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飢えた獣のように

高カロリーだなぁ

 俺はシンタロウとアイラが茹でて皮をむいたじゃがいもを受け取る。


「おいおいなんでせっかく茹でた芋を潰すんだよ」


 そこに刻んだ玉ねぎとにんにく、ミンチにした肉を加え塩、コショウする。


「てめえおい肉までぐちゃぐちゃじゃねえか」


 それらをこねて手のひらで形作ると、パン粉にまぶす。


「はぁ?なんでまたパンを削って粉に戻したんだよ、焼いた意味がねえだろが」


 …そろそろうざくなってきたぞ。


「あのさ、フリスクさ、一言いいか?」

「なんだよ?」

「さっきからうるさい」


 白髪のおっさんことフリスクは、俺たちが調理しているといちいち口を挟んでくる。

お前は黙って見てるのが仕事だろうが!


「おめぇがわけわからねえことしてるからだろうが、そんなもんお頭に食わせる気か」

「これはまだ完成ではない、これ以上ごちゃごちゃいうと出来上がってもお前にはやらんぞ」

「あぁ?頼まれたってそんなもん食わねえよ!」


 けっ、俺はもう今日これしか作るつもりないからな。

フリスクとにらみ合いながらも手はひたすら作業を続けている。


「まあその人の言うこともわからなくはないですよ」


 と、言ったのはアイラ。

なぜだ!なぜフリスクの味方をする!

アイラだって俺と一緒に作っていた仲間だろう!


「こんな料理見たことも聞いたこともないもんね…」


 シンタロウまで悲しい目をしている。

心の中に何もかも放り出してコムラードに帰りたい気持ちが少し湧いてきた。

帰り道がわからんけど。


「ガキ共はわかってるじゃねえか」

「なんなん?なんでお前ら皆これ知らないの?俺をあんまりいじめんなよ?泣くぞ?」

「なにも泣くことはないでしょう…いい大人が…」

「そうだよおじさん、ぼくは完成を楽しみにしてるよ?え、ええとこれからどうすればいいの?」


 少年少女まで俺に憐れみの視線を向けてくる。

料理をしていてこんなにつらい気持ちになったのははじめてだ…


「後はそれを油で揚げて終わり…です…」


 うなだれた俺の手をシンタロウが引いて油を張った鍋の前に連れて行く。

さっきまで芋とひき肉の合成物をこねていたのでベッタベタなんだが気にせず手を握ってくれた。

シンタロウの優しさに感動した、最後まで頑張ろう。


 熱した油に、こねて小判型にした物体を投入するとじゅうううと揚げ物のいい音が鳴った。

うーんやっぱりこの音を聞くと食欲が湧いてくるな。

そういやめちゃ腹減ってるし、こいつらが食わないとか言い出したら自分で全部食えばいいか。

フリスクなんか茹でた芋だけで十分だろ。


 キツネ色になってきたものを油から引き揚げて、皿の上に置く。

あれが欲しいな、油切るパッド的な入れ物、その辺のもんで自作できる気もするな。


「うわあ、熱そうだけどなんだかとても美味しそうだよ」


 シンタロウが目を輝かせている。


「だろ?わかる?シンタロウはわかっちゃうかー!かーっ仕方ねえな、ひとつ食ってみていいよ!」

「うん!じゃあ…あちち」

「いやまだ熱いからこれを使え」


 手づかみでいこうとするので俺はフォークをシンタロウに渡した、こういう食器類も一通りここには揃っている。

割と上等なものが数多く、なんでこんな貴族の屋敷みたいなのがこんな森にあるんだろうな。


「はふっ…ん…ああ…お、美味しい!これ美味しいよすごく!」


 シンタロウは一口食べて感想を言うと、後は熱さもおかまいなしにバクバク食べていた。


「おじさんこれなんていう料理なの!」

「これはコロッケというのだ」

「コロッケ…コロッケおいしいよ!こんな美味しいもの食べたことない!」


 マジかよ、今までの食生活が逆に不安になるわそんな台詞。


「ね、ねえちょっと、気を遣って嘘ついてるわけじゃないですよね?」

「そんなことないよ!これ本当に美味しいんだ!」


 アイラはどんどん揚げられて皿に並んでいくコロッケを前に、ごくりと唾を飲んだ。

しかし、そんなに俺信用ないの?傷つくよ?


