羅刹の街 第三章〜Uの系譜〜
有害指定都市ツチューラ市 車高短無法駐車帯『トリヒャク』午後15時03分。
広大なショッピングモールの駐車場に、我が物顔でたむろする旧車の数々。どれも値の付けようがないビンテージカーやバイクばかりである。
先日の『罵多悪怒愚』によるピンポイント爆撃は、ツチューラの公的需要施設をほぼ壊滅させ、大打撃を与えたが、このような自分達に好都合な施設は残していた。
警察は無力化し、国家の対応も遅い。
それはそうであろう。
日本一魅力のない都市の魅力のない街がどうなろうと、国家は知ったこっちゃない。
ましてや攻撃したのは、あの独裁国家と見ているのだ。
その国に対し、無礼がないよう『遺憾の意』で口撃しながら機嫌を取るのが先決である。
当たり障りないように・・・・
・・・・・・・・
これが日本である。
国家権力を無力化させる事に成功した、梅豚率いる『罵多悪怒愚』は、勢力を拡大させ、続々と県外からアウトローを呼び寄せ、手中に納めていた。
各県境には兵隊を配備し、国家権力が再建できぬよう、万全な対策を実施していた。
勿論、目障りな一般市民の退去は自由である。
現に、市民の半数が消され、治安が乱れまくった羅刹の街に人々は未練がなかった。別の安住な地に飛べばいいだけである。
悪党達に魅力的なこの街は、着実に、そして確実に理想の体制を築き、肥大する。
そして・・・・・・・・
ショッピングモールに集結している旧車の群れは、勿論『罵多悪怒愚』である。
その中で一際目を引くS30フェアレディZ。
『罵多悪怒愚』特攻隊長『ユキヤ』である。
多くの若者を引き連れ、貫禄が二割増し位になっている。ちょっと前なら、これだけの改造車で集結していると、すぐに通報が入り、当局による嫌がらせが始まったが、今は何もない。何かあったら殺すまでだ。その為に、メンバー各位、拳銃や刃物で武装している。
これ見よがしに下っぱメンバーが叫ぶ。
「スゲェッスね!ユキヤさん、あん時のヘリ操縦してたんスカ?」
「ああ。」
面倒な感じで返すユキヤ。
興奮するメンバー。
「パネェッスね!やっぱ『罵多悪怒愚』は最強ッス。んでぇ、俺も会長に会わせてもらえ・・・・」
メンバーが言い終わる前に、ユキヤの強烈なケリが飛ぶ!
ドゴッ
「テメェが会長に会えるタマかよ?チョウタレんな、ガキ」
吐瀉物にまみれ、倒れるメンバー。
ユキヤが危惧していた通りだ。
メンバーが増えれば、こんなアホも増える。統率を取るのも大変であり、これが『罵多悪怒愚』の為になるのだろうか?
しかし・・・・
それよりユキヤは気になる。
さっきから、遥か遠くから鳴り響いてくる爆音。
この音は『1G』のツインカムだが・・・・
マナの音じゃない。
ユキヤは自分が組んだ車やバイクの音は、絶対音感で聞き分ける。自分の調律した音じゃない。
もっと過激で暴力的なサウンド。
そして・・・・
その車が空ぶかししながら『トリヒャク』の駐車場に入って来た!
!?
紫メタリックの車体・・・・
散りばめられた七色ラメ・・・・
デッパワークス・・・・
ホースが垂れ下がったハッタリオイルクーラー・・・・
セブンパネがパテ埋めされ、スムージングされたリアには、カリーナテールランプ埋め込み・・・・
交差したボンネット出しタケヤリ・・・・
この悪趣味の限りを尽くした車・・・・
車種は、『セリカXX』!
リトラクタブルヘッドライト(開閉式)は、片方が開かれ、片方が閉じられていて、眠そうな顔つきである。
ユキヤのZの真横に駐車させ、セリカのドアが開く・・・・
其処には!
・・・・
!?
身長約168センチ やせ型
『butter dog69』とかわいいプリントがされた白い長Tにデニム。足元はアディダススーパースター。数多くのシルバーアクセ。そして・・・・
赤髪のリーゼント!
これは!?
若かかりし頃の梅豚に瓜二つ!
この『コピー梅豚』は!
・・・・・・・・。
梅豚の実姉『梅子』の息子、つまり梅豚の甥である、
『Uチビ』だ!
