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顔合わせ的な

今回出てくる人多くない?

 朝、身支度をしているとディーナが心配そうに話しかけてきた。


「ねえ、本当に今日行くの?」

「行くよ、昨日の夜にも説明しただろ」


 行くというのはタイラントバジリスク討伐のことである。

昨晩、マリンダさんがラルフォイから伝言を預かってきた。

それによるとミュセはどうやらぎりぎり間に合ったらしい。

助っ人を連れて帰ってきたようだ、当日の朝に顔合わせになるとは思ってなかったが。

ともかく討伐は予定通り行うってことだ。


「そう心配するな、七人もいるからたぶんまあ普通に倒せる」

「うん…でも…」

「何だよ?先伸ばしにしたっていいことないぞ、街の雰囲気もちょっと悪くなってきてるしな」

「あ、街のこととは…ううん、まあいっか、なんでもない」

「いやいやいや、それ逆に物凄い気になるから、ちゃんと言ってくれ最後まで」


 なんでもないって言うやつって絶対何かあるよな。


「戻ってきたら話すわ」


 変なフラグを立てるなよ!そういうの一番困る! 


「今言え、いいから、はよ」

「え…ええ…じゃあ言うけど…また変な夢見ちゃって…」

「あーなんか前言ってたやつ?知らない女の子が出てくるとかなんとか」

「そう、それ。今日もまた同じ女の子が出てきたの、膝を抱えて座ってて…私はどうやらそれを外から覗いてるみたいな感じなのよね」

「外ってなに…」

「あ、うーんと、どこかの建物の一室にいる女の子を、私は窓ごしに眺めてるの」


 ディーナは盗撮魔かな。


「たぶんだけど、あの子は閉じ込められてるんじゃないかなって思うのよ」

「本当に夢かそれ…怖い話になってきてるんですけど」

「わかんない、私も何でこんな夢を見るのか…」


 閉じ込められてると聞いて、ふと拉致監禁というワードが思い出された。

幼女拉致監禁事件をサイコメトリーしてるとかだったら猛烈に嫌だな。

あ、でもサイコメトリーはなんか手がかりが必要なんだっけか。

この世界だと、マジでありそうで怖いなー、魔法という名のサイコメトリーが。


「出かける前に不気味な話を聞いてしまった」

「だから戻ってから話すっていったのに!」

「ま、まあ何度も夢に見るようならちょっと調べてみよう、討伐の後でな」

「うん、私もそうしたほうがいい気がして」


 とりあえずその話は今は置いておくことにして、俺は出かけることにした。

ディーナに行ってきますと言ったあと、タックスさんの店に行き、タックスさんとトニーにも挨拶した。


「先生、どうか気を付けて…あっ、あと…」

「モモだろ?大丈夫だ、絶対何があっても全員無事に帰る」

「う…お見通しっすね、さすが先生っす」


 トニーと喋ってると、タックスさんが何かごつい鉄板を運んで俺の元へ持ってきた。


「ふう、ヴォルガーさん、なんとか手に入りましたよ、これが今用意できる一番質のいい盾です」

「わざわざすいません、おっ…結構重いですね」


 俺はそう言って鉄かどうかわかんないが金属製の盾を受け取った、長方形の盾で、手にもって構えると俺の体がほとんど隠れるほどでかい。

ほわオンだと…タワーシールドって名前でこんなのがあったかなあ。


「たはは、両手で持って運ぶのが私には精一杯だったのですが、ヴォルガーさんなら扱えそうですな」

「ええ、あ、お金は討伐報酬出たら必ず払いますんで…」

「はい、わかっております、ですので必ず戻ってきて支払ってください」


 バジリスク討伐にあたって、俺は装備のことをタックスさんに事前に相談していた。

盾があれば俺の使える魔法…というかスキルと呼ぶべきだが、ほわオンの時に覚えた技術が少し使えるようになるので、なんかいい盾ないですかと聞いてみたのだ。

ほわオンのことは話してないけど。


 それで用意してくれたのがこのタワーシールドだ、なんか街に武器屋とかもあるらしいけどまだ行ったことないし、タックスさんが用意してくれるなら信用できるからそれでいいやと思って。

盾以外の他の装備のことも聞かれたが、まあ革鎧とか着たところで慣れてない上にゲームのときみたいな特殊な能力とかないだろうし、一言で言って邪魔なので盾だけ用意してもらった。

武器も当然ない、あっても意味ないから。


 そして、タックスさんとトニーに見送られながら俺は店を出た。

歩いて冒険者ギルドへ向かう、そこで討伐に行く全員が集まる予定だ。


 途中、このクソでかシールドを持ってるせいで、通行人の目が若干恥ずかしかった。

まああんまいない…つーか見たことないからな…こんなんもって歩いてる人…


………


「なんだそれは」


 冒険者ギルドの前まで行くと外にいたマーくんとジグルドに即座にそう言われた。

俺以外のメンバーはもう集まっていたのか…


「盾ですが何か」

「見たらわかる、そんなもの持ってまともに動けるのか?」


 ジグルドが俺の盾に不満があるようなので、片手で持って前に構え、スタタタタッと小走りで軽快なステップを見せてやると「聞いた俺が馬鹿だったわ」と言って納得してくれた。

ただその台詞には俺は微妙に納得がいかないけどな。


「ところでこの馬車で鉱山まで行くのか?」


 俺はギルドの前に止まっている二台の馬車を指して言った。


「そうさ、アンタが乗る馬車はアタイが御者を務める、案内は任せろ」


 ちょうど冒険者ギルドから出て来た褐色の肌をした赤髪の戦士っぽい女がそう言った。

誰…あれ、いやどっかで見たことあるな…


「ええと?ごめん会ったことある気がするんだけど名前が思い出せなくて…」

「アタイはメルーア、アンタに命を救われた4級冒険者だよ」


 あっ、石化病だった人の一人か!


