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変な人白書  作者: 紅頭マムシ
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第七十話 恐怖!ママ人間現わる

 時は20☓☓年。我々の地上を侵略する新勢力が襲来した。

 そんな時にもあんな時にも、時代に関係なくやはりいるものがある。それというのが暇な浪人生である。

 その日、冴えないを絵にしたかのような浪人生の村田とタニヤンは、恐ろしき影を見たのである。そう、ママ人間である。


「うひゃ~見てみろよ村田。あれが噂が噂を呼んで全国区になったママ人間だぜ」

 

 タニヤンが指差す先は繁華街のど真ん中。そこでママ人間は今日も順調に侵略行為を進めていた。


「ああ、あれが例の……噂が独り歩きしすぎた結果もはやパパではないかとまで言われたママ人間かぁ」

 

 村田には目に映るのがママなのかパパなのかパッと判別出来ない。そのレベルで不確かな噂による不確かな理解しかない。ママ人間はまだまだ人類にとって謎のママの化身なのである。


「見てみろ村田。また一人、母性を求めて時の迷子となったお母さん子がママ人間の虜になったぜ」


 ママ人間。その生態は謎である。

 あらゆる角度から見てもザ・ママにしか見えないが、従来の人類とは異なる異星人の扱いなのだ。

 

「あんなママママしいヤツがいったいどこからこの地上に来たというのだ」

「そいつはなアレで来たのさ」

 

 村田の問いに対してタニヤンは素早く回答する。タニヤンが指さした先には、地面を突き破ってひょっこり顔を出したまるで電話ボックスのような四角い部屋があった。


「あれは……なんだ?どういうことだ?まるでエレベーターの中の部屋が地面からこんにちわしたみたいな」


 村田の言う通りで、ママ人間は地下からあのようにエレベーター式の箱に入って地上にこんにちわするのである。ちなみに現在の時刻は18時を周っているので、そろそろこんばんわの時間帯だ。


「奴らの狙いは人類総息子or娘化だ。見てみろ、にじみ出る濃い母性がもはや具現化されて見える」


 タニヤンが言う通り、確かに霧か靄のように、何かがそこにあり、それが人間を包みこんでいるように見える。


「あれがママ成分となって寂しく孤独な現代人を包み込む。するとどうだ。あのように皆安心しきった緩み顔になってママの母性に取り込まれていくのだ」


 ママ人間の侵略に暴力による恐怖はゼロだ。ただ極上の「母のやすらぎ」を相手に与えることで、全てを癒し骨抜きにする。それまでどんなに好戦的意志があっても、ママ人間の極上のママ感にあてられたらどこの狂戦士でもまるで子猫ちゃんのように可愛い我が子と化してしまうのだ。

 そうして対象を息子化、または娘化したのをママ人間はどこかへに連れ帰るのだ。

 ママ人間が我が子にする対象は何も若い男女に限らない。ママ人間よりも年上に見えるおっさん、おばさん、じいさん、ばあさん含め何でも我が子へと変えてしまう。犬や猫でもその対象にしてしまったという例もどこかで聞こえるくらいだった。


「見たかよ村田。あのように人類から好戦的意志を取り除き骨抜きにしてしまう。相手を制圧するなら暴力による恐怖を用いるのが最も手早い。だがな、それを越えて真に恐ろしきは、恐怖を用いない驚異的侵略なんだよ。いや本来ある恐怖を感じさせない程に全てをだまくらかすママの精度ってのがマジに怖いことなのかもしれない。いずれにせよこんなに恐ろしいことはないぜ。街の端っこに事務所を構えるヤクザのおっさんが可愛く見える程だ……」


 タニヤン、何言ってんの?と思う村田だったが、そこは何もツッコまずにいることにした。だって面倒臭いもの。


「あぁ、ヤバい。こうしてママを語る内に俺もっ!」


 タニヤンの足がゆっくりと進む。進む先はママ人間が固まる場だ。今日は5人程で固まっている。


「そうか、母親なんてうるせぇババアくらいに思っていたこの俺も、本当のところでは浪人生という立場に焦る心を癒してくれる母の愛を欲していたというのか。孤独だな、孤独がそれを求めるのだ。そう、母のくれる無限の安らぎを。そいつは金じゃ買えねぇ。他じゃ替えも効かない。唯一無二の癒しなのだ」


 そう悟ったままタニヤンは、闇の中に灯りを見つけた羽虫のごとくママという名の光に吸い込まれて行くのだった。


「タニヤン!タニヤン!しっかりしろ!俺達浪人生が焦りや孤独に負けたら全て終わりだ。さっさと進学した奴には無くて、俺達が戦って掴み取ったのが焦りや孤独に立ち向かう鋼のメンタルだろ!鋼が簡単に溶けて負けるようじゃ、全国何万といる浪人生の仲間達に顔向けが出来ねぇ!戦うんだタニヤン。己の中の孤独と!母に甘えたくなる孤独からの甘えと決別するんだ!」


 かつてあれほど煌々と輝いていたタニヤンの目の中の光がどんどんその輝きを無くしていく。村田にはそれが恐ろしきカウントダウンかのように感じられた。


「しっかりしろ!お前のママはあいつらじゃない!田舎のボロい実家に住んでいる仏頂面したパンチパーマがお前のママだろ!しっかりしろ」


 村田はタニヤンの顎にグーパンを食らわせた。


「うぉぉ!おふくろぉぉ!そうだ、おふくろだ。仏頂面のパンチパーマ。あいつらはストレートヘアじゃないか。アレはおふくろじゃない。真のママじゃない!おふくろは田舎の実家で俺の桜が咲く報告を待っているんだ」


 真のママとは、仏頂面のパンチパーマにこそ見出すもの。

 そしてタニヤンは、学びを深めるため親元を離れてひとり暮らしをしながら浪人生をしていたのだった。


「村田ぁ、すまねぇ。俺としたことがなんて情けない。穴があったら入りたい、無いなら掘ってからでも潜りたい」

 

 タニヤンは意外と体育系のノリだった。


「ふぅ帰ろうか。俺達に必要なのはママによる甘えじゃない。勉学だ。さぁ、このぶっといドリルを持てよタニヤン」

「おいおい、最近はドリルとか言わないだろ。工事でもするのかよ。ワークとかテキストって言うんじゃないか」


 二人はママ人間に背を向けて勉学の道を進んだ。


 母がくれる安らぎに用がある。それは皆がそうだ。だがそれが要るのは今ではない。今はそこに甘えてはいけない。

 母とは帰るべき故郷でもあるが、同時に越えて行かなければならない谷なり山にもなる。甘えを捨ててそこを越えた者が真に良き息子、または娘へとなっていくのである。


 ママ人間は見た目こそどこからどう見ても一家庭のママ感がすごい、えぐい。映像でお届け出来ないのが残念である。

 しかしどこまで行っても紛い物であり、奴らの中に真に子を持つママは一人としていないのだ。

 全てがメスで全てが恐ろしいほどの安らぎある包容力を持つ。それがママ人間の真実だ。持て余した母性を注いで発散する先を求め、地下や地上を彷徨う悲しき母性の生物でもあった。


 この世は母の母性とそれを求める子の需要と供給がバッチリ合ってこそ上手く回るのだ。有り余る母性は、ことによると暴力に勝る恐怖や害悪になるのかもしれない。

 物は考えようだ。そしてとにかく浪人生は頑張れ!

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