愛すべきロクデナシ ~離別~
有害指定都市ツチューラ市内 荒巻町 『わんわんオートサービス』ユキヤのヤード 午後13時03分。
広大な敷地。
ビッシリ並べられた型落ち高級車。
どの車もカスタマイズされ、値段も相場の半値以下で並べられている。
二昔前のアルファードなど『マイルドヤンキー』のハートを直撃しそうである。
車が展示してある道路側のノボリには、
『ローン即日OK!』
『高価買い取り!』
『自社ローン完備!』
など、金の匂いがプンプンの謳い文句が書かれている。
展示場内の奥に小さなプレハブ小屋。
その中であくびをしながらタバコを退屈そうに吹かす熊のような体型の男。
『罵多悪怒愚』特攻隊長 ユキヤである。
そして冷蔵庫から缶ビールを二つとり、しゃきしゃき歩いてくるニット帽を被ったトッチャン坊や風な男。
『罵多悪怒愚』親衛隊長 タックンである。
この二人が何を企んでいるのか?
簡単である。
金が欲しいだけだ。
ユキヤは、ありとあらゆるバイクや車の流通に長けており、そのツテとスキルを生かし開業に至った訳である。
『罵多悪怒愚』のメンバーのバイク車の整備だけの収入では厳しい。そしてアッチャンの謎のカンパも厳しい。梅豚の閉店休業状態の『ツチューラ工務店』もかなり厳しい。
なのでこの『わんわんオートサービス』なるかなり胡散臭い車屋をタックンと二人で回している。
勿論、梅豚やアッチャンには内密だ。
バレたら「俺が筆頭株主だ!」「売り上げ全部ちょーだい」「恵まれないチビッ子達に愛の募金する」などとムチャを言うに決まってるし、何より面倒くさい。最悪な事も想定しながらタックンと日々営業を重ね、売り上げも順調である。
この手の改造車を売り捌く商売は、客が客を生み、横に広がっていく。整備費などは別途にて取っているが、勿論整備などしてない現状販売である。車検を通して二年後には改造車を欲しがるDQNなどどうせ飽きてしまっているのだ。
アコギな事はアコギな先輩に叩き込まれた。
怖いのは客や警察ではなく、梅豚、アッチャン、タケシなのである。事は慎重に進めなければならない。
店の電話が唸りだす。
ワンコールで出るタックン。
「御電話ありがとうございます!わんわんオートサービスでございまーーす」
キチンと商人らしく心にもない事をヌカす茶坊。
「はい、はーーい、買い取りですねーー!ご住所お伺いしてもよろしいですかー?はい、はーーい、30分でお伺い致しまーーす!」
上手いこと買い取りの仕事をゲットする小坊。
『高価買い取り』など勿論大ウソで、実際は売値の一割以下で引っ張ってくる。
ユキヤは買い取りに必要な現金が詰め込まれているセカンドバックを持ち、「んじゃ行きますか」とプレハブ小屋にガッチリ施錠すると、廃品回収で使われるようなポンコツの積載車の運転席に乗り込む。タックンが助手席に乗ると同時にアクセルを全開に踏み込む。現地の住所をナビに手早く入力するタックン。¥マークを頭に浮かべ、一般車を弾き飛ばす勢いで走る二人であった。
30分後、「ここかな?」とナビ通りの住所の敷地に頭っから積載車を突っ込むユキヤ。
すると・・・・・・
!?
見るからにガラの悪い三人組のイカツイ男達。
物怖じせず積載車から降りるユキヤとタックン。
三人組の一番デカくガタイのいい男がユキヤに接吻する位に顔を寄せ、「俺の事知ってるよなぁ」と不敵な笑みを浮かべている。
知っている。
コイツは梅豚達の一つ上でかなり悪名が通っている。姿形はあの『マイク・タイソン』ソックリだ。
通り名は『タイソン・ピーコ』。
中学校時代、ピーコはヤクザの準構成員を素手で三人半殺しにして名前を上げたが、アッチャンのデコピン一撃で泣かされてしまい、それ以来うだつの上がらぬダサ坊であった。
ピーコの子分二人がタックンを囲う。
「マズイな」
ユキヤは思う。
普段ならその場で殺してしまえばOKだか、今日は仕事で来てるし、敷地の片隅には美味しそうなレクサスが鎮座している。あれを店頭で売り飛ばせば軽く三桁は下らない。
その時、猛烈な勢いで砂煙を上げながら敷地に進入してくる一台のコルベット!
