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監禁おじさん

犯罪臭がするな

 俺の知っている光の女神アイシャは金髪に青い目で、後は何といってもナイスバディだった。

目の前にいる黒髪のツルペタの少女とは雲泥の差がある。


 だがこの少女の顔は…例えるなら格闘ゲームでアイシャの2Pカラーを幼くしたというかなんというか…


「おじさん…あの…もう離してくれても大丈夫だから…」


 そうだった、俺は獣人の子供を抱きかかえたままだった。

この子供をまずなんとかしなくては。


「言うほど大丈夫にまだ見えないが、手足にまるで力がはいってないぞ」

「それは…毒でしびれてるから…」

「毒!?ここのやつらにやられたのか?」

「あ、ち、ちがう、自分で…死のうと思ってたときに…」


 よくよく聞くと、どうやら自分自身で食事に毒を入れて食べたらしい。

こいつの親父が捕まえた奴隷が逃げないように体を麻痺させる毒を持ち歩いていたようだ。

息子のこいつもそれを少し持っていて、ここに連れて来られるまで隠していたんだと。

体が動くと死ぬのが怖くて暴れそうだからって自分に使ったみたいだが…

餓死って余計苦しいんではなかろうかとちょっと思う。


「じゃあそれも治しておく<キュア・オール>」


 前は効かなかったが今度はちゃんと効いた。

獣人の子供は自分の足でしっかり立つことができたのだ。

少しフラついてるのは飯食ってないからだろう。


「いとも簡単に、上級魔法を使いますね…」


 例の…アイシャ似の黒髪少女が俺をジトーっとした目で見ている。

もうフードで顔を隠す気はないようだ。


 この少女のことがとても気になる、いやロリコン的な意味ではなくて。

獣人の子もしゃべれるようになったし、お互いここらで自己紹介をしてもいいのではなかろうか。


「なあ二人とも、俺の名前はヴォルガーって言うんだけど…」


 二人の名前は?と聞く前に、バァン!と部屋のドアが派手に開いてナインスが帰ってきた。


「てめえええええ!3階までブチ抜いてるじゃねえかああああ!」


 こいつわざわざ木がどこまで成長したか見に行ってたのか。

物凄い怒りっぷりに思わず、何も言えず体が固まった。


 そして、ごめん、ととりあえず言おうと口を開けたところに思い切り右フックをくらわされた。


「いってえええええええ!」


 そう叫んだのはナインス。

人を殴っておいて、いてえとはなん…あれ‥視界が…ぐらぐらする…

やば、アゴにかなりいいのが…入ったせい…か…


………………


………


…あれ、俺寝てたわ。


 気が付いたらナインスはもういなかった。

ひとまず起き上がると、そばには俺が生やした木がどーんと存在感を放っていて…いやこれ消えないの?


「あ、おじさん起きたんだ」


 獣人の子が声をかけてきた、俺はナインスに殴られてからここでずっと寝てたのか。

体が頑丈な分、ちょっと油断しすぎたな。

どうやらクリーンヒットを貰えばこの肉体でもしっかり気絶するようだ。

今後は気をつけよう。

 

「俺けっこう寝てた?」

「うん、もう日が沈んじゃったよ」


 ええ…確か館に戻ってきたのは夕方くらいだったはず。

軽く数時間寝てたのか…え、じゃあ俺の<ヒーリング・ツリー>は何時間も生えたまま?

もしかして実体あるから消えない仕様になっちゃったのか?