そして『罵多悪怒愚』武闘集団『友極會』隊長!
何とゆう事であろうか?
確かに梅豚とマナの間には子供がいない!
しかし、しっかり受け継がれていた系譜!
『罵多悪怒愚』も世襲を踏むのであろうか?
そして、のんびりユキヤに近づくUチビ!
ユキヤの顔が複雑に歪む!
コイツは梅豚の甥っ子であり、非常に扱いが困難である!
そんな事は知ってか知らずか『罵多悪怒愚』メンバーをケリ飛ばして行くUチビ!
「オラ、テメェらボケっとタムロってねぇで『地廻り』して来ぉよ!あ?」
瞬時に発動する『梅』のDNA!
Uチビは年齢十九、あだ名は『極悪小僧』!
嫌な笑顔でUチビはユキヤに、
「ダメじゃん、ユキヤさんよぅ、こんなヤツら相手に油売ってちゃ。梅豚にドやされっと?」
大先輩のユキヤに対してコレである・・・・
ちなみに『罵多悪怒愚』副会長、アッチャンの少年期のあだ名が『極悪坊主』である。
すなわち、コイツは梅豚の外観と知能と残虐性、そしてアッチャンの性根と拳を持つとされており、母は梅子。父もそれなりに鳴らした不良で、まさにUチビは、核兵器級の『最狂混血』である!
しかし、ユキヤもUチビに飲まれる訳にはいかない!梅豚にも厳しく躾るように言われてるし、特攻隊長としてのシメしもある!
「あ?誰に口きいてんだ小僧。会長の甥っ子ってだけでデケェツラしてんなよ」
突き刺さるユキヤの言葉!しかし、
「チッ、エラそーにしやがって。俺ぁ梅豚の名前なくてもアンタよりヤレンぜ?ユキヤくん」
もう黙っていられない!
ユキヤがUチビに、全開の横殴りを繰り出す!
しかし、呆気なく左手で受け止めるUチビ!
「んだよ?このメガトンパンチ」
!?
怪力ユキヤのパンチを軽く受け止め、涼しい顔をするUチビ!かなりの喧嘩スキルである!
流石に十代ながらに、一個大隊を贔屓目なしに、梅豚から任命されているだけの事はある!
しかし・・・・
鋭い前ゲリを飛ばすユキヤ。難なく左足で受け止めるUチビ!
が!
素早くUチビの赤髪の後頭部を掴み、前傾姿勢をとらせ、強力な膝ゲリを顔面に叩きつけるユキヤ!
潜血が飛び散り、後方にぶっ倒れるUチビ!
・・・・
やはり年季が違う・・・・
ユキヤの圧勝である。
周囲からは、歓声とも溜め息とも取れる声が洩れる。
ダテにユキヤも『罵多悪怒愚』の特攻隊長を任命され、数十年に渡り、抗争のトップを走ってきた訳ではない!この喧嘩は、血と屍の歴史。
まだまだ若い『罵多悪怒愚』にこれからも教えていかねばならない。
すると。
駐車場に入ってくる黒い新型のエルグランド。
静かに『罵多悪怒愚』連の前に停車する。
搭乗しているのは・・・・
!?
運転席からタックン。
助手席からはタケシ。
後部中央からは梅豚とマナ。
最後部からはアッチャンが降りてくる!
『罵多悪怒愚』最高幹部連である!
世界一の悪党集団・・・・
するとタックンが雄叫びを上げながら、
「殿下ぁーーー!(Uチビ)大丈夫ですかぁーーー!」
と、Uチビに駆け寄る!
そして、Uチビを抱擁し、
「ユキヤくん!ひどいじゃないですかぁーー!こんなに殿下の顔面殴って、嫌、蹴ってぇーーーー!」
・・・・・・・・。
異常な過保護っぷりを見せるタックン。
若い頃の梅豚を重ねているのだろうか?
