、タエは面白いんだもん。タエとはじめて会った時、友達になりたいって思ったの。だから、今日だって助けた』
思ったよりも小さな手を堪子は感じていた。
『もちろん、あたしはもう友達って思ってるけど、タエに信じてほしくてさ』
堪子は、保健室のことを思い出していた。
担任に咄嗟だったが言った言葉だ。
確かに……私の友達が……
自分も花子のことを友達だと思っている。
花子のことを信じている。
唯一の友達だから。




