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変な人白書  作者: 紅頭マムシ
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第五十八話 ザ・ロマン~その聖なる衣は一体誰の秘部を覆っている?~

 面倒臭い。マジで面倒臭い。服の洗濯ってどうしてこんなに面倒臭いのだ。21世紀に入ってこれだけの時間が経ったのに、20世紀から続投で未だに面倒臭い。そろろろ面倒臭いも次の快適なステージへと移行しても良いのではないだろうか。俺は面倒臭いから何もしないけど、心から洗濯が面倒臭いと思っている科学脳を持つ人間は、洗濯の面倒臭いから脱却できる素晴らしい発明を作ってくれないかな。もうここまで面倒臭いといちいち面倒臭いと思うのがもう面倒臭い。ていうか数段落の間に一体何回面倒臭いと思ったのだろう。もう面倒臭いのワードだらけで圧迫される脳味噌と付き合って残りの人生を歩むのも面倒臭い。はぁ~疲れる毎日。


 しっかり面倒臭いとは思えど、汚くあることをスルーできるだけの寛容さというか鈍感さは持ち合わせてはいない。面倒臭がりのくせして俺は綺麗好きなのだ。

 あれ?ということはよくよく考えると面倒臭がりでもないような気がしないでもないが、そこらへんの判断もやっぱり面倒臭いからこの話題はこれでおしまい。


 汚いのは嫌だから着た服はしっかりクリーニングだ。洗濯物をしっかり溜めたら最寄りのコインランドリーにGO。

 お店に入る。

 これも一種のルーティーンてやつで、俺はいつも奥から数えて3番目の機体を使用する。かつて背中にナンバー3を背負うミスターベースボールと呼ばれる男がいただろう。あれにあやかってこうなった。偉大なる先人からのご利益は、頂けるだけ頂いてしまった方が良い。

 もしも3番目が先客に使われていた場合は、マジでどうでも良くなってルーティーンは崩れる。そうなったら空いているのをどれでも適当に選ぶ。降って湧いたようなルーティーンで自分をガチガチに縛ることは、無駄なストレスとなって良くない。ルーティーンとはいえど、都合が悪ければスムーズに無視してやり過ごす。それもまた俺のルーティーンだった。


 今日はお気に入りの3番目が空いているぜ。汚れた服を突っ込んでいざ回転。

 3番機の中の世界はぐるぐると周り出す。なぜだろうか、この穏やかな回転を見ていると、俺の心も同時に洗われるような気になる。

 お風呂でふいに出来る渦や海に見る渦潮など、渦巻きを見ているととても落ち着くのだ。ぐるぐるキャンディーとかもそうだ。

 人は本能的に渦に癒やしを見出すよう神様にインプットされたのかもしれない。誰かそういう論文とか出していないのかな。


 俺の洗濯物には、白と黒の二色くらいしかない。そこに一瞬明るい色が見えた。赤、いやピンクか。なんだろう。そんなに明るい色の衣を身にまとう事はないと思うのだが。そんな事を思っていると携帯電話が鳴った。

 出てみよう。相手はお兄ちゃんだった。


 久しぶりにサザンオールスターズのCDを聴いてノリノリになろうと思ったらケースの中身がGLAYになっている。仕方がないからとそっちを聴いても、ノリノリになりたいという用事はクリア出来た。でもやっぱり本物が欲しいと言っている。こうしてケースと中身をあべこべにした雑な保管方法を取るのはお前しかいない。サザンのCDはどこだ。出せ。

 という内容の連絡だった。確かにサザンもGLAYも人をノリノリにさせる音楽的才能集団だものな。メンバーの年齢、楽曲ジャンルは違えど、人々に与える効果は一緒だもの。こうして様々ある音楽ってのは、読んで字の如く「音で楽しませる」の概念で全作が根っこの部分で共通している。素晴らしい芸術であり、娯楽でもある。そのことに俺は感動したんだ。

 でもサザンのCDの在り処は残念ながら覚えていない。どうしても出てこなかったら弁償すると返答した。お兄ちゃんの持ち物だったけど適当な扱いをしちゃってごめん。


 電話が終わったところで洗濯も終わった。中身を取り出してカバンに詰める。ここでおかしい事に気づいた。さっき見えたピンク色の正体だ。


「これは……ブラだな」


 手にとって広げると分かった。女性が乳首を覆うための衣である。


 表面の装飾は華やかで、ただピンク色の生地で縫い合わただけでなく、ヒラヒラした布を上から足している。それが段々畑みたいになっている。意外と手の込んだデザインだ。

 どうせ上着を着るから人には見えないのに、それでも女性は着飾る。見えないのなら人に対しての見栄ではない。見えていないところでもおしゃれをしている私、という要素に何か娯楽的だったり快楽的思考が働くのだろう。俺には分からないことだ。俺はパンツなんて別になんでも良いと思っている。


