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変な人白書  作者: 紅頭マムシ
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第四十二話 やっぱり最後は自分で選びたい

 潜入捜査に失敗してしまい、俺は敵の手に落ちてしまった。

 現在俺は、体をロープでぐるぐるに縛られた状態で、薄暗い地下室にぶち込まれている。

 

「おいスパイ野郎、肝心要な超機密情報をさっさと言いやがれ!」


 目の前には知能指数が高そうには見えない猿の進化系生物のオスがいる。そいつは銃を構えて吠えている。


 これはもう終わったな。自力では逃げられないだろうし、同僚を支援する体制と人情を持たないウチの組織からの救援があるとも思えない。


「こんな最後か~、猿の進化系でエンドか~」

「おい!猿が何だって?いいから情報を吐け!この銃が見えないのか」


 おいおい誰に物を言っているのだ。視力は抜群のこの俺様が、そんなデカい銃を見落とすものか。


「あ~嫌だ嫌だ!こうなったら俺はどうせ終わりなんでしょ。何をゲロったところで解放するわけないじゃん。俺がお宅らなら、何があってもこっちに潜入して色々知った奴を野放しにするわけがない」

「え?ああ、まぁそうかな。お前の今後の事を判断するのは上の人間にかかっているから、俺の見解じゃなんとも言えないが」

「だろ?もう殺されるだけなんでしょ。拷問受けて終わりでしょ」

「なんだよお前。投げやりなスパイだな~。なんとかここを抜け出て情報を仲間達に届けようとか、もっと助かりたいとかって想わないのか?」

「へっ、ゲロったら逃がす。そんなものは言うだけ言っても守らないのがお宅ら悪者の定番アクションだろ。それにウチの組織に対してそんな愛着や帰属意識はないから。そのところはもうこうなったらどうでも良いよ。こんなに危険な仕事なのに給料は安い、福利厚生も整っていない。今思えば進路決定が失敗だったよ」

「お前、色々大変だったんだな。でも捕まえたスパイに温情なんて無いからやっぱりこの銃は降ろさないぜ」


 野蛮な猿男は尚も俺に銃口を向けるのだ。


「あ~嫌だ!こんな猿男に処刑されて終わるなんて嫌だ~。で、なんだけど、ここで提案」

「なんだよ。人を猿男呼ばわりして何を提案しようってんだよ」


 ここで猿男よりもっと大柄のゴリラ男が入ってきた。


「おい、何を騒いでいるんだ。そいつから情報は聞き出せたのか?」

「あ、先輩。すいません。こんな状況ですからね、なんだかコイツも錯乱状態にあるみたいなんです。なんだか変な事を言っています」


 ゴリラ男は猿男の先輩だった。


「おっ、少しは話が分かりそうな先輩がやってきた!」

「まぁな、こいつよりは話が分かるってもんだぜ。何だ、何が言いたいんだ?」

「どうせ拷問を受けて終わるコースなら、こんなにもっさい男共よりも、綺麗なお姉さんに担当してもらいたい」

「なるほど、そりゃまぁ、捕虜になればそう思うのも当然の心理ってところだな」


 ゴリラ男は共感してくれた。


「え、先輩マジっすかそれ?普通に会話出来ちゃってる」 

 後輩の猿はちょっとビックリしている。


「見たよ。お宅の求人パンフレット。冗談みたいなエロい衣装で決めた悪の女幹部が写っていたぜ。あのお姉さんにを頼むよ。なぁ、どうせ死ぬんだから、最後くらい俺のお願いコースで行かせてよ」

 

 俺は忘れない。こいつらの組織にはそういったエッチな女幹部がいる。その情報を知ってからは、どうにもこうにも興味が湧いて仕方ないのだ。


「図々しいスパイだなコイツぅ~。ところで先輩、なんすかその求人ってのは?」

「ああ、ウチも人材は確保したいからな。そんなのも作って出しているんだ」

「え?ここって世間様に公表していない裏の組織ですよね」

「ああそうさ。でもな、裏には裏流の求人手配のルートがあるんだよ。でもなぁスパイよぉ」


 ゴリラ男は俺に歩み寄ると、屈んで目線をあわせた。


「あれは、なんていうか、あくまでもポーズっていうか、やっぱりこういうのはイメージ戦略だろ。例えば、歯医者のパンフに美人の歯科衛生士が写っている事があるが、あれは広告塔にするために雇った外部のモデルであって、実際に行けばそんな女は院内のどこにもいない。別に嘘付きじゃないだろう。ただのキャンペーンガールってわけさ」

「……待てよ、ということは……あの冗談みたいにエロい格好の女幹部は?」

「そう、その冗談みたいが、まさに冗談そのもの。実在しない」


 ガ~ン!ショック!


「代わりといっては何だが、拷問の神 千堂さんに来てもらっている」

 

 ゴリラ男の紹介で部屋に入ってきた更なる大男は、冗談みたいに筋肉ムキムキなおっさんだった。


 なんてこった。千堂さんエンドなのか。グッバイ俺の人生。


「こんなもっさいムキムキオヤジが神だなんて、世も末だな」

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