第二十四話 ご協力お願いします
ある日の昼下がり、まさひろは自転車でスーパーに買い物に行った。
安全運転で到着すると、錆びついたスタンドを立たせて鍵をかける。自転車の前籠に入れたリュックを掴むと、肩に背負う。これから自転車を離れて店内入り口を目指そうかという時、後ろから誰かに声をかけられた。
「あの、ちょっとご協力お願いします」
振り返ると、声の主は30代くらいの男性警官だと分かった。
「おっ!なになに!強盗か!立てこもりか!いいぜ、早く行こうぜ!」
まさひろは警官の制服の袖を引っ張り、早く目的の地へ連れて行けと指示を出す。警官は困ってしまう。だってそのような場所はないのだから。
「いや、あの……そうではなく、ちょっと自転車を見せて頂きたい」
「は?自転車?俺の?まぁ見たいなら好きに見ていいけど……」
まさひろはチャリンコウォッチの許可を出した。
警官は端末を手に取ると操作を始め、画面と自転車を交互に見る。
「なに?チャリンコ好きなの?」
「いえ、まぁ、嫌いではないのですが……」
「いや、にしてもちょっとマニアックじゃない?それ、10年以上前に買ったただのママチャリだぜ」
まさひろの自転車は、経年劣化によりサドルが破け、籠もどこかにぶつけて凹み、ボディはかなり錆びていた。どう見てもオンボロだった。
「そんなボロでもさ、工具なんかを使ってタイヤやチェーンを交換してさ、大事に乗ってるわけ。パンク修理だって自分でやるんだぜ」
まさひろは自転車への愛着と自分のメカニックスキルを自慢げに語った。
「そうなんですか。大事にしているのですね……あ、じゃあもう大丈夫です。ご協力感謝します」
警官は敬礼した。
「いや、自転車見せてと言われて見せて、それだけなんだけど。それで協力になるの?」
「はい、十分です。それでは、お家まで気をつけてお帰り下さい」
警官は惜しみなき協力を得たと満足して帰って行った。
「変わったチャリンコ好きのお巡りさんだったな。なんか分からんけど、した覚えもないけど、協力に感謝されるなら悪くないな」
良いことをした覚えもないけど、人から感謝されると気分が良い。まさひろはとても満足してその後の買い物を楽しんだ。
そんなまさひろが今日の買い物で作る晩飯は、ビーフストロガノフだった。