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変な人白書  作者: 紅頭マムシ
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第四十話 恋は楽しいか?

 弟は決してブスではない。昨今珍しくはなくなったコミュ障というものでもない。むしろ均整の取れた顔立ちだし、ウィットに富んだお喋りだってベラベラ行うスキルもある。つまりは女受けする要素が十分にある。


「なのに、何でお前は美少女ゲームばかりしてんだ?」


 俺は日頃から頭にある問いを弟にぶつけてみた。


「ふふっ、興味深い質問だねお兄ちゃん。いいだろう、ラブを語るのは得意だし好きだね」

「で、何で?」

「その何でを解き明かすためにも、敢えてまずは質問を質問で返させてもらおう。先にこちらの問いに答えてくれ」

 

 こんな感じで弟は非常にウザい。俺は先にヤツの問いに答えることにする。そうでないと、弟はずっとお話にブレーキをかけっ放しのままだろう。


「お兄ちゃんは、何でお嫁さんと一緒になった?」

「そりゃ好きだからだな」

「それまでだって違う女と恋愛はしてきたよな」

「ああ五人くらいわな」

「性懲りもなく恋を重ね、5番目の恋で愛の城を築き、そこを生涯過ごす地に決めた。良いではないか」


 何を言うんだコイツは。そして俺にも何を言わせるんだ。つい正直に全部答えてしまったではないか。


「お兄ちゃん、ラブは人間の本能なのだろうけど、娯楽でもあるんだよ。だって楽しいだろ。お兄ちゃんはお嫁さんと出会って結婚して赤ちゃんを儲けるまで、当然楽しかったはずだ。そりゃそうじゃない事もあったろうけど、楽しさが勝っていたはず。でなきゃ、どうして誰から頼まれた訳でもなく恋愛なんてやるのさ」


 そうだ。嫁との付き合いは楽しいから行ったことだ。


「それが答えさ。結論は楽しいからだ。僕は恋することが楽しくて好きなんだよ」


 それっぽいけど、やっぱりキモいなぁ。


「じゃあ何でそんな奥行きの無い女ばかりなんだ?外に出て実地でやれば?」

「ちっちっち、甘いなお兄ちゃん。事はそう単純ではない」


 ムカつくなぁ。態度がムカつくなぁ。


「5回恋をしたなら、4回の別れを経験したはずさ。それは辛いこと、面倒なこと。僕はそこの苦労はしたくない。恋は楽しい。だが、実際にすると、そこの面倒がある。面倒とは切り離した完全な娯楽として楽しむには、この箱の中が一番ってね」

「そりゃ一体どういう?」

「そうだな~。恋に恋している。恋はしたいが、恋人との付き合いは不要だ。ここでだけでも僕は十分にキュンキュン出来ているだよ。不足は無い」


 なるほど。擬似的に振り切れば、恋なんてのも実にお気楽なものだ。


「でもそれって虚しくないか?」

「ははっ、快楽追求をファーストプライオリティに置いて生きているこの僕が、虚しいことを優先的に行うものか。ここにあるのは夢と快楽と心躍るキュンキュンのみさ」


 言い切りやがった。そうなのだ。こいつのおかしい点は女子が大好きなくせして、完全な独身主義を貫くことなのだ。恋人も嫁も持ったことがない。


「まぁ言っちゃ悪いようだけど、この一本のゲームソフトだけでも、お兄ちゃんが付き合った5人の女達との恋のキュンキュンを凌駕する。僕の中じゃそういうパワーバランスなんだよ」


 俺の人生に登場した女達は、コイツの愛したペラペラ女共の足元にも及ばないらしい。

 奴だけが持つ天秤の上では、ペラペラ女供の方が重く、現実の女達がこうも軽いのか。頭が痛くなるような方程式が見えてくる。


「まぁお兄ちゃんは5人目の愛した相手をいつまでも愛し続けなよ。愛だの恋だのは、人間の精神生活の質の底上げになる。そんな良い物だからこそ、こうして商品となって世に発信されている。それを買って遊んで、僕の人生の質も底上げされる。愛が世界を救うのかどうかは知らないが、少なくとも僕とお兄ちゃんの二人分くらいの人生なら十分に盛り上げてくれるよ」


 なんだろうか。達観?それとも破滅主義にもなるのだろうか。こいつの考えには正当性があるのかないのか、俺には何とも判断がつかない。

 とりあえず心身ともに健康で楽しそうとは分かるので良しとするか。


「あっ、あとな、嫁は3人目に付き合った彼女なんだ」

「え?」

「5人目と終わって、3人目のアイツが一番良い女って気づいて、また関係が再開したんだな」

「へっ、へぇ~そうなんだ~。初耳~。お兄ちゃんもぐるぐると道のりの長い恋の大迷宮をうろついたものだね~」


 弟はちょっとびっくりしていた。

 あと、何だよ恋の大迷宮って。よくもまあ次々と謎ワードを生んでは口にするよな。

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