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料理番

雨ヤバイ(本編と関係ない)

「あの木は単なる木じゃないってことか…ならあのままでも使い道はあるな」


 アイラを怒らせた後、しぶしぶ黙って寝ていた俺は部屋にやってきたナインスに尻を蹴られて目が覚めた。

日は変わってもう朝になっていた。


 部屋から出されて、ながーいテーブルのある食堂に連れて来られると<ヒーリング・ツリー>について聞かれたので、あれは近くにいる人に回復魔法をかけてくれる木ですよとナインスに教えてあげたらとりあえず許された。

許されたのはいいが、今日はなぜか二人の子供たちも一緒にこの食堂に連れてこられている。


「今日からそのガキ共はお前が面倒みろよ、部屋も三人であの木がある部屋だ」


 床で寝ると体が痛いと訴えたら毛布くらいはやると言われた、サービスが良くなったな。

しかし、これはつまりあれだよな。

ナインスにとってこの子供たちの使い道は、俺をここに置いておくためのものになったってことだよな。

俺がいる以上、二人が無下に扱われる心配はひとまずなくなった。


「それっていつまで?」

「あん?そりゃアタシがいいっていうまでだ」


 そのうち解放してくれないのかなという期待を込めて聞いたが、不透明な答えしか返ってこない。

とりあえずすぐには無理だということだ。

たぶん俺はまだ何かさせられることがあるんだろうなという予感。


「はー、じゃあ俺はこれからここで何をしてればいいのかな」

「…回復魔法以外に何ができるんだ?」


 そう聞かれて、それ以外に強化魔法が使えます!などとバカ正直に言うと、盗賊の仕事に連れていかれそうなので言わないでおくことにした。

代わりに別のいいことを思いついたのでそっちを言う。


「料理ができるぞ、台所を貸してくれたら俺が飯を作ろう」

「へぇ、なら今日からヴォルガーの仕事は料理番だ、そっちのガキ二人にも手伝わせろ」


 やった、これで食事は改善できるぞ。

昨日から何も食べてないせいで俺は腹が減ってるんだ。

今からでも仕事に取り掛かりたい。


「30人前くらい作っておけ」


 …多いな、そんなに人が住んでるのかここ?

