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天使様はポンコツです  作者: trombone
38/42

三十五羽目


『貴方、もうそれほど時間が残っていない』


 その一言がずっと深いところに刺さっていた。太陽は真上に昇りここに来た時よりも暑さは増しているはずなのだが、不思議なことに今はそこまで暑くない。原因は分かっている。シルヴァの一言だ。たかが一言、されど一言である。胸に宿った焦燥は一気に俺の体温を奪っていった。


「何だかなぁ……」


 重圧を振り解くように息を吐いて、項垂れるように俺は歩きだした。

 校長の頼みもとい強請りも終え、いよいよ何もすることがなくなった俺はキュニアスの所へ向かっていた。恐らく現状で最も話せることが多いだろうと踏んだからだ。とは言えそれを踏むまでに何度も自問自答はした。本当にあの腹黒の精霊なのか。他にもっと適任がいるのではないか。などなど思いつく限りの問答を繰り返したが、残念な事にこの危険な楔を踏むしかなかったのだ。


「おーい。いるかー?」

「そんな馴染みの店に入るようなフランクさで来ないでくれる?」

「何度もこうして足を運んでるんだから、馴染みと言っても変わらんだろ」

「ここ、貴方が思っているより神聖な場所だからね? そこら辺の油っこいラーメン屋とは違うからね?」


 呆れを溜息に変換するキュニアス。何度か会話している内に当初の丁寧な口調は砕け、今ではすっかりこの調子だ。そんな他愛のない会話が少しだけ体温を元に戻した。十六番目の迷宮は風が吹かない割には涼しい。


「それで、今日は何の用かしら? よもや暇だから来てみたなんて事はないわよね? 仮にそうだとしたら叩き帰すけど」

「俺だって暇な時にこんな場所に来たくない」

「……ほぉ、処される覚醒がお有りで?」

「すみませんでした俺が悪かったです」


 どうもキュニアスは怒ると翠色の瞳が紅くなるらしい。いやそんな事より精霊怖い。


「寛大な心でもう一度だけ聞いてあげるわ。な・ん・の・よ・う!」


 精霊はわざとらしく一音一音を切り離して問いかける。これはさっさと話してしまった方が身のためだろう。そう思い、俺はここに至るまでの経緯を説明した。


「なるほど、大方の事情は把握たわ」

「そうか、なら……」

「とは言え私も何も教えられないわよ。それが決まりだし」


 まただ。やはり誰もが口を揃えて同じ答えを弾き出す。知らないことがあるのは別に構わない。俺自身が全知であるはずがないのだから、それが正しい。けれどもそれは自分の事に対してもだろうか。泰樹であろうと目の前の精霊であろうと、自分の過去は誰よりも詳しい。それは普通の事だ。ともすれば俺の過去を周囲の方が詳細の把握している俺は異常だ。


「こらこらそんなに怖い顔しないで」

「あ、あぁすまん」

「貴方が聞きたいことも分かるし、胸中も察するわ。まっ、私は何も言えないけど貴方の話ぐらいなら聞いてあげるわ。ほら、何か話してみなさい」

「そう言われてもな」

「何でも良いのよ。貴方が今までにしてきたことでも何でも良いわ。そうすることで貴方自身を整理することが出来るんだから」

「整理?」

「そう、整理。今の貴方は誰が見てもごちゃごちゃしてる。ひっくり返したおもちゃ箱より酷いわ。だからさっさと話して片付けなさい。とっ散らかった中でうだうだ考えても無駄よ。良い?」

「お、おう」


 どうしてこう精霊というのは我が強いのだろうか。いやこれに関しては化物という種族絡みでだな。どいつもこいつも自己主張の激しい奴らばかりで、まともな会話もできやしない。


「つっても何から話せば良いのやら」

「何でも良いのよ。適当に話しなさい。あっ、でもその前に」


 キュニアスは軽快に指を鳴らした。それからワンテンポ遅れて重苦しい音を立てて地面が浮かび上がって来た。あれよあれよと地面は机となり、椅子となり挙げ句の果てにはティーカップまで出来上がりクッキーまで出てくる始末だ。これこそが精霊の成せる御業だとでも言うのだろうか。好きな時にティータイムを始められ、尚且つ食器を洗う手間も省けるのだから羨ましい限りである。