ほわオンだと、俺がマップ移動するか、ログアウトしたら消える仕様だったけど…

両方この世界では無理だな。


 消えろ!と念じたりしてみても消えないこの木をどうやって消そうか悩んでいると俺の腹がぐぅーとなった。


「そういや腹減ったな」

「あ、ご、ごめんなさい」

「え?何で謝る?」

「おじさんが寝てる間に、食事が運ばれてきて…ぼくはもう食べちゃったんだ…」


 特に謝るようなことではないとは思うが、自分だけ食事をしたことを申し訳なく思っているのか。

俺としてはこの子がちゃんと食事をとったことのほうが喜ばしい。

むしろ断食していた子に、俺が起きるまで飯を食うな、なんてのはあんまりだ。


「君はしっかり食べなきゃならんからそれでいい」


 獣人の子の頭をなでてそう言ってやった。

つーか俺は気絶する前なにしようとしてたっけ。


「あ、そうだ、名前は?」

「ぼく?ぼくはシンタロウっていうんだ」


 シンタロウ、急に日本人っぽい名前が出て来たな…

獣人はそういうセンスなんだろうか、なんかルーツとかあんのかな。


「シンタロウよ、もう一人女の子がいただろう、あの子はどこいった?」

「あの子ならすぐそこ、木の反対側にいるよ」


 シンタロウが指さす方向へ、木をぐるっと回って行ってみる。

自分で生やしといてなんだが部屋の中央にでかでかとあるせいで物凄い邪魔だな。

幹も俺の両手で抱えられないほど太いし。


 反対側で黒髪の少女は木に背中を預けて眠っていた。


「おじさんが魔法で生やしたこの木、不思議だね、近くにいるだけで元気になってくる気がするんだ」

「そりゃそういう木だからな、近くにいる人物を癒す効果がある」


 シンタロウも俺に着いてきて木を触りながらそんなことを言うので、<ヒーリング・ツリー>について説明してやると、いたく感動したのか、木に向かってお辞儀をした後に「ありがとう」と言った。

俺と木の両方に向かってだ、律儀なやつである。


「この女の子はなんて名前か知ってる?」

「知らない…この女の子は最初に会ったときから少し怖くて…ぼくはあまり近づかないようにしてた」

「怖いってどういうことだ?」

「少し前までここにいた、あのオレンジ色の髪をした姉妹を、ぼくのお父さんたちが攫ったときにこの子はその様子を見てたみたいなんだ」

「それで巻き込まれて一緒に攫われたのか」

「うん、でもこの子は獣人の大人に囲まれて連れてこられても、全く怖がっていなかった。ぼくにはそれが恐ろしく見えた」


 肝がすわった子だな…


「あの姉妹は何て名前か知ってるか?」

「ごめんなさい、それもわからない、ぼくは街の外で馬車の番をしてただけで…あんまりお父さんのやってることについて詳しく知りたくなくて、いつも何も聞かないようにしてたんだ」

「そうか…あ、じゃあそのときにいた街の名前は?」

「ザミールだよ、オーキッドとマグノリアの国境近くにある」


 と、言われてもさっぱりわからん。

説明してもらってとりあえず大陸西部にあるドワーフの国がオーキッドで、大陸北部にある獣人の国がマグノリアだということはわかった。

ザミールはリンデン王国にある、つまり人の街ということらしいが地理的には全然わからん。

そもそもこの世界の地図をまだ見たことが無い。

二つの国に近いということはリンデン王国は大陸中央から南部にかけて支配しているようだ。

東は確か…エルフのプラムがいた街のある、サイプラス共和国とかいうのがあったはずだ。


「あのですね、人が寝てる目の前でわざわざ話し合いをしないでくれませんか」


 おっと、少女の前でごちゃごちゃ言ってたせいで起こしてしまったみたいだ。

まあいいやちょうどいい、名前聞こう。


「君の名前を教えてくれ」

「私の睡眠を妨害したことについては何もないんですか」

「そんな体勢で寝たら体によくないぞ、寝るときはベッドに…この部屋ベッドなかったな、床にごろ寝だったか」

「だからどこで寝たって一緒です」

「あ、でもこの木にくっついてるとなんだか体があったかくなるよね、すごく安心する」

 

