令和餓狼伝 其の陸 ~橋姫の眼光~ 前編
有害指定都市ツチューラ市 絶対安全農村区域クサレガ丘1丁目
梅豚邸 午後13時07分。
とても暖かい春の日差し。
のんびりと時を刻む相変わらずの梅豚邸リビング。
梅豚はリクライニングチェアにだらしなく座り、タバコを吹かし、数万回は観てるであろう『グーニーズ』を視聴中である。
この映画は、言わずと知れた80年代の名作である。
その横では、マナとカグラが『女子トーク』に花を咲かせている。
こう見ると、二人とも仲の良い母と娘のようである。
カグラ18才。
梅豚とマナも年齢的に、これくらいの年頃の娘がいてもおかしくはない。
友達のような母と娘。
これまで感じた事のない感情が、梅豚の思考に、不思議なメロディーのように重なっていく。
(何て幸せな光景だ)
と、梅豚は思ったが、すぐにかき消した。
それは、梅豚そして『罵多悪怒愚』が絶対に感じてはいけない事であるから・・・・・。
梅豚達『罵多悪怒愚』は数えきれない程の罪のない人々を傷つけ、そして殺した。
幸せなんて感じるな。
日頃から梅豚はそう心掛けている。
心は常に残虐で、暴力的で、狂った野良犬のように牙を研ぎ澄ます。じゃないとこっちが殺されるのだ。
そんな梅豚の心を知ってか知らずか、カグラはマナの膝枕でスマホゲームをやっている。
・・・・・・・・。
あれからカグラは梅豚邸に住み着き、空いてる部屋にユキヤをパシらせ荷物を運び込み、アパッチ砦を築いてしまった。
マナもすぐに自分を慕うカグラを気に入り、我が子のように可愛いがっていた。
料理全般に家事をマナに仕込まれていた。
最初は不器用なカグラであったが、すぐに覚え、料理などは日に日に上達した。
若いから物事を覚えて吸収するのが早いのだ。
そんな事を考えながら梅豚は
「カグラ。二階のマドカに飯だって言って来いよ」
梅豚がボソッと呟く。
「うん。ユキヤとはモニター監視 アタシが代わる」
と言って二階に上がって行く。
ユキヤは数十にも及ぶ監視モニターを注視していた。
あれから梅豚邸及び『罵多悪怒愚』は更なる警戒体制に入り、24時間見張りを立てていた。
梅豚邸の、今 マドカがライフルのスコープを覗き監視している二階の部屋からは、家の周囲 全体を見渡せ、瞬時に相手を攻撃する事が出来る。
マドカが二階から降りてくる。
妊娠中のマドカは、ちょっとお腹が出てきたようだ。
「悪ぃなマドカ。妊婦さん こきつかっちまってよ」
すまなそうに梅豚が言う。
「いいよ、これくらい。アタシには散歩だから」
頼もしくマドカが返す。
「んじゃ 俺が二階行きますね。カグラ、頼むぞ」
と、ユキヤが二階に行こうとモニターが置いてある机から立ち上がった、
その刹那・・・・・・・!
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォオオオオン!!
!?
猛烈な爆発音!!
襲撃だ!!
瞬時に梅豚とユキヤは、マナ、マドカ、カグラに覆い被さった!
灼熱の爆風と共に、門は破壊され、壁は崩れ、屋根も吹き飛ばされ、あっという間に梅豚邸は半壊させられた!
「クソッタレがぁぁあ!!」
ユキヤが怒声を挙げ飛び出してく!頭は血塗れである!
硝煙の中から梅豚が
「マナ、マドカ、カグラ!無事か!?」
頭を抱えた女子三人に声をかけ、安否を確認する梅豚!
咄嗟の梅豚とユキヤの判断が良かった!
三人共 無傷で無事である!
しかし、爆風をもろに背に受けた梅豚の背中は、セットアップは焼け落ち、細かいガラスが突き刺さり、刺青もろとも血だらけであった!
ユキヤが帰ってくる!
「会長!みんな!大丈夫ッスか!?」
頭の出血する傷口をタオルで巻き付け押さえながらユキヤもそれぞれの安否を確認する!