料理番というからには全員分の食事を用意することになるのはわかっていたが…

盗賊たちは10人くらいしかまだ見てない気がする。


「それいっぺんに必要なのか?30人分も」

「皆食いたい時に適当にここに来る、どうせ作るなら一度に作っとけばいいだろ?」

「それだと出来立ての料理を提供できんではないか」

「店みたいなことを言い出しやがったな」


 店、と言われてああもうその方がよくない?と思った。

基本ここにいるようにしていれば、二人の子供たちもほぼ俺と一緒にいられる。

ナインスは逆にずっとここにはいないだろうから、部下の盗賊たちと会話する機会もあるだろう。

そうすれば誰か一人くらいはこの場所について情報を漏らすかもしれない。


「それいいね、俺はここで酒場みたいに来たやつの注文を聞いて料理するよ、そのほうが美味いもん食えるぞ」

「美味いもんねぇ…ならまずアタシが確かめてやる、不味かったらその話は無しだ」

「今から作ってこいってことだな?」

「ああ、何を作るかは任せる、むこうの台所にあるもんで作れ」


 俺は二人の子供を連れて台所…厨房と呼ぶべきか、そこに向かった。

食堂の奥にあるその場所は、結構広くて設備が整っていた。

嬉しいことに例の疑似カセットコンロ、赤鉄板が4つも並んでいたし、ラルフォイの部屋でみた青鉄庫のでかいのまである、こっちは完全に冷蔵庫として使われてるようだ。

中開けたら、いろいろ食材が入っていた。


 他の鍋とかナイフなどの調理器具もそこそこのものが置いてある。

これだけあってなぜあの不味い飯が出てくるのか逆に不思議だよ。


「おじさん、ぼくは料理なんてしたことないよ、肉焼いたり、野菜煮たりくらいしか…」


 シンタロウが不安そうに言う、今まではナインスの前で怯えて黙っていた。


「ナイフは扱えるか?野菜の皮剥いたりするんだが」

「そ、それくらいならたぶんできる…」

「じゃあ十分だ」


 シンタロウはそんなに問題なさそうだな。


「アイラは?」

「…それ以前に、なぜ私がそんなことをしなくてはいけないんです?」

「え、だってナインスが手伝わせろって言ってただろ」

「料理番をするのもアナタが勝手に決めたことでしょう!」

「そうだが、今日からはたぶんもうあの部屋でじっとしてたって飯は出て来んぞ、ついでに俺と別行動をすると正直…お前ら二人の身が安全である保障はない」

「それは…そうかもしれませんが…」


 アイラはああ言ったものの、自分の立場がどういうものか理解しているのだろう。

強く反論はしてこなかった。


「まあまあここはひとつ俺と一緒に料理番をしようじゃないか、そのうちこの状況の打開策も見えてくる、今は俺のいう事に従ってくれ」

「おじさんは何をする気なの?」


 シンタロウがよくわかっていないようなので「ここから三人で逃げる方法を探すんだよ」と小声で教えてやった。


 そのためには現在位置と、アイラとシンタロウの体力回復、特にシンタロウは今の体じゃ逃げるのは無理だ、体力がもたない。

後は盗賊たちの人数と、普段の行動やら生活範囲が知りたいな。


「おい、喋ってないで早いとこ飯を作れ」


 厨房の入り口、食堂に通じる場所から俺たちに声をかける男がいた。

白髪のおっさんだ、ある意味、俺にとっては諸悪の根源。


「あんたも手伝いに?」

「そんなわけあるか、飯に変なものいれないかどうか見張りだよ」


 なるほど、まあ手離しで自由行動はまだ無理か。

つかこのおっさんもいい加減名前くらいは知りたいな。


「おっさんは結構あちこちで見るけど、もしやナインスの右腕的な存在かな、信頼されてるからこうして見張りを任されてるんだろ?」

「…それがなんだ?」


 特に否定はしないな、強く肯定もしないのは自他ともに認めるナンバーツー、ではないのかもしれない。


「なにってこともないけど俺としちゃ一番古い付き合いはあんたになるわけだし」

「俺がお前を攫ってきたから嫌味を言いたいのか?」

「確かに無理やり俺をここに連れて来たのはあんただけど、それはお頭のためだったんだろ?いやーそういう危険をおかしてまで大切な人を助けたいって気持ちは立派だなあと思って、凄いよホント、お頭が助かったのはあんたのおかげ!」

「そ、そうか…」

「うんうん、だから俺もそんなにあんたのことを嫌いにはなれなくて、そんな人をあんたって呼ぶのも嫌だなーとふと思ったんだ、だから名前で呼ばせてくれ」

「いいだろう、俺の名はフリスクだ」


 白髪のおっさんはフリスクか、覚えたぞ。

言っておくがほんとは全然好きじゃないからな、さわやかなイメージもないし。

いつか炭酸飲料と混ぜてシェイクしてやりたいくらいには嫌いだ。


 さてフリスクが案外ちょろいとわかったところで料理にとりかかろう。

俺は調味料の入っている壺から中身を確かめる。

塩、砂糖、お…こしょうもあるぞ、こっちはなんだ…油か。

相変わらず醤油は無いな、味噌も。

まあ無いものは仕方ない。


 野菜はなんかの豆とじゃがいも、たまねぎ、にんにく…保存がききそうなもんしかないな。

ただ笑えるのが肉がすごいたくさんある、ここのやつらはどんだけ肉が食いたいんだ。

青鉄庫の中はほぼ肉、野菜は普通に外にあるカゴの中にあった。

あとはまあ硬いパンくらいか。


「よしじゃあやるか」


 俺は作るものを想像して手順を考える。


「まずは、じゃがいもを洗って…あれ、水はどこにあるんだ」

「そこの勝手口を出たところに湧き水がある、それを汲んで来い」


 フリスクが指さす場所に外へ通じる扉があった。

開けると館の裏側に出て、そこには小さな池があった。

すごく澄んでいて綺麗な水が湧いてる、でもこれ直で飲んで平気なやつかな。

フリスクに一応聞いたらそのまま飲めるらしい。


「シンタロウはここの水を汲んでおいてくれるか、あとついでに鍋にいれて湯を沸かしてくれ」

「うん、わかったよ」

「アイラは机の上にだしてある玉ねぎの皮をむいてくれるか」

「…いいでしょう」


 俺は頑張ってあの肉をミンチにするか。

青鉄庫から、肉の塊を取り出す、赤身の牛肉っぽいが実態は不明だ。

まあそこはかとなく牛肉だから牛肉扱いでいいだろ。

コムラードでも牛肉売ってるところあったもんな。

魔物の肉のほうがたくさん売ってたけど、ピンクラビットとかグレイトリザードとか。


「ねえ、これどうやって皮をむけばいいんです?」


 肉を前に考え事をしているとアイラがやってきた。


「どうって普通に手で茶色い部分を…」


 やって見せようかと思ってアイラが持ってきたものを受け取った。

なるほど、これは無理だ。


「アイラ、残念ながらこれはじゃがいもだ」

「じゃがいも…し、知ってますよ、ちょっと聞き間違えただけです、玉ねぎはこれでしょう?」


 そう言ってアイラが手にとったのはにんにくだった。

アイラは物知りなのかどうか疑わしくなってきたな。


 そう思いながら俺は玉ねぎを取って見せた。

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