 最後に一言シンタロウがそう付け加えると、何かよくわからんが少女は慌てて木から離れて立ち上がった。


「ベ、別にそんなことはありません、ただちょうどいい背もたれがあったから使っただけです」

「それはどこで寝たって一緒とは言わないのでは…」

「部屋の壁でも、この木でも一緒だということです!!」


 なぜムキになる。


「まあどこで寝ようが構わんが…名前は教えてくれないのか?」

「しつこい人ですね、面倒なので教えてあげます、私の名前はアイラ、です」

「アイ…ラ…?」


 惜しい、いや、アイシャとは別人に決まってるから惜しいもなにもないんだが。

だってアイシャは既にいるはずなんだ。

転生して、俺の知らない光の女神になって。


「私の名前がなにか?」

「いや…なんでもない、アイラね、うんうんわかった」

「ぼ、ぼくはシンタロウだよ…」


 このチャンスに便乗してかおずおずとシンタロウも自己紹介をしていた。

アイラは、そうですか、と返しただけで特にこれといった感想はない。


「あの、ごめんね、ぼくのこと許せないよね」

「いいえ?あなたに攫われたわけではないですし、それに私はどこに行ったって同じですから」


 シンタロウが言ってるのはアイラをザミールで攫ったことについてだ。

アイラはそれもあまり気にしてないようだが…後半の言葉の意味はなんだ?


「ザミールに帰りたくないの?」

「あの街が私の故郷というわけではありません、たまたまいただけです」

「えっ、一人で旅をしていたの?」

「…そうです、ああもう、私は眠いんです、話なら明日にして下さい」

「あ、ごめんね…」


 シンタロウはすごすごと引き下がってアイラから離れた。

どうやら木の反対側でアイラと同じように背を預けて寝るつもりだ。

つーかアイラも結局また木の根元に座ってるじゃねえか。


 アイラとはもう少し話がしたかったが、眠いのにしつこくすると本当に怒りそうなのでやめとこ。


「俺は腹減ってしょうがないからなんか食ってくるわ」


 そう言って部屋を出ようとしたがドアに鍵がかかっていた。

あれ、まあそりゃそうか、ここ監禁部屋だもんな。

外にいるだろう見張りに向かって開けてくれーと言ってみたら「うるせえ、寝ろ」と言われた。

え、俺ももしやいっしょくたにここに監禁ですか?


「お前の魔法のせいでお頭が無茶苦茶怒ってんだよ、そこから絶対出すなって言われてんだ」


 ナインスめ、まだ怒ってんのかよ。

俺がメシ抜きなのも嫌がらせか。

家ん中に木を生やしたくらいでそんなに怒ることないだろ!

でかい観葉植物ができたくらいに思えよまったく。


 俺は大人しく引き下がってドアから離れ、部屋の床にごろんと寝転がった。


「なんかさー俺も出してくれないんだって、腹減ってんのにさあー」

「なんでいちいち言いにくるんですか!」


 シンタロウとアイラが二人とも見える位置で寝転がってそう言ってたらアイラに怒られた。

シンタロウは…寝つきがいいな、もう寝てたわ。


「はいはいもう言わないよ、黙っておくよ」


 腹減ってるしさっきまで寝てたから眠くないし、マジで暇だ。


「…あ、そういえばさあ」

「全然黙る気ないですね?わざとですか?」

「い、いやさっきほら名前聞いたけど俺は名乗ったかどうか覚えてなくて気になって」

「殴られる前に言ってましたよ、だからもうあっち向いて黙って下さい」


 じゃあいいや。


「わかったよ、おやすみアイラ」


 俺は二人が見えないように反対側にごろんと寝返った。


「…おやすみなさい、ヴォルさん」


 え、ヴォルさん?


「ちょ、今なんでヴォルさんって言ったの!」

「あああもう本当にうるさい!!」


 また反対側を向いた俺に、アイラはそこらへんに落ちてた何かを投げつけた。


「いてっ」


 顔面に木の板をぶつけられた、ああこれ壊れた床の一部か…

なんてものを投げるんだと思ったがアイラがすごい目で睨んでたので俺は黙ってまた反対側を向いた。


 そんな中、シンタロウは起きることなく一人だけぐっすり寝ていた。  

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