しかし、不思議で解せない。
マドカが監視から離れてすぐに相手は攻撃してきた。
梅豚が考えていると、カグラはマナのPCディスクに座り、高速のタイピングをしだした。
「こんな時に何やってんだ!?カグラ!」
ユキヤが怒鳴ると、
「やっぱり!」
カグラは納得したように頷いてる!
「何がやっぱりなんだ?」
梅豚が問うと
「今、人工衛星にハッキングしたんだけど、スマホが盗聴されてる!ここにいる全員!いや『罵多悪怒愚』全員!!」
!?
何と!
『狂犬連合』は高度な技術者を雇い、針の穴のスキを突いてきたのだ!
ユキヤがバケツに水を汲み、持ってくる!
全員がスマホを水没させてく!
梅豚は歯をギリギリと噛みしめる!
今、ここに男は、梅豚とユキヤしか居ない!
この崩壊した家屋で、ほぼ武装していない今の状況下では、三人の女子の命を守るのは梅豚とユキヤ二人では厳しい!
しかも相手は重爆薬を持っている!
すぐに 第二波、第三波が来るであろう!
梅豚は苦渋の決断を下す!
「この家は諦める!すぐに撤退すんぞ!」
そう梅豚が言うと、ユキヤは外に飛び出し、ハイエースを取りに行く!
梅豚の流血する背中の血をタオルで抑えながらマナは
「これから何処に行くの?」
不安そうなマナ。
「エリア51だ。あそこなら昭和犬士以外 誰も知らねぇ」
「でも この家は・・・・・・」
「いいから行くぞ!皆殺しにされんぞ」
そう梅豚は言うと、悲しげなマナの手を引き、辺りを警戒しながら、リボルバーを構え、ユキヤのハイエースに三人の女子を最初に乗せ、思い出が詰まった我が家を名残惜しげに見ながら乗り込んだ。
タイヤを軋ませながら発車するユキヤのハイエース。
ユキヤが怒りを込めながら
「俺が見た感じだと、撃ち込まれたのはミサイルランチャーッスね!アイツらちゃっかり軍備してやがったんッスよ!クソッタレめ」
冷静なユキヤが、暴発寸前だ。
「分かってる。もう容赦はしねぇ」
梅豚が静かに返した。
マドカは何も言わず、俯いている。
それより驚いたのは、カグラの異常なまでのPCスキルだ。
そう言えば出会った時、得意技は『情報収集』と『ハニートラップ』と言っていたが・・・・。
尋常ではない。
マナの隣に座っているカグラは、さっきから親指の爪を噛んでいる。
そして何やら呟き始める。
「梅ジイとマナさんの愛の巣を・・・・『罵多悪怒愚』の楽園を・・・・アイツらブチ壊しやがった。ゼッテー許さねぇ」
見た目に合わない男口調になるカグラ。
マナが心配そうにカグラの頭を撫でる。
すると
バキッ
!?
カグラは、自身の親指の爪を噛み砕いた!
「ちょっとカグラ!何やってんの?」
慌ててマナは、カグラの出血する親指にハンカチを巻き付けた!
「梅ジイ マナさん ゴメンなさい!アタイが本気になってりゃ、みんなや家も守れたんだっ!チキショーアイツらっ!ブッ殺してやるっ!」
半狂乱になるカグラ!
梅豚は
(とんでもねぇガキを拾っちまったな。いい闘争本能だ。でもこのド鋭デェ目は・・・・)
マナに背中を擦られ若干落ち着きを取り戻すカグラ。
ユキヤはルームミラーをカグラに向けた。
悲しみ・・・・。
苦しみ・・・・。
憎しみ・・・・。
暴力・・・・。
殺戮・・・・。
無念・・・・。
全てを飲み込んできた18才の少女。
そのカグラの鋭い眼光は・・・・・・、
紛れもない幾多もの戦場を潜り抜けた『兵士』の眼光であった。
「待ってろよ。馬グソヤロウ共。血と鉄の雨 降らしてやんからよ」
憎悪の塊と化し、凄まじいカグラの闘争本能に火が着いたのであった。




