効率厨の狩り方
やりすぎると晒されたりするんだ。
あれからほどなくして俺たちの乗る馬車は目的地に着いた。
鉱山の麓は労働者のための宿泊施設などがあってちょっとした集落のようだった。
ただし今は誰もいない。
そして奥に見える鉱山の入り口は、巨大な穴が開いていた。
たぶん本来はあんなでかさじゃない、タイラントバジリスクが無理やりでてきたときに拡張されたのだ。
これ中滅茶苦茶になってない?入ったら崩落事故でえらいことになるんじゃ。
という心配は全く必要なかった。
なぜなら、俺たちがその穴がハッキリわかる前に、もっとえらいもんを見つけてしまったから。
「いるいる、いるわ、もう完全に外にいる」
馬車を降りて、全員で歩いて麓に近づいて行く途中、何か動くものが見えたので皆にちょい止まってとお願いしてからよく目を凝らしてみてみると、タイラントバジリスクと思われる巨大なトカゲが、集落の中央付近に悠々と陣取っているのがわかった。
「私も目はいい方だと思ってたんだけど、ヴォルガーには負けるわね」
俺が馬車を止めさせてから、偵察に行っていたプラムが帰ってきた。
プラムの報告によるとやっぱり間違いなく外にいるらしい。
「鉱山からおびき出す手間が省けたな」
「クク、我が闇の力思う存分見せてやろう」
冷静なジグルドとすでにテンション高めのマーくん。
「予定が変わりましたね、どう攻めますか?」
ロイのいう予定では、まず俺がミュセとマーくんに状態異常を防御する<ハード・ボディ>という魔法をかけて俺含め三人で鉱山内部へ偵察に行くはずだった。
そこで見つけられればそのまま外まで引っ張りだし、出て来たところをプラムとロイの遠距離攻撃でしこたま狙い撃ちした後、取り巻きで複数いるはずの通常のバジリスクをジグルドとミュセがモモのバックアップを受けつつ処理、本体は俺とマーくんがひきつける、最後は全員でふるぼっこ、という作戦だった。
早速その作戦は無駄になったが。
「タイラント以外に通常のバジリスクの数は?」
「確認できたのは九匹、これ以上いる可能性もあるので最低九匹だと思ってね」
俺の問いに軽く答えるプラム、多いなあ、でもまあほわオンでもそれくらいいたからなあ。
さっき遠目に見たときも思ったけど、ほぼ全く、ゲームで見たやつと同じなんだよな。
砂色のワニみたいなトカゲみたいなやつの背中に水晶に似た鉱物が生えているという姿。
倒すとレアドロップでゲームみたくオリハルコンでも出してくれるんだろうか?
「いくらなんでも私とジグルド、それにマグナを足しても、その数を相手にするのは無理よ」
ミュセは前衛として意見を言っている、それぞれが三匹取り巻きをうけもってもまだボスがフリーだから無理だということだな。
「わたしも頑張って一匹くらいは相手をします!」
という意気込みを見せるモモだがそれはやめたほうがよさそうだなあ。
「ヒーラーが前に出てきてどうする、モモは後衛と一緒にいろ」
案の定ジグルドにとめられた。
「兄貴!こうなりゃ俺たちも一緒にやらせてください!」
「こらモレグ!約束を忘れたのかい!」
「でも姉貴、このままじゃどうしようもねえじゃんか!」
「そう言ってもアタイらじゃ二人でも普通のバジリスク一匹もとめられないんだよ!」
メルーアとモレグも何かしたいという気持ちはあるんだろうが…
姉弟で言い合いが始まってしまった。
それに他の皆もあーでもないこーでもないと騒ぎはじめている。
プラムは一人落ち着いて、どうやらバジリスクの動向をずっと監視しているようだ。
「ならばこれでどうだ、まず我が突撃して…」
「だから突撃はだめだって言ってるでしょ!アンタ何聞いてたの!?」
「むっ、じゃあこうしよう、まず全員で突撃して」
「突撃以外の意見を言いなさいよ!」
いやあ、このまとまりのない感じ、新鮮だなあ。
ゲームじゃほぼ役割というか作戦は大体いつも決まってたからな。
ここは久しぶりにあの頃の戦法で行ってみるか。
「あー皆ちょっといいかな、俺からあれを倒す方法を説明したいんだけど」
