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変な人白書  作者: 紅頭マムシ
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第三話 変わり者の旦那

 今日は甥っ子のケンジを病院に連れて行かないといけない。ケンジの母親である私の姉さんがどうしても急ぎの用から解放されないため、妹の私にこの役が回ってきたのである。


「あっ、みっくん、みっくんだ!」名前を呼びながらケンジは病院待合席に駆け寄った。

 みっくんと呼ばれる男の子は、保護者と思われる男性の腕の中で眠っていた。病院の検査などで疲れたのだろう。

「なんだい僕?ウチのみっくんのお友達かい?」男は朗らかに笑いながらケンジに語りかけた。

「うん、保育園でよく一緒に遊ぶの」

「そうかそうか、保育園の友達だったのか。せっかく声をかけてくれたのにすまないね。この子ったら疲れて寝てしまい、挨拶を返す気力もないのだから。そう言えば僕、お名前は?」

「ケンジ」

「そうかそうかケンジ君、いい名前だ」

 男は実に滑らかに対応し、急に話しかけてきた知らない子供のケンジとも問題なく会話を続けている。この対応力が自然なようで、妙な空気感を作っているようにも思えた。


「すみません。ウチの子が急に話しかけて、みっくんとはいつも仲良くさせてもらってます」

 ケンジとみっくんは仲良しで、みっくんの母親のみねこは私の高校の同級生だ。そう言えばみねこの旦那にはまだ会ったことがない。この人が旦那さんか。へぇ、みねこにしては意外な感じのする相手だ。


「みねこの旦那さんですね。みねことは高校から一緒で、旦那さんのこともたまに耳にしますよ」

「ははっ、うちのみねこが?それはまた一体どんなことを耳にしておいでで?」

「あの~、正直言うと、ちょっと変わった人だって」

「はっはっ、でしょうでしょう、そりゃ自他共に認めるところですよ」

 みねこの旦那は笑って答えた。


 父の腕の中で眠るみっくんが羨ましくなったのか、幼いケンジは私に抱っこしてくれと甘えて来た。仕方ないのでしてあげることにした。


「ささっ、こちらにどうぞ、みねこならちょっとお手洗いに行ってるだけですぐに帰りますから」そう言ってみねこの旦那は自分の隣の席を私に勧めてきた。なかなか紳士的な旦那だ。


「ケンジ君も甘えたい盛だな。ママは好きかい?」

「うん」とケンジは答えるが、ママは私ではなく姉のことだとこの人は知らないだろう。

「いや~利発そうな顔立ち、そして頭の形をしている。ちょっと撫でてあげてもいいですか?」

「ええ、どうぞ」

 みねこからは子供好きな旦那だと聞いていたがその通りだ。


「うんうん、良い頭だ」

「あの……」

 この男、ケンジでなく私の頭を撫でている。そう来たか。

 おかしな旦那だとは聞いていたが、これはまた意外な方向性の変わり者かもしれない。あ、でもちょっといいかもしれない。悪くない撫で方だった。


「あっ、ちょっと何してるの!」

 トイレから帰ったみねこが旦那の奇行を責めている。


「やぁ、随分長いお手洗いだったね」

 おかしな旦那はまだ私の頭に手をおいたままで答えた。


「私の友達に変なことしないでよねお兄ちゃん!」

「えっ?お兄ちゃん?」私は旦那の顔を見た。

「ええ、まったく甘えん坊な母親でね、未だにお兄ちゃんお兄ちゃんと呼ぶのですよ」

 夫はずっとへらへらして話している。そしてまだ手は私の頭の上だ。しかし、これがなかなかどうして悪くないから自分で払いのけようとは思わなかった。


「当たり前でしょ!本当にお兄ちゃんなんだから」

 え、どういうことなのだろう。みねこは実の旦那を実の兄のように慕っていて、普段から「あなた」とかではなく「お兄ちゃん」呼びしているのだろうか。だとしたらちょっと……いや、かなり進んだ夫婦関係にあると言える。

 私はそんなことを思いながら、明らかに困った顔でみねこを見ていたようだ。みねこもおかしな視線を感じてあたふたしていた。


「ちょっと違うから。コレ、本当にうちのお兄ちゃんなの。旦那じゃないの!」

「いや、まぁ旦那さん、変わってるって聞いてたから……」私は多分みねこのフォローになるのかもしれない適当な一言を返した。

「そうじゃないって、旦那はここまでおかしくないって」旦那を指差してみねこは言った。


 みねこは携帯電話を取り出し、その中に保存された旦那との結婚写真を見せてきた。目の前のこの男とは違っていた。この男はどうやら本物のお兄ちゃん、いや、みねこの兄らしい。


「旦那のフリしないでよ、恥ずかしい!」みねこは兄の肩を小突いている。

「はっは、まぁそういうわけでみねこの兄です。旦那じゃなくてごめんなさい。あ、それからよろしく」兄は握手を求めてきた。求められたら仕方ないので私は兄の手を握った。


 病院の待合で思いもがけない騒ぎになった。その後、先に会計を済ましたみねことその兄とみっくんが病院を出るのを見送ることになった。

 みねこの兄は、同級生のみねこの兄なのだから私達よりもいくつか年上のはずだ。しかし彼は別れ際、年長者に似つかわしくない無邪気な笑顔を向けて私とケンジに手を振った。

 そう言えばみねこからは、変な兄がいるとも聞いていた。あれがそうだったのか、色々強烈だったな。本当に色々と……


「どうしたの?顔、赤いよ」

 みねこ達一行を見送る私の顔を覗き込んでケンジが言った。ケンジに言われて気づいた。確かに頬が熱いような気がする。この熱はどこから来たものだろう。

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