「私も…食べてみてもいいですか?」

「ああ勿論、アイラだって手伝ったんだからね、食べて味を確かめてみてよ」


 俺が促すとアイラもフォークを突き刺してコロッケにかぶりついた。


「あつっ!…ん、あ、でもこれ本当に美味しいですよヴォルさん!」

「ははは、どうだ、これならナインスに出しても平気だろう」


 俺はとりあえず五つほどコロッケを別の皿に盛った。

これはナインスに持っていく分だ。


「ま、待て…お頭に持っていく前に俺が食べる」

「あーん?フリスクさんは頼まれてもいらなかったんじゃないんですかねえ?」

「これは毒味だ、お頭の食べるもんを調べるのは部下として当然のことだ」


 もうすでに二人食ってるじゃねえか…毒味の必要ねえだろ…

俺のそんな思いにはかまわず、フリスクは皿からコロッケを手にとった。

ナインスに持っていく分だったのに。


「………」


 なんか言えよ、おいなんで二つ目に手を出してんだよ、皿ごと持つな、何個毒味するんだよ。


「こら全部食おうとするな」

「はっ…俺としたことが、くそっ…こいつは確かに美味い」


 フリスクが三つも食いやがったので皿を奪い取って、また三つ揚げておいたコロッケを足した。


「じゃあこれナインスに持っていくからな」

「あ、ああ…わかった、それと、馬鹿にして悪かったな、お前の料理は美味い」

「お、おう、そうか…」


 素直に謝られると思っていたなかったので拍子抜けした。

あっれ、フリスク案外そこまでうんこみたいなやつじゃないのかな…


「それで後何個くらいできるんだ?」


 どうやらただ単に食いたさがプライドより優先されたようだ。

見ればシンタロウとアイラも二つ目を食べていいのかどうか悩んでいるのだろう。

コロッケを見つめすぎである。


「…シンタロウ、今の作り方見てたな?残ってるまだ揚げてないやつを揚げておいてくれ、油で火傷しないように気を付けてな」

「う、うんわかった、やっておくよ」

「それと…慣れるまではなかなか大変だから、何個かはアイラと…そこのフリスクと一緒に食べていい」

「すぐやるよ!!」


 シンタロウは急いで次のコロッケを揚げ始めた。

アイラも「早くしてください」とか言ってるしフリスクに至っては新たに芋を茹で始めた。

あいつ一人で何個食う気なんだよ。


………


 食堂に行くとナインスは部下らしき男二人と何事か話していたが、俺に気が付くと「待ちくたびれたぞ」と不満そうに言った。


「フリスクのやつはどうした?」

「今頃は向こうでこれを必死に食ってるよ」


 ナインスの前にコロッケを持った皿を置く。


「なんだこりゃ?」

「コロッケという、簡単に言うと芋を潰したものを油で揚げた料理だ」

「聞いたことねえな、まあとりあえず食ってみるか」


 ナインスはひょいとひとつコロッケを掴むと半分くらいを一気にかじりついて口に入れた。

こいつ潔いな、なんのためらいもなくいったぞ。


「…ほっ、ふっ…!はっ…あちっ、まだ中は熱いじゃねえか!」

「お頭!大丈夫ですか!」

「お頭!おれがふーふーしますか!」


 見守っていた部下二人が慌てているが二人目のほうはどっかおかしいな。

ふーふーじゃねえよおっさんがいうな。


「一気に食べるから…」

「先に言え!…ただまあ、味は悪くない」


 お、気に入ってくれたかな?


「芋の他にも玉ねぎの甘味も感じるな、肉を細かくしたもんも入ってる、にんにくで肉の臭さを消したのか。周りのサクサクとしたモンが齧り付いた時にいい食感だ。これは中身が冷めるのも防いでるみてえだな」


 え、なにそのグルメリポーターばりの感想。

食べ物とかどうでもいいとか言ってたくせになにこいつ。


「ナインス…お前なんかすごいな…他に味見させたやつは美味しいしか言わなかったぞ」

「フン…アタシはこれでもそれなりに美味い料理ってのを食ったことはあるんだ」


 ならなんで美味しいものに興味なかったんだろう、変なやつだな。


「お頭!それ美味いんですか!」

「お頭!お頭がかじったやつおれが食べてもいいですか!」

「うるせえ!おめえらはフリスクを呼んで来い!」


 まともな部下とややおかしい部下はナインスに怒鳴られて調理場の方へ行った。


「これ以外にもいろいろ作れるんだな?」


 ナインスがコロッケ片手に俺に向かって言う。


「まあ材料があれば、結構いろいろ作れると思う」

「そうか、ならヴォルガーは今から正式にうちの料理番だ、精々美味いものを作れ」

「わかった…今日のところはコロッケをたくさん作って他の人にも味を知ってもらいたいんだがいいか」

「それでいい」


 コロッケだけだと栄養が偏りそうな気がするがまあ贅沢は言えない。

俺の料理を気に入ってもらえたら、他の材料も調達してくれるかもしれない。

メニューを色々考えるのはそれからだな。


 あれこれ考えながら厨房に戻ると、何か揉めてた。


「おいなんでさっきよりできるのがおせえんだ!」

「アナタが一度にたくさん鍋に入れるからでしょう!たぶんこの油の温度が下がったんですよ!」

「フリスク貴様!ここでいつまでさぼってる気だ!次は俺らが食う番だ!」

「なあおいこれ肉ばっかり入れてもいけるんじゃねえか?」


 何やってるんだこいつらは…

フリスクはいつの間にかもう自分で鍋の前にたってコロッケを油に入れている。

それを横でアイラが怒って止めようとしている。

フリスクを呼びに来た二人は口をもぐもぐさせながら…つーかちょっと変な方のやつはメンチカツの存在に気がつこうとしている。


「おじさん、大変なんだ、皆がどんどん勝手に…」


 シンタロウがおろおろしながら俺に駆け寄ってきた。


「ああまあ、見たら大体わかった」


 俺はアホ共に向かって「おい」と声をかけ


「俺が作れば一番美味いもんができる、食いたいなら向こうの食堂で待て」


 そう言うとフリスクと他二名のおっさんはさっと厨房を出て行った。

もう誰も見張りをする気ないんか。

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