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変な人白書  作者: 紅頭マムシ
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第七十六話 トリック オア トリート上等

 今日はハッピーハロウィンデーだ。私はハッピーハロウィンが大好きさ。

 トリックオアトリートとは、お菓子をくれないといたずらするぞという意味だそうな。そいつは良いじゃないか。私はお菓子も子供がするいたずらも大好きさ。かぼちゃも好きだし、何かと理由をつけてワイワイ盛り上がりたい暇人達に見る大衆心理だって好きさ。だから私もしっかり付き合うのだ。ハロウィンは私を熱くさせてくれる。


 ピンポン。呼び鈴が響く。

 補聴器の調子はバッチリ。加齢と共に段々聞こえづらくなるとされる高い音もしっかりお耳がチャッチしている。

 扉を開けて心から迎え入れよう。いたずらな天使をね。


「トリックオアトリート!」


 元気な子供達からお菓子をくれないといたずらする宣言が飛び出した。上等じゃないか。

 こちらは年金を貰うまで働いた長い期間の中で、ばら撒く菓子の準備はもちろん、いたずらを受け止める寛大な心の準備だって出来ている。

 この私にも若い時分には太陽が昇った、または沈んだだけで切れ散らかすような暴れた時代があったものだ。あの当時には、鞘の無い妖刀のごとく誰にでも何にでも噛みついては切り裂く尖りようだった。

 そんな時期を経て迎えた今となっては、いつだって凪の海のごとく穏やかな心で日々を過ごすことが出来るようになった。

 人は変わる。中でも私には一層それが可能。それが分かる半生だった。これから先もまだまだ生きちゃうもんね!


「おうおう、なんとも可愛い子供達よ。お菓子ならたんとあるぞ。こいつはもちろんたんまりくれてやる。でもね、私は元気で可愛い子供がいたずらをするのを見るのが好きなんだ。お菓子をもらったからには、とびっきりのいたずらも見せてくれないか」


 私はかの地方における最強のお茶請けと呼ばれた和菓子をばらまいた。子供達はさっそくそれを食している。


「不味くはなく美味しいけど、なんて渋いんだ。チョコや飴じゃないのか……」

 子供達は初めて味わう地方最強の味に舌鼓を打ちつつ、味覚的未知との遭遇をも楽しんでいた。若いってのは新鮮さの連続で日々楽しくて良いよな。


「さぁ子供達よ、菓子を食って元気な命がもっと元気になった所で見せてくれ。とびっきりのいたずらを!」

 私はいたずらを食らうのが楽しみで仕方なかった。おかげで昨日は眠りが浅かったぞ。


 ここで一番元気そうな男の子が一歩踏み出した。さぁ何をしてくれるのやら。

 その子はリュックからトイレットペーパーを取り出すと、私の周りをぐるぐる回ってペーパーで私をぐるぐる巻きにした。丁寧に上から順番に巻いてくれるから、彼の身長が届く範囲で私の体はトイレットペーパー巻き人間になってしまった。


「なんてエキセントリックないたずらを考えるのだ。普段は尻でしか感じないペーパーの柔らさと温もりを全身で感じる良きハロウィンになった!」

 私は普段の仕事場を離れて活躍するトイレットペーパーに感謝した。


 さてさて次はどの子が何をしてくれるのやら。


「僕はコレをこうしちゃうぞ」

 その元気な僕は、私が庭に干していたパンツを物干し竿から取ると、代わりになんとも華やかなパンツを同じ場所に干した。


「ほうほう、これはまた華やかでおしゃれで今時の芸術センスが落とし込まれたおニューのおパンティだこと」

 私はおニューのおパンティを手に取って評論した。


「へへっ、それはウチの姉ちゃんのだ」

 ありがたい情報が子供の口より飛び出た。

 こんなに幼い子から見たお姉さんということは、そりゃもう海から港に持って帰って来たばかりの鮮魚のごとくピチピチに決まっておる。


「おぉ、こんなくたびれた老人の尻を日々覆うことで、同じくどっぷりと生地がくたびれてしまったパンツが瞬時に華やかなギャル仕様になった。このすり替え行為はいたずらと言えばいたずらだが、考え方によっては天使の落とし物だぞぃ。バラエティさがあれば幸福度も高いなかなかハイレベルないたずらだ」

 興奮気味のためか、普段はクールなロートルをやっている私も饒舌になってしまう。こうしてお祭りはその時だけ人を変えてくれるから人生の中で良い刺激となるのだ。


 お次は眼鏡の利発そうな子が出てきたぞ。


「僕が出来る限りの芸術的いたずらをお見せしましょう」

 メガネを指でクイッと上げながらインテリボーイは自信満々で言う。


 この服を着てくれと彼が渡してくるので私はそれに従った。


「僕は今日という日にマッチするトリックアートを嗜んでいます。ただのシャツに思えますが、この距離で見てみると……」


「あっ、おっぱいだぁ!」

 子供達はおっぱいを見つけた。


「本当だ。私におっぱいが、しかも張りの良い巨乳が実ったかのように見えるじゃないか!しかし触れば真っ平らだ」


 不思議だ。反射率の高い我が家の綺麗な窓に映る自分の姿を見れば、おっぱいが盛られて飛び出たように見える。しかも肌色のシャツで乳首も開放状態に見える。ちゃんと着ているのに、人から見れば何も着ていない裸に見える。

 裸の王様が騙されたあの話を本当の事にするかのような、現代的な芸術センスとユーモアが合わさった新時代いたずらファッションだ。この服はバカでもアホでも誰が見ても裸に見えるよう工夫された作りになっている。素晴らしい。


「はっはは!これは一級芸術いたらずらだな~」


 面白い!いたずらは面白いなぁ~。

 他にも彼らは数多のいたずらを見せてくれた。

 我が家の呼び鈴のピンポンがセクシーなお姉さんの喘ぎ声に変えられる。家窓に助けを求めている人質少女に見えるフィルムを貼り、外から見た人が勘違いするように設置する。玄関に「ココ世界遺産」と書いている看板を置かれる。年齢に似合わない可愛い三つ編みのかつらを被せられるなどなど、色んな楽しいいたずらが飛び出した。


「はぁはぁ……もっとだ、もっといたずらをくれぇ。菓子が欲しいならまだまだあるぞ!」

 私は我を忘れそうなくらい高ぶっていた。だが私くらいの年齢になれば最後には冷静さを残しているので、忘れそうにはなってもしっかり忘れ切ることはない。


 そうして楽しんでいると、いつしか目の前には、子供がすっかり大きくなって制服を着た大人の姿が見えるようになった。


「ややっ、これはどういったいたずらトリックだろうか。小さな子供のはずが、齢20代半ばのお兄さんにしか見えん」

「ええ、確かに私は今年26になったここらをパトロールしている警察ですよ」


 お菓子もいたずらもない。法の番人様が訪ねて来たぞ。


「あなたもお菓子を所望で?それともいたずらをかましたい方ですかね?」

「いえ、甘いものは苦手です。自分は、ちょっと様子が変ないたずら好きおじさんがいるからと

聞いたもので、どう様子が変なのか、そこの所の様子を伺いに来たのです」

「へぇ、そうですか。このお菓子といたずらで賑わう宴の中、そりゃご苦労なことで」

 

 お菓子もいたずらも何でも程々にってことだな。

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