LEGEND・RYTHEM・SPECTER
有害指定都市ツチューラ市 極楽山 午後23時11分。
金属が擦れる音。
タコ足からのフルストレートの直管エキゾーストノイズ。
キャブからの吸気音。
ハロゲンのライトの光。
極楽山の頂上めがけて爆走する一台の古い昭和の車。
S30型のフェアレディZ!
この車は!
死刑部隊『罵多悪怒愚』
特攻隊長!
ユキヤだ!
尋常ではないスピードでコーナーをすり抜けて行く!
まるで氷上を走っているようである!
基本『罵多悪怒愚』のメンバー達は運転が下手であり、周囲から言われているように音と型だけ。
ユキヤのZもいわゆる外観はフルワークスでGノーズに極太タイヤを履かせた族仕様ではある。しかし、
速い!
このZは他の『罵多悪怒愚』メンバー達と違い、エンジンも2,8リッターに載せかえ、ボアアップして3リッターにしてあり、82度のハイカム。ビックバルブ、ポートヘッド研磨。CDI。ウェーバーの三連である!
この極楽山では、慣らした走り屋達などカモる事はユキヤにとっては散歩程度であり、喧嘩ばかりの『族あがり』などとは言わせない!物騒な事は物騒な『先輩』達に任せればいい!
このユキヤは、梅豚、アッチャン、タケシの二個下で、同じ中学校の後輩であり、兄の『ユキオ』はかつてツチューラでその名を轟かせた暴走族『鬼ゴッコ』の八代目総長。
しかしその兄のユキオは、愛車のCBX400Fとユキヤを親友の梅豚に託すと、積雪の不慮の交通事故で亡くなってしまった。
猛スピードでZを走らせながらユキヤは考える・・・・
兄が生きていたら?
自分の生き方は今とは大分違っていただろうか?
平凡な家族を持ち、平凡な暮らし。
想像もつかないが・・・・
ユキヤ自身、特攻隊長という立場上、常に喧嘩や乱闘、抗争では最前線に立たねばならず、相手は良くて半身不随。思わずブチ殺してしまった事もある。『罵多悪怒愚』は頭の梅豚が実はあまり喧嘩が強くない・・・・。
梅豚が得意とするのは市街戦の抗争や、奇襲、急襲、拉致監禁に拷問。そして卓越した武器のスキルを持ってする殺人であり、タイマンとなるとどうしても部が悪い。
そこでユキヤが前戦に出るのである!
梅豚は例え仲間とはいえ、気にくわないと思ったら容赦はしない。ユキヤも星の数ほどヤキを食らった。普段はボンヤリしていて、穏やかな感じではあるが・・・・
とんでもない!
ユキヤはあそこまで狂った人間はいないと思う!
釘を打ち込んだ『角材』でメッタウチにされたのも一度や二度ではなく、『半殺し』とはよく言うが梅豚は本当に『半分殺す』のである!
なんて人だ!
完全にサイコパスの変態だ!
先日も大酒を飲まされ、意識不明でユキヤは寝込んでしまった。しかし、何故か梅豚は「起きるのが五分遅い!」との謎の理由でユキヤの部屋のドアをブチ破って侵入し、一升瓶で頭を叩き割られた!
アッチャン先輩などもっとヒドイ!
ユキヤが中一の頃、中三だったアッチャン先輩は、ノッソリとユキヤの教室を訪れると、形式上だしてるだけのノートをビリビリ破り、ヘタクソな字で『ひゃくまんえん』と書き、「これで一万のラジコン買ってきて!そして99万のお釣り持ってきて!」といわれ、慌てて親の通帳を盗み金を段取りした記憶がある!
かなり前だが、マンションの通路でアッチャン先輩と口論となり、三階から叩き落とされた!しかも落下したのはユキヤが当時付き合っていた彼女のワゴンRだ!屋根はベコベコである!そしてエレベーターで降りて来たアッチャン先輩は、強烈な勢いでワゴンRの上でツイストを踊り、ユキヤ全損、ワゴンR全損の図式である。
タケシさんは意味深な笑顔で、長さ170センチ位のブルーシートの塊を「何処か遠く。果てしなく遠い何処かに果てしなく深く埋めて来て」などと無茶を言う!
こんな狂人達といると感覚もおかしくなって当然!
まったく!
いい加減にしてほしい!
しかし、
普段は優しい先輩達であり、何処か憎めない。(←バカ)
・・・・・
兄貴・・・・
見てるか?
兄貴が欲しがってたS30Zだ。
俺こんなに上手く乗れるようになったよ・・・・
兄貴と一緒に走りたかったなぁ・・・・
ナカミチのオーディオからは古いロックンロール。
ユキヤは思う・・・・。
『伝説』のロックンロールの『リズム』と共に『幽霊』でもいいから俺に会いに来てくんないかな?
兄貴!
我が兄弟よ、今夜もお前を忘れずに!!