がやがや言ってた人たちも一旦話すのをやめて、俺の方に注目した。
「えーと、まず…」
俺は皆にこれから何をするか一通り説明した。
説明してると全員にはぁ?とか言われた。
だが気にしない、俺はこれがもっとも安全で強いと思っているから。
これからやることは、効率厨と呼ばれる廃人ゴリラどもが生み出した俺をもっとも効率よく使う戦法…不本意ながら、お前の考えたやつ、久しぶりにやってみるよ、なあ…かいわれ。
………………
………
「<ウェイク・パワー・サークル>!!」
俺を中心とした一定範囲内の味方に<ウェイク・パワー>の効果をかける魔法。
単に一度にかける人数を増やしただけだが、人数が多いと役に立つ。
これと同じように範囲魔法で他の魔法も全員にかけてある。
攻撃力、防御力、速度、魔法攻撃力、魔法防御、状態異常防御、もう全部かけた。
「よし、後は手はず通り、魔法の効果が切れる前に行くぞ!」
俺は盾を構え、タイラントバジリスクに突っ込んで行く。
取り巻きのバジリスクの群れに突っ込むともいう。
敵が一斉に俺に気づいた、ひえっ、やっぱリアルは怖いな。
が、ここで止まるわけにはいかない、もうちょい近づかないと。
ガン、ガキン!と俺の展開した<ディバイン・オーラ>に数匹のバジリスクが尾を振り回して当てたり、噛みつこうとしてくる、あああもうちょい待って!
俺は必死に走ってバジリスクの間をかいくぐる、そして目の前にはタイラントバジリスク。
だがやつは俺を見ていない、俺の後ろから迫る皆を見ている。
大きく口を開けた、人数が多いほうを脅威と見て、あっちにブレスを吐くつもりだ。
「<プロヴァケイション>!!」
盾1で習得できるスキル、いわゆる挑発ってやつを俺は使った。
これは自分の周囲にいる敵の注意をすべて自分に引き付けることができる。
盾持ってないと使えないって制限がある分、一節でもなかなか有用なスキルだ。
ギョロっと20個の目玉が全部こっち向いた、うわぁ。
離れていた取り巻きもこっちに近づいてくる。
そしてタイラントバジリスクは俺に向かって石化ブレスを吐き出した。
「<パーフェクト・ライト・ウォール>!」
恐らく俺がほわオンの中で、もっとも使った…いや嘘だわ、<ヒール>とかのが使ってる…まあそれはどうでもいいけど<ヒール>と同じくらい使った、使わされた魔法がこれだ。
物理、魔法を防げる<ライト・ウォール>を360度展開する完全な壁による防御魔法。
これを使うためだけに光3盾2土1を特技として習得したと言ってもいい。
タイラントバジリスクが俺に向かってブレスを吐く、周囲のバジリスクが猛然と飛びかかってくる。
でも関係なし!パーフェクトとつくだけあって全部光の壁が防いでいる。
「攻撃開始いいいいい!」
俺の掛け声と共に、背後から様々な遠距離攻撃が飛んできた。
ロイの使う氷魔法、火の玉はジグルドかな、風の刃はミュセだろう。
そして黒い槍…マーくんは<ダークランス>も使えたのか。
そしてそれらが届くより真っ先に、ものすごい勢いで俺の周囲に矢が降り注いだ。
プラムが使う<アロー・ストーム>に違いない。
風魔法と矢を合わせた技があると言っていた、これのことだろう。
これもほわオンで割と見た、同じように俺がいようがお構いなしに撃ち込まれる光景を。
ズドドドドドッ、ゴオオ、ズバアアアンとかもう俺の周囲は何が起きてるのかわからない有様で燃えたり凍ったり爆発したり忙しかったが、俺には一切影響はない。
そして攻撃が止み、土煙が晴れると…
取り巻きのバジリスクは見事に全部死んでいた。
ボスはまだ生きてるがかなりダメージは与えたはずだ。
「ボスはまだ生きてるっ!」
俺は叫んでから盾を投げ捨て、皆の元まで走って逃げた。
盾を捨てたのはぶっちゃけもう持ってるのがしんどいから。
<パーフェクト・ライト・ウォール>はその絶対無敵な高性能ぶりと引き換えに、展開中ずっと魔力を消費し続ける。
おまけにそれをやってる限り他の魔法は使えないしその場からも動けない。
