二人で140歳
精神年齢はたぶん低い
コムラードから鉱山までの道のりは比較的安全で魔物が出ることもほとんどない。
馬車に乗ってこのまま何事もなく進めば、昼前には目的地につくようだ。
「エルフ族はね、大体40から50歳で成人扱いになるの、そこで体の成長は止まって200歳くらいかしら?その辺りを過ぎると段々老化していって、長生きなエルフ族でも300歳くらいで寿命を迎えるわねえ」
「へぇ、なら俺が生きてる間はずっと美しいプラムラレイアを見られそうだな」
「やだーもう、ずっとだなんて、それって口説き文句?なら私のことはプラムってよんで、エルフ族の名前って人族には呼びにくいでしょ?」
「はっはっはっ、俺は思ったことを口に出しただけさ、プラム」
「うふふ、もっと貴方のことをよく知れば、その言葉も信じられるかもね、ヴォルガー」
そう、こんな感じで何事もなく和気藹々と…
「私のママをなんで口説いてるのよ!!ママも何言ってるの!?娘の前で堂々と不倫しようとしないでよ!」
俺の向かい、ミュセママであるプラムの隣に座っていたミュセが唐突に叫んだ。
「不倫だなんて、大げさよミュセちゃん、ちょっとお話してただけじゃない」
「そうだぞ、ちなみに不倫という言葉は結婚してる相手以外の異性と肉体関係を持った場合に使うのであって、普通はこういうとき浮気って言うほうが正しいんだぞ」
「そんなの今どうでもいいわよ!?って肉体関係ですって!私だけじゃなくてママの体も狙ってるの!?」
言葉の違いを正してやっただけなのに。
なんでミュセはずっと俺が体を狙ってると思ってんだろう。
美人だなとは思ったことあるけど、そういう目で見た記憶は一切ないのに。
どんだけ自意識過剰なんだよ、それ以上成長する見込みもないくせに。
はー、わかっていたけど、何事もなく平和に行けるわけがないんだよなあ。
そもそもこんな変な組み合わせで馬車に乗る予定ではなかった。
俺とマーくんが荷物の大半…俺のでかくて邪魔な盾なんかと一緒にこっちの馬車に乗って、もう一台に調和の牙と助っ人のプラムが乗っていくはずだった。
それを出発直前になって、プラムが急にこっちに乗ると言い出して、それをミュセが止めようとしたんだがプラムの強引さに屈して、俺と一緒の馬車にママだけ乗せれないとかなんとかで自分も乗り込んできた。
そしたらマーくんが狭いから我はあっちに乗るとか言って逃げた。
たぶん本当はこっちにいると面倒なことになりそうだという空気を察知したに違いない。
実際プラムもミュセもよく喋り騒がしかったのでマーくんの判断は正解だった。
まあでもプラムとは会ったばかりだから、戦闘方法について確認する必要があったし、俺の支援魔法の説明もしなきゃいけないから移動中にするか、と思ってそのまま出発した。
プラムは馬車へ乗るときに弓を持っていたので、それで戦うのかと聞いたら弓がメインであとは風魔法が使えると言った。
いかにもエルフっぽいエルフである。
関係ないがミュセは弓が下手くそなので短剣を使ってるともプラムから教えられた。
それがきっかけでミュセがぎゃあぎゃあ言い出したので、話題を変えてエルフの寿命について聞いてたらまたこんな感じでミュセはぎゃあぎゃあ言い出した。
結局何を言っても文句を言って騒がれる気がする、こっちに乗らなきゃいいのに。
「ほらミュセちゃん落ち着いて、どうどう」
「私は馬じゃない!」
馬車を引く馬は出発してからずっと落ち着いて歩を進めている。
メルーアがきっとうまくやってくれているのだろう。
「あー、プラムは2級冒険者だって聞いてるんだけど」
とりあえず俺はまた違う話題にしてミュセの気を逸らせることにした。
「一応そうなんだけど、もうここ数年は冒険者としてはあまり活動してないわ、べイルリバーで夫とのんびり暮らしてたから」
「そうなのか、急にタイラントバジリスクとかって大物相手になるけど問題ない?」
「うふふ、そこのところは大丈夫よ、弓の腕はなまってないわ」
「そうよ!ママは1級冒険者と言ってもおかしくないくらいの力はあるのよ!」
「じゃあなんで2級なんだ?」
「ママは方向音痴だから…それさえなければ1級になれたのに…」
