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お化けの少女1

こちらの本編は「トイレのはなこさん達」になりますが、本編を読まなくてもお楽しみいただけます。

 児童達の賑やかな声が徐々に引いていく放課後。夏に差し掛かろうかという時期にも拘わらず校内はどこか冷たく、人気がなくなるにつれ、西日が学校の至る所に影を作っていった。

 それが、昼から夕刻の姿へそこを変えていく。

 それでも、三階のトイレの三番目の個室のドアは閉まったままだった。

 便座に座り、青島堪子(あおしまたえこ)は膝の上で両拳を握り締める。

 目頭がじわじわと熱くなり、涙が勝手に溢れ出していた。


「ッ……泣いちゃダメ」


 泣かないと決めたのに。

 負けないと決めた。

 それなのに、思えば思うほど瞳からぽろぽろ零れた涙は頬を伝い、拳に落ちていく。


(もう……嫌だよ……あたし、何か悪いことした?)


 自らの嗚咽と浅い呼吸音が、この学校の、いや世界のすべての音のように思えた。


(みんなに嫌われるようなこと……したの?)


 考えても答えはない。

 でも事実、堪子は五年一組のほぼ全員から無視をされていた。

 挨拶をしても返事はない。落ちた消しゴムは踏みつけられ、拾いたいから足をどけてとお願いしても聞いてもらえない。提出物も受け取ってもらえないから、先生に渡しそびれたと嘘を吐き、直接渡した。

 それは二か月ほど続いている。

 そして今日、無視から『言葉の暴力』へと変わった。

 朝、勇気を出して教室の扉を開けた瞬間。


『ちょっと、なんか臭いんだけど?』


 堪子は最初耳を疑った。

 それは、リーダー格の女子からだった。それが自分に言われていることだと理解するのに、時間がかかった。

 周りのクラスメイトのくすくすとした嘲笑が、堪子の頭を現実に引き戻したのだ。

 それからクラスの中で、『臭い』が流行語になった。

 堪子が傍を通る度に、その言葉は教室内を木霊した。

 誰かのその言葉を聞く度に、堪子の心臓はドクドクと脈打ち、頭の中は真っ白と真っ暗を交互に繰り返した。

 それは視界にも影響があったほどだ。授業中に黒板の文字が分からなかった。いや、理解するのに時間がかかると言った方が正しい。堪子の席は、一番前の窓側だ。視力は良いし、普段ならば難なく溶ける算数の体積計算も国語の四字熟語も、ただの文字の羅列に見えていた。字が綺麗なはずの担任の書いた文章や計算式が分からず、当てられても言葉が上手く出てこなかった。


『さっき、説明したことだけど……青島さん、分からなかったかな? 青島さんならできるはずなんだけど』


 苦笑する担任のその言葉は、堪子にとってとても優しく、惨めになるものだった。

 誰かがまたくすくすと嗤っていた。普段は無視なのに。間違えれば一気に注目される。それが怖かった。

 でも、担任に相談は決してできない。してはいけない気がした。

 ものすごく辛いのに、何を言っていいのか分からない。無視をされているという自分の言葉を担任が信じてくれるとは限らない。もし信じてもらえなかったら、その時また自分は辛い気持ちになるのだろうと思った。

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