「何というか流石だな」

「あの魔女には到底及ばないけど、私だってここならこれぐらい出来るんだから」


 ふふんっと平らな胸を張るキュニアス。こいつ中々に愉快な性格をしておきながら、その実は子供っぽ所があるよな。外見外装ともに相まって我儘なクソガキとでも評した方が正しいだろう。


「何だか失礼な事を考えてるわね?」

「いやお前らのドレスは各々似合っているなと。それよりティータイムにするならストレートでも貰おう」

「身に覚えのある図々しさだわ……」


 半目で睨みながらも、キュニアスが再び指を鳴らすと本当に紅茶が出てきた。改めて周囲を観察するがここは十六番目の迷宮の中である。上下左右は厚い石に囲まれているし、当然のように風は入ってこない。その証拠に等間隔に配置された松明は煌めいてこそ入れど、揺らめいてはいない。いやちょっと待て、火は風がないと燃えないだろうが。それに俺だって息が出来ないはずだ。


「なぁキュニアス。あの松明どうなってるんだ?」

「え?」

「んな鳩が豆鉄砲喰らったみたいな顔せんでも」

「いえだってねぇ? そんなこと考えたこともなかったと言うか、考えるまでもなかったというか。普通に考えれば分かるというか。まぁ特に捻りもなく魔法よね。魔術でもなく純粋な魔法よ」

「俺が息できてるのもか」

「それ以外に何があんのよ」  


 やれやれと首を横に振られてしまった。いやまぁ、うん。凄いな魔法って。


「さ、御所望のストレートよ。貴方の話をしなさい。それが無理だと言うのなら同棲している天使の話でもすれば良いわ」

「そうだな。なら長くなるぞ」

「はいはい」


 クスクスと笑うキュニアスに俺は絡まった糸を丁寧に解すように、口を動かしていく。


「俺には元々、調べていたことがあったんだ。今となってはもう、どうしてそれを調べだしたのかも覚えていない。一時の気の迷いなのか、餓鬼が酒や煙草に憧れるのと同じなのかは分からないが、兎も角リスクを冒してまで知りたかったことがあった」

「それが何なのかは、当然教えてくれるわよね? そこまで言ったんだもの」

「あぁ。寧ろお前の方が詳しいかもしれないから白状するが、俺が調べていたのは一人の天使についてだ」

「ふぅん。で、その天使の名前は? いくら私と言えど全ての天使を把握してるわけじゃ」

「サリエル」

「なっ━━━━!」


 間髪を入れずに響いた名前に、分かりやすく翠色の双眸が揺らぐ。誰だってこの四文字を聞かされれば同じような反応をするだろう。終末を生きた精霊なら尚の事だ。それほどまでにこの四文字の威力は絶大なのだ。それはもう目の前のキュニアスが椅子から飛び上がるほどに。


「な、何だって貴方がそんなことを調べているのよ!?」

「まぁまぁ。取り敢えず座れよ。お、美味いなこの紅茶」

「そりゃ良いの使ってるからね。って茶葉の事は良いのよ!」

「悪い悪い」

「貴方、本当に時ヶ峰の魔女に似て来たわね……」


 何やら不吉な言葉が聞こえたが無視しよう。


「で、だ。ここからは不透明な話になるが、俺は最初にどうして調べだしたか覚えてないと言ったな?」

「えぇ、そうね。でもそんな事ってあり得るの? ちょっとした好奇心じゃ見向きもしない内容よ?」

「そうなんだよ。普通は気にもしないような事を、俺は大図書に忍び込んで調べ尽くし、ある程度は世界の成り立ちを理解した。いや、ここまで来ると最早させられたのかもしれない」

「させられた」


 理解不能な事を言っている自覚は当然ある。だって言っている俺が分からないのだから。


「正直に言えば俺は大図書に忍び込んだ記憶はない。あるのは二の腕の刺すような痛みと、真っ赤に染まった布団だけだ」

「つまり、誰かが貴方に知らせようとした……?」

「分からない。俺にサリエルの禁術や世界構成を知らせて得になるような奴が思い当たらん」


 頑丈に保管されていたのだと思う。指の爪が何枚か剥がれていたのだからよっぽどのことだ。痛覚というのは敏感なようで未だに思い出すことがある。それでも以前に比べたら思い出すことも少なくなった。賑やかな同居人のせいで思い出す暇すらないからだろう。