「また会えて嬉しいよ、アンタ…ヴォルガーには本当に感謝してる」

「いやあははは、あ、体はもう平気なのか?」

「アタイと弟のモレグは、割と症状がマシなほうだったからね、もうすっかり体調も戻ったよ、だから今回どうしてもアンタに恩が返したくて、こうして来たんだ」


 弟もいたのか、来てくれたのはありがたいけど…戦闘に参加されるとちょい困るな。

支援人数が増えるのは想定外だ。


「まだ無理しないほうが」

「なに、アタイと弟は馬車を預かるのと、鉱山への案内だけが仕事さ、戦いはヴォルガーたちに任せるから心配ない」

「もう一台は弟が御者か」

「そういうことさ、本当はアタイらもヴォルガーと一緒に戦いたいんだけどねぇ、ギルドマスターにはっきりと足手まといだから余計なことをするなときつく言われちまって…悔しいけど案内役に専念することにしたよ」


 なら問題なさそうだな。

しかしこのメルーアって女、度胸があるな、殺されかけた相手のところにまた行くのに。

見た目もパワータイプの戦士って感じでがっしりしてるから性格も豪快なのかな。


 メルーアは俺と挨拶を交わした後、荷物を馬車にのせとくよと言って盾を預かってくれた。

その際「おもっ」とか言ってた、やはり戦士に見えても女の子には酷な重量であったか。


「一応ラルフォイにも挨拶してくるよ」


 俺はマーくんたちにそう言って冒険者ギルドの中へ入った。

ラルフォイは…ああいたいた、知らん男と喋ってるな、もしやあれがモレグかな、姉と同じような赤とこげ茶の中間みたいな色の髪してるし。


 二人に声をかけると予想どうり片方はモレグという男だった。

同じように治療したことに関して感謝の言葉を言われる、何度も言われると恥ずかしいな。


「俺と姉貴で万が一のときは命をかけても兄貴を守らせてもらいます!」

「いや俺が死ぬようなときはたぶんそれもう全員死んでるからね?あとアニキってなんだよ」

「命の恩人ですから兄貴と呼ばせてください!どうかお願いしやす!」


 モレグはなんか極道みたいなノリだな。

まあいいけど…面倒なので好きにしろといったら喜んでた。 


「少々心配ですがメルーアとモレグには余計な手出しをしないように言ってあります」


 ラルフォイからもフォローが入った。


「なんならもうラルフォイもついてくれば?」

「僕って魔物はあまり殺したことないですから、万が一にも役には立てませんよ」


 別に戦闘に参加しろというわけではなくて、心配ならあの二人の監督役でくれば、という意味だったんだが…

それより『魔物は』あまり殺したことないってなんだ、いや、深く気にしないことにしよう。

聞かないほうがいいこともきっとある。


「あ、そう…あ、そう言えばミュセたちをまだ見てないんだけど…」

「あちらのテーブルにいますよ」


 ラルフォイの目線の先にはロイ、それからモモにくっつくミュセがいた。

そして、一人落ち着いた感じでティーカップでお茶を飲んでるミュセとは違うエルフの女性。

もしやあれが助っ人か、一言挨拶くらいは今のうちにしておこうかな。


 俺はロイたちのいるテーブルに近づいて行った。

ロイが真っ先に気づいてくれて、ひらひらと俺に手を振った。


「やあ、おはよう」

「あっ、ヴォルガーさん!おはようございます!」

「くっ、出たわね変態…アンタ!私がいない間にモモと一緒にあれこれしたそうね!」


 あれこれってなんだ、訓練しただけだ、久しぶりに会ったのにミュセは好戦的な態度である。


「なんかぁ~予定では?もっと早く合流する人が討伐前日まで帰ってこないから、皆と訓練してただけですし?」

「言い方がムカツク!!あのねえ!帰りが遅くなったのは私のせいじゃないのよ!ママが途中でふらふら迷子になるから!」

「え、ママ?ママって言ったの?」


 それはマザー、母上殿って意味ですか。


「はぁーい、私がミュセちゃんのママでーす」


 お茶を飲んでたエルフがにっこり笑って俺のほうに手を振った。


「マジかよ…助っ人ってミュセのお母さん?つかむっちゃ若いんですけど」

「やだ!お上手!これでも私もう90歳なのにー照れちゃうわー」

「ちょっと私のママにいやらしい目を向けないでよね!」


 これで90歳か…エルフやべえな、ミュセがわがままなJKだとしたらお母さん大学生くらいにしか見えないんだけど。

あとノリが90歳じゃねえ…軽い…軽くない?

 

 そんなミュセママとミュセを見比べながら、とりあえずおっぱいはママのほうがはるかにでかいな、と心の中で思った。

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