 こういった布切れでもきっと高額なのだろう。安物には思えない。俺の前にここへ来た女性が家についてから持ち帰っていないことに気づくとする。そうすれば高い物なのにショック~となるはずだ。なんとかして返してあげたい。こいつだって主の乳首を覆うのが我が使命と思っているだろう。使命も半ばにゴミ箱行きになればブラジャーも浮かばれない。

 

「よし!」

 俺は意気込むとギュッとブラを握った。

 そして店の奥にいるはずのオヤジを呼ぶ。


「お~いオヤジ~」

 

 オヤジは人目につきにくい奥の方でパチンコ雑誌を呼んでいた。俺の声に気づき、ゆっくりと顔を上げてこちらを見る。


「なんじゃね。お前なんて産んだ覚えないけど」

 

 オヤジの頭は正常だ。確かにこれから俺が産まれたなんて記録は、この地球上のどこを探しても出てきはしない。


「ブラの忘れ物だよ」

 オヤジに見せる。


「おおっ、忘れて雑誌を読んでいたが、さっき女の声で電話があったんだ。探しておくと答えておいて探していなかった」

 

 適当なヤツだな。


「電話番号は聞いているから、ブラがあったら折り返すことにしていたんだ。じゃあほれ」


 オヤジは手を出す。ここにブラを置けの合図らしい。


「ここに呼んでくれよ。俺が手渡したい。発見者なんだもの」

「え?お前さんがわざわざ渡すこともないだろう」

「ああ、ないぜ」


 ない。ないけども、せっかくだし、どんな人がこいつを装備していたのかを見れるなら見ておいた方が良い。そんな気がする。

 こいつのサイズだが、結構デカい。かなり逞しい果実2つを胸部に実らせた御婦人のようだ。

 真実がどうだかを予想して答え合わせをしよう。こうして持ち主を想像するのも一種のロマンだ。


「いや、考えてみれば、拾った相手を見て受け取る方が向こうも安心すると思うんだ」

「えっそうか?誰に拾われたとか分かった方が良いものなのかな」


 オヤジは落とした拾ったの間に生まれる人間関係について分かっていないので、イメージして考えているようだ。

 そうしてお前は、無駄に落として拾ってを行うだけで人生を勉強してこなかったんだな。


「オヤジは知らんだろうが、最近の人間は何でも可視化された方が良いって思っているんだよ。落とし主も拾い主も互いに顔を知りたがるってものさ」


 大衆の総意がどんなだかはまるで知らないが、それっぽいことを言ってみた。


 俺の意見に納得したオヤジは、電話を折り返した。


「すぐにもこっちに来るっていうから、お前さんが渡してやりな」

「おうよ、言われずとも」


 20分程待った。表に車が停まり、持ち主登場。


「あら~ありがとうね。お兄さんが拾ってくれたのね」

 想像と違ってなんというか、重低音な感謝の言葉。


 ズシリ、ズシリと迫る黒い影。見上げるとすごくデカいおばさんだった。


「まぁ丁寧に自ら返してくれるだなんて。なんて素敵なお兄さん、ありがとう」

 

 ハグされた。

 なるほど、こいつはそりゃデカいわけだ。胸か腹か分からないくらい前面のでっぱりがすごい。


「こんな好青年をそのまま帰すわけにも行かないわ。是非ランチでも」


 世の中そんなに甘くはない。もっと素敵にキュートな若いギャルが来る事を期待していたのだが、こんなおばさんかぁ。残念だ。


「あ、いや。ランチっていうか、良かったらサザンのCDを頂けませんかね?」

 お兄ちゃんからのリクエストだった。


「ああ、それ持ってる。もう一枚通して空で歌えるくらい聴き込んだからあげるわよ~」

 

 おばさんはサザンリスナーだった。どの方角にも彼らの声は届いている。だからどこにだってファンがいる。その事実を知れば本人達はアーティス冥利に尽きるってものだろう。


 CDを無事ゲット。それかおばさんには大変気に入られてしまい、きっちりとランチもご馳走になった。

 人から物を借りたら丁寧に扱って返す。人の物を拾えばなるたけ自分で返してあげる。そういった良い心がけで生きていれば良い事も起きるってもの。

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