第四十六話 その春に至る入り口はいとおかし
私はカナコ。中学二年生のイケてるギャルよ。
私のようなイケてるギャルも、はたまた全くイケてないギャルも、総じて皆が胸踊らせる青春のイベントがある。それが恋だ。恋は誰の胸をも踊らせる万国共通の目には見えない魂のカーニバルである。カーニバルはとても楽しいのだ。
放課後、学校の裏庭にダンジくんを呼び出した。彼こそ時代が育てた快男児である。
彼とは一年生の頃からクラスが一緒。二年になってもクラスは同じで席は隣同士。異性の壁を越えて、不思議と落ち着きを覚える彼の人間性に、いやホットなハートに触れて、私は初めて己に宿る恋の炎が揺らぐの感じた。
今この胸の温度は高い。ヘソでは無理でも、胸でなら茶を沸かす事が出来るかもしれない。
「というわけでダンジくん、私と付き合って欲しい」
「どこまで?」
「地獄まででもいいさ!」
このように、彼は不思議。というか変。ボケているのか、それとも素でこうなのか。割と長く付き合って彼を見てきたが、未だによく分からない。
彼は変だが、それがなんだというのだ。私はそんな変な人間が好きなのだ。
彼とはかなり親密な関係性を築けたと自負することが出来る。そう言えるくらいに、この私もまた彼の破天荒な言動にスムーズに対応することが出来る変人スキルを得たのだ。
この想いは冗談ではない。その事は、私の熱視線を通して、遅れながらも彼に伝わったようだ。
彼は私に向かって一歩歩み寄る。一歩が大きく、もう私の耳の側まで彼の顔が接近していた。
「ねえ、これあれでしょ。罰ゲームとかでしょ?」
そう耳打ちされた。もちろん答えはノーだ。
「ププッ、だって、後ろの林がガサガサ揺れてる。あそこに友達が隠れていて、ドッキリでした~の看板でも用意してるんだろ」
「はぁ?」
なんてユーモアな妄想に長ける快男児。
彼は私を追い越して駆け出すと、例の林に直行する。
「お~い、そこにいるのは分かってんるだぞ。誰だよ」
揺れる林の中にいる者を彼は確認したようだ。
でも彼は黙ったままそれを見ている。どうしたのだろう。
「どうしたの?」
何を見たのだろうと思い、私も彼を追って林の中に目をやる。
「あっ、コレは!」
「……猫だね」と彼は説明してくれた。
「……しかもお盛んな事に、行為の真っ最中だ。これは悪い所に直撃をかけたね」
彼と私はゆっくりと後ずさりした。
そして元いた場所。
「ふ~、猫が交尾してたね!」
何故か猫に気を遣い、猫からしっかり離れた所に来てから皆までの報告をしてきた。
「そうか、猫だったのか。え、じゃあコレは?ドッキリでなくて?」
「そうだよ。マジ告白だよ」
「え……」
彼は口を開けたまましばし停止する。
「で?答えを求む。アンド急ぐ」
彼は急ぎ思考を巡らせて、答えを導き出してくれた。
「じゃあ、お友達からってことで」
「もうその段階は過ぎたと思うの。その上で答えを求む。アンド急ぐ」
「じゃあ……友達を越えたその先の第一歩を共にするところから、よろしく」
「良いともさ!」
私達はガッチリ握手した。
こんな変な始まりとなった恋人関係が幾年と続いた後に迎えたこの春、私達は永遠の契を交わすことになる。