表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変な人白書  作者: 紅頭マムシ
25/78

第二十五話 誰とも知れないあなたへの未発信メッセージ

 とある年末、僕は部屋の大掃除を行うことにした。

 僕の部屋には、小学校入学祝いとして祖父が買ってくれた勉強机がある。大して勉強もしない人間に向けての贈り物としては適さないものだが、孫想いの祖父が買ってくれたものだもの。大事にしなければならない。そんな大事な勉強机だが、設置してから何年と動かしていない。この向こうは絶対に埃まみれだ。

 なんだか今日は、埃をたくさん集めて捨てることに快楽すら覚える勢いで掃除に身が入る。そんな謎テンションモードに入ったのだ。僕は机を動かして掃除することにした。大きいものだが、動かせないこともない。

 机は部屋の隅の壁際に設置されている。とにかく壁から引き離す。やや腕と腰に負担が来る重量を持っているが、若く健康、そして筋骨隆々な僕にとってこれくらい朝飯前のことだ。


 机と壁の間からは、かなりの年月を経て溜まった埃の塊が出て来た。これは汚い。

 それだけではなく、10円玉、昔流行ったトレーディングカード、テレビゲームの説明書など、懐かしい物品も姿を見せた。それらの中に、白い一枚の紙が混じっていた。これは一体何だろう。パッと見てなんだか分からない紙が気になったので、拾い上げてみる。


 真っ白な紙を裏返した向こう側には、たくさんの知らない名前が印刷されていた。その中には僕の名前も確認出来た。なるほど、これは小学校のクラスの人間の名前をあいうえお順に並べて一覧にしたものだ。何かのタイミングでクラス担任から配られたのだろう。

 何でもない小学校のクラス名簿ならそのまま捨てるだけで済むのだが、ちょっと見てみると、その紙が何でもない紙では無かったことが確認出来た。印刷された数名の名前の横に、なにやら手書きのメモが書かれている。多くの名前の横は空白になっている。数人分だけあるこのメモも何なのだろう。

 少し見てみるとすぐに分かる。これは、この汚い字は、間違いなく僕の字だ。

 

 ここで思い出した。その昔見たテレビ番組の中で、登場人物が興味深い行動を取っていたのだ。それを真似た結果がこのプリントの上に出ていた。

 そのテレビ番組の内容はこうだった。メインの登場人物は、これから家を引っ越す子供だった。その子供は、自分が越した後にも新たにこの家に住むことになるどこかの子供に向けて、あえて家にメッセージを残す。それが工夫を凝らしたクラス名簿だった。各員の名前の横に、各員の特性などの情報を短くメモしておく。次に家に越して来た子供は、転校日よりも前に、学校にいる子供のことが分かる。そんなちょっとした親切心が見えるような、新旧の住人感で行われる一風変わったコミュニケーションを描いたものだった。


 視聴した当時小学生だった僕もまた「これをやろう!」と思ってさっそく取り組んだのだ。素直に面白い企画だと思ったのだ。

 だがしかし、当時の僕は、いや今でもあまり変わらないが、他人への興味が薄い人間だったのだ。地味ではあるものの、メジャーかマイナーかどちらかでいうとややメジャー寄りの趣味「古今東西の瓶酒の王冠集め」を楽しむあまり、友人と遊ばなくても一人熱中して日々を楽しんでいた。そんなのだから、ここに書き込むはずのクラスの人間達の紹介がロクに出来なかったのだ。無理もない、よく知らない相手の説明など書けるはずがない。加えて、情報を持っていたとしても、人数分書くのは疲れる。途中から明らかに飽きたことが見て取れた。


 せっかくなので上から順に読んでいこう。

 出席番号1番は相葉ゴリヤス。こいつの説明には、給食を食べるのがやたら早いと書かれている。これは、知ったところで得の無い情報だ。

 いきなり飛んで次は7番、田中ガリマツ。出っ歯とだけ書かれている。これは悪口ではないのだろうか。

 次、13番。堀宮ボンジ。息が臭いとある。これはもう待ったなしに悪口だな。

 16番からは女子だ。20番の女子、島ぽんこ。兄貴がたくさんゲームを持っているので、仲良くした方が良いと書かれている。仲良くしたら貸してもらえるよ、という当時の僕の優しきアドバイスが込められたものだった。

 24番、沼田ベチャコ。家でスモモを育てているので貰えば?と書かれている。これは素敵なご家庭なようだ。どんな子だったのかまるで覚えていないけど。

 27番。宮田ゆんゆん。お父さんが裁判官とある。こいつ自体ではなく親の情報だった。

 32番。これが最後だ。脇田よねこ。紙飛行機を飛ばすのがクラスで一番上手い。


 なんだろう。こんなにも僕は、他者への理解と分析がなっていないお子様だったのか。まぁちょっと面白くはあったが、絶対に下らない内容だ。これは、処分だ。紙をくしゃくしゃに丸めるとゴミ箱にポイして掃除を続けた。


 書いた当時と同じ家でこんなものを発見したのだから、僕は一生引っ越し経験を持たない人間だ。そもそも引っ越をしないなら書く意味のないものだったな。

 子供の内はおバカなことを何でもしがちだと思う内に、僕の年末大掃除は問題なく終わりを迎えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