つまりそう、廃人ゴリラが考えた戦法は、俺を囮にしてる間にフルパワーで攻撃して倒す。
脳筋が考え着いた最もシンプルで効率のいい戦法なのだ。
「はぁはぁ…モモ、あ、あとの支援魔法は任せた」
「あんなの無茶苦茶ですよおおおお!?」
「思ったよりしんどかった」
「普通は死んでます!ああとにかくヴォルガーさんは一旦下がってください!」
モモに言われて大人しく後ろに下がった。
いやあもうちょい余裕あるかと思ったけどあれかなあ装備ないから魔力の最大値とかも低いのかなあ。
こんなに疲れるとは…
「後は任せなさい」
プラムが俺にそう言って矢を構え、タイラントバジリスクに撃ち込んだ。
見ればタイラントバジリスクはマーくんとジグルドが前衛となって、ロイとミュセが周囲から攻撃を加えている。
完全にこちらが押している、あちらはもうブレスを吐く元気もないようだ。
たまにやぶれかぶれか、前足や尾を振り回して攻撃しているが、そこはモモが<プロテクション>や<ヒール>で皆をうまくフォローしてくれている。
これなら俺の支援魔法が全部切れる前になんとかなりそうだ…
「うっ…やべえ…これが本当の魔力切れか…」
凄まじい疲労感で俺は足に力がはいらなくなって、片膝を地面についた。
「兄貴いいいい!」
「モレグ!いいからそっち持って!ヴォルガーを二人で運ぶよ!」
なんか気づいたらどっかの建物のからひっぺがしてきたのか、戸板の上に寝かされメルーアとモレグの二人にえっほえっほと俺は運ばれていた。
お手数おかけします。
「どこ怪我してるか自分でわかるかい?」
ある程度さっきの場所から離れたところで一旦移動をやめ、メルーアに聞かれた。
「いや…怪我は特にない…たぶん魔力切れで疲れてるだけ…」
「アンタの作戦聞いたときは全く意味がわからなかったけど、本当たいしたヤツだよ!」
この作戦を説明したときは満場一致で反対された。
だがしかし、俺はこのやり方でタイラントバジリスクやもっと強い魔物も倒して来たことがある。
だから余裕、というか逆に長期戦になるといつまで皆に支援魔法…特に石化に対する防御魔法がかけ続けられるかわからない。
そういうことで言いくるめて了承させた。
「兄貴!ならこれを使ってください!」
モレグに青い液体の入った小瓶を渡された、かき氷にかけるブルーハワイかな?
という冗談はさておきこれは魔力ポーションだ。
俺は瓶を開けてそれを飲む、くっそまずい。
あの…なんだろう…虫さされに塗る薬みたいな匂いが口いっぱいに広がって、さらに俺の苦手なパクチーとアロエの絞り汁を足したような味がする。
ねえこれほんとに飲み物かな?
「おえっ…我慢して飲んだけどあまり楽になった気がしない…」
「馬車に行けばまだたくさんあったはず!姉貴!馬車に行きましょう!」
そう言ってまた俺を運び出した。
いやいやいや、もういいわあれ、たくさんはいらないっす、拷問かよ。
俺の内心はもう飲みたくない気持ちでいっぱいだったが、無事に馬車まで着いた。
「こ、ここで休んでるからおかわりはとりあえずそこ置いといて…」
メルーアとモレグが追加の魔力ポーションを出してきてくれたがすぐさま飲む気になれなかった。
「それよりあっちの様子見て、戦闘終わってたらちょい俺の盾拾ってきてくんない?つい投げ捨てて来ちゃったんで」
「わかった、すぐ戻るからね!」
メルーアがそう言ってすぐ向かってくれた。
「モレグは…そうだ、これ何本か向こうに持ってって…皆持ってるはずだけど足りるかわからないから…」
「わかりやした!」
くそまずい魔力ポーションを何本か持って行かせることにした、ふう、これで無理やり飲まされなくて済む。
俺は馬車の中で背中を壁に預けるように、座り込んだ。
安心したらちょっと眠気が来た。
うっ、まだ戦闘中なのに…いかんいかん。
遠くでズゥゥゥゥゥンと、何か大きなものが倒れるような音がした。
ああよかった、きっとタイラントバジリスクを倒したんだな。
俺は目を閉じて、皆の帰りを待つことにした。