「……」

「キュニアス?」

「え、あぁこほん。何かしら」

「大丈夫か? 体調悪いなら出直すぞ」

「精霊にそんな概念があると思う? 人間の延長線である化物とは違うわ。それより早く話しなさい。無意識に調べ始めたとはいえ、知識は得てしまったんでしょう? それを事細かく説明しなさい」

「お、おう」


 妙な間があったがこうも圧をかけられてしまったら、迂闊に聞くこともできない。触らぬ楔に祟りなしだ。大人しく続きを話すとしよう。


「まず最初に知ったのはサリエルについてだ。どういった経緯で堕ちたかは分からなかったが、元凶というかキッカケであることは分かった。で、それに付随して禁術と呼ばれる物があることも知った」

「終末やら禁術やらって第三者的に聞くと、ものすっっっごく陳腐ね。安っぽいったらありゃしないわ」


 それに関しては俺も同意である。言ってて恥ずかしくなるというかむず痒い。なんかもう少し別の言い方は無かったのかね神様よ。


「でまぁ、魔物と古代種についてはある意味常識的な話だろ? 駆除する奴のお陰でめっきり見なくなったとは言え、護身の要目で誰かに教えられるはずだ」

「実際にここで見たものね」

「あぁ。その時から俺は一つだけ禁術が使えるようになった。どうやって使っているか上手く言葉に出来ないんだが、バカでかい扉が目の前に並んでいてそれを開けると使えるんだと思う」

「扉ねぇ。それは一体何枚あるのかしら?」

「恐らく五枚だと思う。一枚開けて一つ使えるなら五種ある禁術の数と同じ枚数と考えるのが自然だ」

「なるほど」


 肯定とも否定とも取れない表情。この感じからしてキュニアスは全容を知っているだろう。俺に伝えられないとは言え、表情ぐらいは分かりやすくして欲しいものだ。表情から読み取れる情報というものも強ち間違いではないのだ。


「ただ開いた一枚の先にはどうやっても行けないんだよな。押せど願えど開かないし、いや別に開かなくて良いんだけども」

「あら、意外だわ。貴方ならあの手この手を使って抉じ開けそうだけれど? やっぱり怖いかしら?」

「まぁこればっかりはな。てかそれとは別に考える時間が取れてない」

「ふふっ、その原因は天使ちゃんかしら?」

「……そうだな」


 なんだその新しいおもちゃを見つけたかのような目は。こいつの前でポンコツの話をしたくないのは、こうなるからなんだよな。さっきまで真剣そうにしていたくせにニマニマとこっちを見て来やがる。絶妙に腹の立つ顔だなこいつ。まぁいい。今は頭を整理するのが先決だ。多少の辱めは耐えてやろう。

 実際あれだけ自分で効率的な式を組み上げために徹夜をしていたのが今となっては懐かしく思える。ポンコツが来る前までは適当な時間に飯を食い、飽きるまで思考に耽っていた。けれどもポンコツが転がり込んで来てからは、ある程度決まった時間の食生活にさせられた。お腹が空いたと喚くのだから仕方がない。一人だった空間にもう一人が追加されると、その瞬間から自由に制約がかけられのである。


「でも苦痛じゃないんでしょ」

「……ノーコメントで」


 こちらの心情を見透かしたかのように笑うので、何だか姉にいじめられているかのような気持ちになる。いや俺に姉はいないけれども。


「ごめんごめん。それこそシルヴァの事を思い出してね」

「シルヴァ?」

「そ。さっき貴方が会った精霊よ。あれも貴方の似たような感じで一人を二人にさせられたというか、結果的に二人になったからね。その時も似たような反応だったの思い出すと笑ってしまうわ」