そのコルベットは、タックンを取り囲んでいたピーコの子分を躊躇いなく撥ね飛ばした!
そして運転席からは「お~~い、ソイツら死んだか~?」と呑気な声で梅豚が降りて来た!
・・・・・・・・。
呆れた。
そのまま梅豚は、ユキヤとタックンが乗って来た積載車の荷台の下に手を伸ばしGPSを回収している。
とっくに梅豚は気づいてたのだ。ユキヤの商売に。
狡猾な梅豚は、ユキヤに金と車を余す事なく回収させ、その上前をハネる算段だったのだ!
その為に積載車にGPSを仕掛け追跡し、店の帳簿が入ってるPCはマナにハッキングさせ売り上げはゴマかせないシステムを構築したのだ!
そして飛んでくるキチガイの弾丸セリフ。
「ユキヤ、後で売り上げの半分ウチまで持って来ーよ」
と、あくびをしながらいい放った!
「・・・・・・・・」
今更だが何てヤツだ!
『アナタは鬼ですか?』とゆう問いに対し『そうですよ』と涼しい顔で答えるであろう。
歯ぎしりするユキヤ。
すると、「おいおい梅豚ぁ」とピーコが殺意を浮かべた顔で梅豚に歩み寄ってく!咄嗟に梅豚の前に出て庇おうとするタックンの腕を掴み静止するユキヤ!
梅豚は一回半殺しにされたほうがいい。
ユキヤは心底そう思った。
素手のタイマンで梅豚がピーコに勝てる筈もない。
見た所、梅豚は丸腰だ。
チキチキとカッターの刃を出しピーコが梅豚の眼前に立ったその時!
「あ?誰だテメェ」と、カッターを持つピーコの右腕を掴み、ギリギリと上に締め上げてく梅豚!
ピーコのガタイは小柄な梅豚の二倍超だ!
力比べでは圧倒的不利な梅豚が余裕で勝っており、呑気にタバコに火までつけている!
すると、ピーコの締め上げた右腕を内側に捻る梅豚!
堪らずピーコはカッターを地面に落とした!そのカッターを梅豚は遠くにケリ飛ばすと、『ガコッ』と強烈なヘッドバット(頭突き)をピーコの顎に炸裂させた!
白目を剥いたピーコがぶっ倒れる!
「気安く呼び捨てすんなよ?クサレ半チクヤロー」
「!?」
ユキヤは絶句する!
おかしい!
梅豚は素手の喧嘩は弱い筈だ!しかし圧倒的不利な相手を秒殺した!しかも鮮やかな一切の無駄がない見事な喧嘩。
「・・・・・・・・。」
そして何事もなかったかのようにピーコのズボンのポケットからレクサスのキーを回収し、タックンに渡して何やら楽しそうに談笑まで始めた。
しかしユキヤの怒りは限界だ!
「会長!」
「あ?」
「もう俺『罵多悪怒愚』辞めますね!」
!?
衝撃的な言葉がユキヤから放たれる!
呆気にとられるタックン。そして無表情の梅豚。
そしてユキヤは梅豚の前に手を伸ばし、
「下さいよ、退職金」
鬼気迫る表情のユキヤ!
すると梅豚は、先程 車で撥ね飛ばした二人とブチのめしたピーコの財布から札だけ抜いてユキヤに渡した。そしてタックンに渡したレクサスのキーと自分が乗ってきたコルベットのキーをユキヤに差し出すと、
「タックン帰っぺ」
と、クルリと向きを変え歩きだした。
微妙な表情で梅豚の後に続いて去っていくタックン。
・・・・・・・・。
ユキヤは遠ざかる梅豚の背中を見つめる。
自分の亡き実兄は、何を思い何を考え、梅豚に自身を託したのであろう?
モノクロームに変わって行く梅豚の小さな背中は、以前に比べ、また小さくなっている。
最悪な男が率いる最悪な集団『罵多悪怒愚』。
その中枢にいる小さな背中は何処か寂しげであった。




