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変な人白書  作者: 紅頭マムシ
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第四十八話 妹ハンター武蔵野

 タカコは容姿端麗、冷静沈着、文武両道、質実剛健を合わせ持つハイスペックJKだ。

 たくさんの物を持つ者は、それを持たない者から嫉妬されることもある。時に嫉妬心は、結果として何にもならない虚しい言動へと人を導く。


 タカコのクラスメイトには、心の荒廃したギャルが幾人かあった。同じ学校、同じ環境で育っても、個人の心の豊かさ、貧しさを決定するのは、それこそ個人の心のコンディションのみによる。だから同じ年の同性同士であっても、タカコとその他のギャル達には大きな差があった。ギャル達はタカコに対して羨望、憧憬、崇拝の眼差しを向ける一方で、それらを凌駕する大いなる嫉妬心を抱いていた。


「ちょっとあんた、最近調子に乗っていない?」

 汚ギャルの一人が言う。


 ここは学校を出てすぐの長い坂道の途中だ。時刻は16時。タカコもギャル達も学校から帰宅する途中だった。


 最近のタカコと来たら、お肌の張り、便通、勉学、運動、金運など、全てにおいて調子が良かった。まさにノリに乗りまくった状態である。でもギャルが言う「調子」には、それらとはちょっと違った意味合いがある。


「あんた、男共にちやほやされていい気になってるんじゃない?」


 それは寄ってくる男の質による。ぶっちゃけた事を言えば、タカコは引くほどモテる。だがしかし、本人はそれに迷惑していた。むしろ男共が群がってくることでタカコの調子は落ちる。


 汚れたギャル3人がタカコを取り囲む。他者への嫉妬心も育ち盛りな、この年頃の女子特有の陰険な雰囲気が漂う。

 これはピンチだ。こんなギャル3人に囲まれて余裕でいられる人間などそうたくさんはいないだろう。


「お~いちょ~と待ちなよ~汚れたギャルズ」

 間抜けな声が飛ぶ。


 ギャル3人とタカコは、坂の上からこちら下ってくる怪人物を見上げる。


 その男は学ランを着ている。同じ学校の生徒だ。


「なによあんた!」

「というあんたが誰なのか、先に名乗るのが紳士の世界でのルールだぜ。アンダスタン?」

「へ、何?スタンド?」

 ギャルに英語は難しい。


「へっ、己の名も名乗れぬ恥ずかしいギャルズよ。妹から離れたまえ」


 男はタカコに加勢する気でいる。これを受けて3人のギャルの注意は男に向く。独特の緊張感が走る。


「なにさ、こいつの前で良い格好しようっての?」

「ふっふ、いかにも悪者の三下っぽい口上をしてくれる。昭和の漫画の読みすぎだっつ~の」

 

 男はツッコミながらヘラヘラと笑う。これは不気味だ。


「平成生まれの平成の少女コミック育ちだっての!」

 ギャルは出生と趣味について語るのだった。


「ふふ、ただ普通に生きているだけのこの俺が良い格好をしていると見えたってことは、ギャルの価値観で掛け値なしに俺が格好良く見えたってことだろう」

「え?」

「え?」

 

 格好良さの定義について語られたギャルも、語った側の本人にも謎が襲いかかってきた。


「と~にかく、やめないか。その妹から離れてお家に帰って胸キュン漫画でも読みふけり給え。さもないと」

「さもないとなんだっての?」


 男は右手を高々と上げる。


「こいつが火を吹くことになるぜ!」


 男が言う「こいつ」については、彼が姿を現したその時から場の全員が気付いて注目していた。制服でそんな物を持ち歩くには違和感があったからだ。


「それって、水鉄砲……」

 ギャルの一人が答え合わせを行った。


「御名答」の声と共に、男は銃口をギャル達に向ける。


「ぷ、ぷはああああ!」

 ギャル三人は思わず吹き出してしまう。だって水鉄砲だもの。


「そんな水鉄砲でどうしようっての?そんなのにビビるとでも?」

 

 不気味な男だが、勢力としては3人いるこちらが有利。完全にそう判断したギャル達は、タカコから離れて男の方に歩み寄る。


「まさか。今日日の荒れたギャルが水鉄砲の一発や二発で泣いてお家に帰るものか。そうあって欲しいとは思ってたけどね」


 男は近くのガードレールに銃口を向けた。


「まぁこれが唯の水じゃないなら、話は変わってくるかもしれない」


 男はガードレ-ルを打った。

 濡れたガードレールを見た一行は固まった。


「き、黄色……」

 目の良いギャルは、発射された物の色を言い当てた。


「うむ、正解。黄色だね。では、この場から大人しく立ち去ってくれないギャル達を、この黄色の弾丸で射抜くことにしよう」

 

 今度こそ本格的にターゲットロックオンだ。銃口はギャル達に向いた。


「ちょっと!ちょっと待って!」

 ギャルは待ったをかける。


「なんだい?」

「その、その水って?」

「水?黄色の水があるのかい?君はもうそれの答えを知ってるんじゃないか?ほら、その液体、ちょっと、いやかなり温もりを持ってはいないか。その距離でも分かるのでは?」

 

 言われてみると、ホットな湯気を感じなくもない。ギャル達の心に恐怖がこみ上げて来た。


「な、何なんだよそれ、あんた今何を打ったの?」

「何も特殊なものではないさ。僕はもちろん、君達だって朝でも昼でも自らの身体から取れる水、もといこの場合は弾丸さ」

「え?何?どこからだって?」

 ギャルは恐る恐る問う。


 それに対して男は、声なき答えとして、銃を持っていないもう片方の手で自分の股間を指差した。


「や、やべぇ!やべぇぞコイツ!」


 ギャル達は思わず後ずさる。次には男に背を向けてダッシュで逃げていった。

 

「あ~はっはっは~いや~爽快爽快!」


 男は肩にかけたカバンからペットボトルを取り出す。


「おしっこな訳ないじゃん。ビタミンCたっぷりジュースだっての!それにしてもあの慌てぶりときたら、ぷぷぷ、あ~はっは!」


 男はギャル達の慌てぶりを見ると、耐えきれずに吹き出し、爆笑するのだった。


「ふぅ、それよりも無事かね妹よ」

 男はタカコに歩み寄る。


 タカコは男を向かない。むしろ怯えている。


「どうした妹よ」

「わ、私、兄はいませんから!」


 タカコは男をかわし、坂を駆け上って我が家を目指した。


 場に残ったのは男だけだ。


「くっくく、あ~はっっはは!兄はいないかぁ、そうか~」


 ひとしきり笑うと、やや沈黙。


「だろうね。だってこの俺にだって妹、いないし!はっっはっは!!」

 

 狂気じみた笑い声をあげて男もまたこの場を去る。


 彼こそが、心底妹を欲する妹ハンター武蔵野だった。タカコのような守ってあげたくなる妹キャラを見ると、どうにもお兄ちゃんぶりたくなる新世紀の一人っ子変人である。


 全国の妹気質持ちの女子達は是非気をつけて欲しい。妹ハンターはきっとあなたを狙っている。

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