「なぁ、シルヴァは一体どんな精霊なんだ?」

「あら気になるの?」

「ちょっとな」


 去り際に言われたことと一瞬だけ向けられた敵意がどうも尾を引く。ただの敵意ではなくて、悲壮感というか恨みというかそんな感情を孕んだ目だった。


「まぁ別に口止めされてるわけでもないし、要所を話す分には構わないかしら。良いわ、話してあげる。ナトゥーラとシルヴァが姉妹なのは知っているわよね?」

「あぁ」

「精霊って基本的には一個体で存在しているけれどあの二人に関しては例外ね。あれだけ広い森だから、人の噂が分散してしまったのでしょうね」

「分散?」

「そう分散。あぁー、待って。貴方、私達についての知識はあるのかしら? そこを確認するのを忘れてたわ」

「それなりには知っていると思うが……」

「曖昧ねぇ。もっときっちり言えないの? ここからここまでは知ってるみたいに」


 ティーカップに本日ニ杯目の紅茶を注ぎながらキュニアスは問う。俺が精霊について知っている事は何だろう。確か、最初は人間の噂から発生して名前をもらってから存在を確立するのだ。そこまでは知っている。ただそこから先は知らない。先があるとも考えなかったな。


「存在方法しか知らないな」

「ま、それが普通よね。私達が噂話から生まれて存在している事でみんな打ち切りなのよね。でもね、そこから先があるのよ。考えてみなさいな。どうして私達が存在しているのか」

「ん? 人の噂話じゃないのか?」

「それは過程であって答えではないわ。物事っていうのは何かしらの理由があって成り立っているの。それは私達も例外なくよ」

「なるほど」

「私達の存在理由は守護。時計台の精霊は時計台を。ナトゥーラとシルヴァなら森林を。私ならこの迷宮をといった具合に何かしらの場所に紐つけられている。まぁ、守護なんて大層な言い方をしたけれど要は見張りよ」

「それは最初から紐づけられているのか? キュニアスは最初からここにいたわけじゃないだろう?」

「私の話を覚えていた事は褒めてあげるわ。そうね。私も例外の部類だわ」


 口が乾くのかかなりの頻度でキュニアスはカップを持ち上げる。時折その食感を楽しむようにクッキーを頬張る姿はどこかの天使様を思い出させる。このクッキーどこかで食べたことのある味だと思ったら、校長室に置いてあるやじゃないか。人使いの荒いやつはお菓子の趣味まで同じなのだろう。


「本当に失礼な事考えてないかしら?」

「い、いや考えてないぞ。それよりも例外ってなんだ?」

「貴方は顔に出やすいんだから気をつけなさいよ」

「……肝に銘じておく」

「その言い回しは肯定したと取るわ。ふぅん、つまりそういうことね。良いわ後で処すから」


 しまった墓穴を掘った。


「精霊の紐付けは大半が発生時からだけれど、たまに紐付けされないままに発生する精霊もいてね。私や確か時計台の精霊もそうだったわ。そういう精霊は後付けで紐付けさせれるの」

「なるほどな」

「例外繋がりで言うとシルヴァもそうよ。あれ元は大樹の精霊だもの」

「大樹? でもシルヴァは湖の方にいたぞ?」

「それこそ色々あったのよ。察しの通り色々の内容は答えられないけれど、あれは後付けでもなく紐を解いて別の場所に括り付けた例外中の例外ね」

「あの大樹、昔はこの世界に干渉していたんだろう? もしかして今機能していないのはそれが理由か?」

「えぇそうよ。ナトゥーラはが森林全体に紐付けられているからどうしようもなかったのよね。ここ最近じゃめっきり精霊も生まれてないし、数が足りてないのよ。迷宮だって私を含めて十はいないわ」


 六十六の迷宮があると言うのだからてっきり沢山いると思っていた。


「ま、こんな所かしらね。うーん、自分から話を聞くって言っといてあれだけど飽きたわ」

「おいおい」

「精霊だとか終末だとか頭が痛くなるわ。それよりもっと面白い話をしなさい。例を挙げるなら貴方の天使様の話をしなさい」

「何も面白くないと思うぞ」

「それは貴方の推測であって私の感情じゃないわ。良いから話しなさい」

 

 その後、有無を言わさぬ眼光で貫かれた俺はポンコツとの数ヶ月の話をさせられる羽目になった。高頻度で茶々を入れてくるキュニアスがやや鬱陶しかったが、催促される会話を打ち切るわけにもいかずあれよあれよと話してしまった。


