第四十五話 ケロケロナイトドリーム
「ケロケロケ~ロ」
あれ、おかしいな。
田んぼの隣暮らしを離れて行く数年。現在私は、すっかりビッグシティの色に染まっていた。にも関わらず、どうして聞こえてくるのか、遠き田舎の声。
声は……近い。かなり近い。
リビングを抜けて暗い廊下に出る。トイレの向こうから……。
トイレの扉を開ける。その向こうにもう一つあるのは白き扉。つまりは、便器の蓋。
開けてみる。そしてこんばんは緑の使者。
「ケロケロケ~ロ」
こちらを見ている。くりくりとした目、でも好きではない目。
なぜだ。なぜこんなところにカエルがいるのだ。
外からインしたのか、それともまさか管を通って内部からこんばんはして来たのか。
時刻は20時半。腕時計で確認する。確認の意味は特にない。
私は悩む。
「どうするんだこれ……」
カエルと見つめ合う。
すくい上げて外に放り出すか。いや、それは嫌だな。気持ち悪いし汚いし、もう絶対に嫌だな。かといってこいつをいつまでもココに置いてやることは出来ない。次に用を足す時に、用を足す心の準備が整わないではないか。
結果、私の面倒なくコイツに退去してもらうことにした。
「よし、流そう」
一回分無駄に水を流すことになる。でも仕方ない。
ザーザー。
便器の中にもう住人の姿はない。なくて当然。
「ふぅ~」
ここで一息。
カエルと言えばの古い言葉に「井の中の蛙大海を知らず」というものがある。
ヤツは、井の中すら知らないのだろう。だって便器の中にいたし。井の中も知らずに管を流れに流れて、いつしかヤツは大海を目指すことがあるのだろうか。私がレバーを引いて洪水を呼んだ先で、ヤツはどんな冒険をするのだろうか。
……やめた。なんか気持ち悪い。
その日の晩、布団に入り夢の中に入ってから、私はあの田舎の声をたくさん聞くことになるのだった。
「ケロケロケ~ロ」
何を言いたいのだろう。内容どころか感情も分からない。
「ケロケロケ~ロ」
鳴り止まない。
「ケロケロケ~ロ」
「ケロケロケ~ロ」
「ケロケロケ~ロ」
「ケロケロケ~ロ」
「ケロケロケ~ロ」
「ケロケロケ~ロ」
「ケロケロケ~ロ」
「ケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロケロケロケ~ロ」