それとは別の意図が・・・・
「しょうがないでしょうが!キッチリ上下は教えねぇと、俺だってやりたくてやってる訳じゃないですよ」
反論するユキヤ。
「な!な!な!なーーーーんでですかーーーーーーー!」
絶叫し、パニックになるタックン。
そんなやり取りを梅豚とマナは『ヤレヤレ』といった感じで見つめ、タケシはエルグランドにもたれ、楽しそうに成り行きを観察。アッチャンは相変わらずスマホゲームに夢中だ。
するとUチビは、
「気持ち悪ぃな!離せよ」
と、タックンを振りほどく。
捨てられた子犬のような表情になるタックン・・・・
そしてセリカに向かい歩いて行くUチビ。
ユキヤが梅豚達に問いかける。
「どうしたんですか?皆揃って。新入り達、ビビってんじゃないっスか」
当然である。
新入りの『罵多悪怒愚』メンバー達は初めて見る伝説の幹部達に狼狽している。
梅豚が答える。
「いやぁな、随分と趣味クソ悪ぃXXが走ってたからよ、どんなヤツが転がしてんのかツラ見たくてよ」
角刈りの黒髪になり、年相応になった梅豚が、Uチビに聞こえるようにディスる。
脚が止まるUチビ。
そして自身の愛機、セリカXXを見つめる。
この車は、十八の誕生日に、梅豚とマナが買ってくれた。Uチビはほとんどノーマルのこのセリカを、自身が率いる『友極會』のメンバーと、全開でドレスアップした。通常『罵多悪怒愚』のメンバーは、ユキヤにカスタムは一任する。
しかしUチビは、梅豚への反発心なのかそれをしなかった。勿論、梅豚がこのような車のイジリ方が大嫌いなのも百も承知で。
Uチビはこの車を、切って張って叩いてドレスアップしたのだ・・・・梅豚とマナがくれた愛機を。
車が可哀想である・・・・。
自分の馬鹿さと無力感をしみじみと感じ、涙をこらえるUチビ。
すると横に梅豚が立っていた。
そして、
「U。お前の部隊、昨日、自衛隊の駐屯地襲撃したろ?」
!?
まさかっ?
数多くの別動隊を抱える『罵多悪怒愚』であるが、部隊を動かすには最高幹部の承認が必要だ。しかも自衛隊襲撃・・・・
無謀にも程がある。
梅豚が続ける。
「こんな危ねぇ時期に自衛隊に突っ込むなんて、何考えてやがる?テメェはたまたま運が良かった。ヘタすりゃ『蜂の巣』だぞ?分かってんのか、コラ」
俯いたままのUチビ。
しかし容赦なく梅豚は罰則の提案をする。
「U!オメェは罰として、一週間、アッチャン御殿に住み込み!以上」
!?
何と!
これ以上の罰則はないであろう、梅豚の提案!
アッチャン御殿に住み込み・・・・
通常の人間なら数時間で死ぬ!
アッチャンは五分に数十発、人を殴る蹴るの暴行を加える。そして気分次第で爪を剥ぎ、拷問し、鵜飼いの鵜にしてしまう。
呆気にとられるUチビ。
これは抗議しなければ!
「ちょ、待てよ!オジキィ!俺、死んじまうじゃねぇか!たった一人の甥っ子を殺すのか?」
振り向きもせず、梅豚は、
「オメェは少し恐怖感が足りねぇ。オフクロが甘やかしすぎたな。アッチャンから学んでこい」
吐きすてる梅豚!
食い下がるUチビ!
「そりゃねぇだろ?おい、オジキに言ってよ!マナ姐!俺の何が悪ぃ?」
マナは眠そうに、
「坊やだからだよ」
と呟き、梅豚に続き車に乗ってしまう・・・・
美人はこんな時でも美しいから困る!
そして次々と撤退する『罵多悪怒愚』。
さっきまでの、気持ち悪い程優しいタックンも、厳しい表情で去って行く。
そう、誰も助けてはくれないのだ。
途方に暮れるUチビ・・・・
そして、
「俺っ!アッチャン!二歳っ!よろしくなっ!ドーーーン」
と、殺人パンチを繰り出してくるアッチャン!
数十メートルぶっ飛ぶUチビ!
倒れたアスファルトの横に
バスン!バスン!
と、穴が開く!
「キャハ、外しちった。むぅ~ん、照準ズレてんのかなぁ」
!?
『安室○美恵』似の女が、対戦車ライフルをぶっぱなして来た!
アッチャンの彼女の『マドカ』だ!
そして・・・・
アッチャンとマドカに連行されたUチビは、少しだけ懲りたようであったが、あの梅豚の甥である。
アッチャンから暴力の所作を学び、さらに狂暴性を増すのであった・・・・。
脈々と流れる『梅』の系譜。
そして、『カシラ文字U』の本当の意味。
お分かり頂けただろうか?