「……まぁ、こんな感じだ」

「へぇ、案外上手くやってるじゃないの」

「俺の時間は減ったがな」

「とか言いつつそこまで迷惑がってないくせに」

 

 キュニアスの言葉に俺は顔を顰めることしか出来ない。俺自身おかしなことだとは思っている。制約とまではいかなくとも、それなりに自由に使える時間は減ったはずなのに一人で生活してきた頃よりも今の方が気に入っているのだから。


「人間にせよ化物にせよ、誰だって孤独感には敏感なのものよ。私だってそうだわ。今よりもずっと昔の方が楽しかったもの。だから貴方が満更でもないのは別に不思議じゃないわ」

「俺は一人の方が好きだが……」

「さっきも言ったでしょう? 例外はあるわ。孤独を心から愛す者もいたし、最後まで他者との関わりを拒んだ大馬鹿もいたわ。けどね、この世界は残念な事に完全な一人で生きていくのは不可能なの。どうやったって誰かの介入があって、意図せず一人は壊されるわ。あいつらもそうだった」


 そう言ってキュニアスはゆっくり波打つ紅茶に目を落とした。それは二度と戻らない過去に思いを馳せているようで痛ましく、それ以上に美しかった。


「でも貴方の場合は違うわ。一人が好きなんて言って言葉の鎧を纏っているけど、深層じゃ一人でいることを嫌っているもの」

「そんな事はないと思うが」

「気付いていないだけよ。けど貴方、天使ちゃんの話をするとき顔が緩んでるわよ?」

「えぇ……」


 表情筋というのは意識に左右されない筋肉だっただろうか。いやいや筋肉が動くのは脳から送られる電気信号ゆえだろうに。それともいよいよ脳が壊れてしまったか。だとしたら重症だし早めに診てもらわなければならない。親父に良い病院を紹介してもらうとしよう。


「そんな事しなくても大丈夫よ。貴方は正常だわ」

「考えていることが筒抜けだと!?」

「分かりやすいもの」


 盛大に息を吐きながら机に突っ伏す。なにせ会うやつ全てにお前は分かりやすいと言われてしまうのだから、早々に対策を練らねばなるまい。よく考えればあいつらが異常なだけな気もするが


 盛大に息を吐きながら机に突っ伏す。なにせ会うやつ全てにお前は分かりやすいと言われてしまうのだから、早々に対策を練らねばなるまい。よく考えればあいつらが異常なだけな気もするが、それはもう不変的な事なので俺がなんとかするしかない。非常に癪だが泰樹に頭を下げよう。

 などとくだらないことを考えていると、心地の良い空白が過ぎて行く。カップにかけた手から紅茶を飲み終えたことが告げられる。


「なぁキュニアス」

「なによ。言っとくけど今ので茶葉が切れたわ」

「いやそれは別に良いんだが、え、もうないのか」

「そんな悲しそうな顔をしても、この通りよ」


 そう言うキュニアスはティーポットを逆さに振って茶葉の有無を伝えてくる。どうやら本当になくなってしまったようだ。これを飲みにくるためにならここに足を運んでも良いかと血迷うぐらいには美味しかった。なので少々、残念だ。


「で、なによ。もったいぶらないでさっさと言いなさい。気味が悪いわ」

「どうしてそこまで俺の面倒を見てくれるんだ?」


 それはとてもとても情けない問いかけである。いやまぁ、純粋にどうして話を聞いてくれたのか気になるだけだ。けれどもどう考えてもキュニアスに対するメリットがない。俺の話に相槌を打ったところで、それは宝くじに当たるのは違い面白みに欠ける。適当な理由を逡巡しているが、この問いはどうにも喋りすぎた手前格好がつかない。野暮ったいと言うか何と言うか。うん止めだ。この話は墓まで持っていこう。そんな俺の胸中を知ってか知らずか鼻で笑って、案外面倒見の良い精霊は答えるのだ。


「私がキュニアスだからに決まってるじゃない」


 恐らくそれは俺ともう一人に向けられた言葉なのだろう。それだけは良く分かった。

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