「そんなに言うほどじゃないわよ?夫と一緒なら買い物も行けるもの」
それは夫と一緒じゃないと買い物にも行けないってことですよね。
「コムラードに帰ってくるのが遅れたのはそれが理由よ、ママは目を離すとすぐどこかに行っちゃうから…」
「やっぱり夫と一緒に来るべきだったかしら?」
「パパはものすごく弱いんだから連れてこれるわけないでしょ!」
娘にすごく弱いと言われるパパ、ちょっと悲しいものがあるな。
「プラムのことはまあ大体わかったよ、今度はそっちがどれくらい俺のことを聞いてるか知りたいんだけど」
「ヴォルガーの使う魔法のことね?昨日の夜のうちにおおまかな話は聞いてるわ、<パワーアップ>や<スピードアップ>の強化魔法は私も知ってるけど、それとは別物と思ったほうがいいって…そんなに強力なの?」
「ああ、基本的に俺の使う魔法はほとんどが二節…もしくは三節のものが多い」
「ええええ、やっぱりアンタ三節の魔法が使えたの!?」
「えっ、えっ?三節?本当にあるの?」
驚くミュセの反応を見て、そうか、ジグルドたちは約束を守ってくれたんだなとわかって安心した。
実のところ俺が三節の魔法を使えることは、訓練を一緒にしたメンバーにはもう打ち明けている。
さすがに命がけで共に戦ってくれる仲間に内緒にしておくのは良くないと思ったから。
その際に、誰にも言わないでくれと約束してもらった。
ジグルドたちは薄々、俺が三節の魔法を使えるんじゃないかとは思っていたらしい。
しかし、俺の口から伝えたあとでも仲間であるミュセに、勝手に喋ったりはしてなかった。
それがミュセの反応からハッキリとわかった。
「本当だ、タイラントバジリスクにブレスで石化させられたら三節の魔法でしか治せない、だからこそ俺が今回のメンバーにいるんだ」
「…それ、他に誰が知ってるの?」
「はっきり三節の魔法が使えると説明したことがあるのは向こうの馬車にいるメンバーだけだ…ただギルドマスターのラルフォイは恐らくもう気づいていると思う」
「そう…当然このことは他の人には秘密、でいいのかしら?」
「話が早くて助かる、あまり人には知られたくないんでな」
「どうせ言ったって誰も信じないと思うけどね」
それならそれでいい。
しかし、90年生きてるプラムですら知らないってことは三節は本当にレアなんだな。
俺は石化を治すために三節の魔法を連発しちゃったけど。
まあなるべく秘密にしておきたいだけで、同じようなことがあったらたぶん普通に使っちゃうけど。
だって見殺しにするのは無理だわー。
「ま、そんなわけでよろしく頼むよ」
「ふふ、わかったわ、でも私もっと貴方の秘密が知りたくなっちゃったわよ?」
「ちょっとママ!?変なこと言うのはやめて!」
「いいのかい?旦那にも言えないような秘密の関係になるかもしれないぜ?」
「アンンタアアアアア!殺すわよ!!」
おお怖い怖い、騒ぐとわかっててもついからかいたくなる。
ミュセさんにはそういう不思議な力がありますよね。
「はいはい冗談よ、ミュセちゃんの大事な人をとったりしないから怒らないで」
「はあああああ!?」
「えっ、ミュセ実は俺のこと…そうだったのか…体を狙ってるとか言うのは逆に狙ってくれってアピールだったのか…」
「そんなわけないでしょ!」
ミュセは顔を真っ赤にしてその場で立ち上がった。
そして頭を天井にぶつけた。
馬車の中なのに急にそんなことするから。
「ぐっ…わわっ」
ちょうどその時、道が悪かったのか馬車がゴトンと大きく揺れた。
「ぶふっ」
俺のほうにミュセが倒れてきて…顔面にボディプレスをした。
もしかしてこれラッキースケベというやつでは…
「あらあら、うふふ」
「ぎゃあああ!!」
胸をひとしきり俺の顔面にこすりつけてからミュセは離れた。
いやしかしなんだな、なんといえばいいのか
「いやー…お母さんみたいに成長してたらまた違った感触だったんだろうなあ」
「こ、このっ…!」
「はい危ないからちゃんとお座りしてミュセちゃん」
「ママどいて!そいつ殺せない!」
ミュセはどこかで聞いたことがあるようなないような台詞を言いながら暴れていた。
からかうのも飽きたしそろそろ鉱山に着かねえかなぁ。




