最終決戦! ~ワンダフルな戦い~
――ガオオオオオオ!――
(!?)
緊張した空気の中に、突然恐竜のような雄たけびが鳴り響く。
それはBGMのように、繰り返し流れ続けた。
(すごい音!)
間違いない。孫さんのラダム拡声器の音だ。だって、彼が笑いながらその装置をいじってるから。
「うるせー! なんだこの音は!」
拓馬が耳を抑えてよろけている間に、シュッと取り巻きの一人を投げ倒す藤田君。そうか、こいつはイヤホンをつけてるから、耳にあんまりダメージが無いんだ。
「このチビが、死ね!」
「嫌だよ」
そう言って、下っ端たちを次々と倒していく様は、まるでRPGの主人公みたいだが、肝心の歩ちゃんといえば、ギターを弾きながら、こんな歌を口ずさんでいた。
正義はーうち
悪はー外
なぎ倒せー
打ち倒せー
一人残らず駆逐せよー
(……)
それに加わって、恐竜の大音量の鳴き声。カオスだ。この戦場、とっても可笑しい。いい意味でいかれている。いいぞ、もっとやれやれ。
だが、大人数を相手にそう長く戦えるはずもなく、次第に呼吸が乱れてくる藤田君。ピンチ。どうしよう、どうすれば……。
「おーい、頭も使えよ。ガキ」
秀一が、大きなベニヤ板の盾で、飛んでくる釘やネジを弾きながら、そのまま力で押し込むように、何人かの動きを封じた。体重の勝利。
田中先生たちも、そこらに落ちているものを駆使して、まるで剣士のように拓馬たちのもとへ突入していく。
(勝てる!)
そう思った時だった。
「きゃあ!」
夏樹の声だ。今までに聴いたことのない、怯えた声。
ちょうど、ラダム拡声器の音も途切れた。
「この女がどうなってもいいのか?」
下っ端の声を聴いて、拓馬がにやりと笑った。くそぅ、形勢逆転。首に腕が回されている以上、本当に何をされるか分からない。
「夏樹を離しな!」
怒りの形相でミスボーンが男に近づくが、足蹴りにされて地面に横たわってしまった。わき腹を抑えてうずくまるミスボーン。
「ねぇねぇ。そこのチワワ」
(?)
拓馬は純粋そうな笑顔でそう言うと、不敵な笑みを浮かべながら、釘を空中に投げて再び手のひらに戻した。
そしてそれを俺に向ける。
「お前で許してあげよう。この騒動の引き金はお前だろ」
全身から血の気が引いた。いったい何をされるんだろう。
だが、この身を以て、娘を助けられるのなら。
いや、この町のみんなを助けられるのなら。
それに、一度死んだ身だ。いまさら何を恐れる。
(もう、いっか)
俺が諦めて降伏しようとした。その時――
「地方局の〇〇テレビからお届けしています。ただいま、町内で阿修羅というグループに女の子が捕まっている様子が画面からおわかりでしょうか。情報提供者は記者の北島です。みなさま、この問題は現在起こっている、この町の大きな課題です。繰り返します……」
「んだよ! なんなんだよ!」
突然やってきた数人の地方局の人たち。どうやらカメラが回っているようだ。一人の男性アナウンサーがマイクを持って、事の経緯を、ことこまかに説明していく。
体裁を気にする拓馬にとって、たとえ地方局でも顔を晒されるのは、屈辱だったようだ。というより、仕事していたんだな、北島。グッジョブ。
「散るぞっ!」
拓馬たちが逃げようとするも、情報というものは強く速く。たちまちパトカーのサイレンの音と共に、彼らは連れていかれた。
その際に、夏樹は、拓馬たちに向かって、
「あんたが轢いた私のパパが繋いだ絆の力、思い知ったか!」
と、大きな声で言った。振り返った拓馬は、ふっと小さく笑みを浮かべて、
「馬鹿みたい」
そう言うと、まるで魔王のように、「ガハハ」と笑った。
あとのことは田中先生や町内会の人たちで決めることとなった。
興味本位でついていく、マサミおばちゃんと孫さん。
テレビ局の人たちも、しばらく俺たちにインタビューをして、そちらの方へと行ったみたいだ。ヨウ氏も、家族のもとに帰った。結局、何を訴えていたのかは分からないが、それはあの家族の問題だ。
今は深入りしないようにしよう。
残ったのは、どこか得意げな秀一と、満足げな歩ちゃんと、少しけがを負っている藤田君。そして、わき腹を抑えてよろめくミスボーン。
「みんな、ごめん!」
夏樹が、深々と頭を下げた。美香子も同様に。そして俺も。
「ふん、俺がいてよかったな」
「わたしはそういうの気にしないので」
秀一と歩ちゃんの声を聴いてホッとする俺たち。
けがをしている二人の呼吸が乱れている。おそらく話すのが大変なのだろう。だが、怒っている気配は感じなかった。
「受験、頑張ってね」
ミスボーンが、今にも泣きそうな夏樹の肩を小突く。
「うん……、うん!」
水晶のようにきれいな涙が汚れた工場跡地に落ちる。
これで、終わったんだ。
いや、まだ夏樹の受験がある。
合格発表の日まで俺は絶対に、忘れない。俺がパパであること。
そして、えーと……、俺の守りたいもの。えーと、えーと……。
(何だった?)
何だこの気持ち悪さは。俺は何を忘れようとしているんだ。
(早く思い出せ。俺の大事な、きっと大切な記憶!)
もうすべて終わったと思ているみんなは、世間話をしている。そして、それぞれの家に帰っていった。俺も、妻子と一緒に帰った。
そして、風呂に入れてもらい歯磨きもしてもらい、今は寝室にいる。
(これで……、いいのか?)
悩むこと数分。だが、俺は今日の戦で疲れていたのか、まぶたを二~三回閉じると、自然と眠りについた。ぐぅぐぅ。




