単純な二人
最近ちょっと真面目に話考えようとして一日たってるときがある。
「ディーナ、落ち着いてやれば大丈夫だ、万が一怪我しても俺が治すからな」
「わ、わかったわヴォルるん…やる、私やるわ!」
ディーナは構えた木剣をウサギに向かって振り下ろした。
見事にはずれた。
そして、ウサギの反撃にあってビックリして尻もちをついた…
「こっ、殺されるううううう!」
「落ち着けって!そこまでの脅威はないから!」
「これは時間がかかりそうだな…」
俺の背後から呆れたようにつぶやくマーくんの声が聞こえた。
さて俺たちが一体何をしているかと意うと…
………………
………
グレイトリザードを倒した翌日から、マーくんやジグルドたちに支援魔法に慣れてもらうため、街の外で俺の支援魔法をかけた状態で、互いに戦ってもらった。
いざ本番でいちいち驚いてもらうわけにはいかなかったので。
しかし最悪の場合があるのでマーくんとジグルドは木剣をつかっている。
その上で<ウェイク・パワー><ウェイク・スピード>をかけて、さらにダメージを抑えるために<プロテクション><レジスト・マジック>といった防御魔法をかけてある。
攻撃強化して防御も強化したら相殺して意味なくない?と思えるが、ダメージは少なくとも伝わる衝撃は通常時より遥かに違うので、万が一、仲間に当てたらどうなるかを少しでもわかってもらわないといけない。
わざわざ魔法防御が上がる<レジスト・マジック>をかけてあるのは、モモ以外の全員が何かしらの攻撃魔法を使えるからだ、それも<ウェイク・マジック>で強化してある。
特にロイはそれがメインなので魔法防御あげてないとやばい。
マーくんは一人戦闘力的に飛びぬけているのでマーくんVS調和の牙の三人といった構図で戦っていたんだが、それでも若干マーくんが優勢なように見えた。
ジグルドと剣を交わしながら、距離が開けば後衛のロイとモモに向かって<ダークボール>を放つ。
モモが防御魔法の<マジックシェル>という魔法でそれを防ぎ、ロイがお返しとばかりに色んな水魔法を放つ。
しかしマーくんは<ダークミスト>という攻撃とは違った、相手の視界を黒いモヤモヤの霧みたいなのを発生させて妨害するマニアックな魔法を覚えていたので、なかなかロイの魔法は当たらない。
つうかマーくんは殺し屋でも目指してるのかな、といった感じで対人戦闘慣れしている。
過去になにがあったのやら…真の暗黒面に落ちずに、割といい子へと育ってくれたことにひとまず感謝しよう。
で、まあそんなこんなで戦う四人を俺はずっと支援魔法をかけ続けてるわけで。
ぶっちゃけきつい、ほわオンの時よりいかにハードか理解した。
ゲームと違って土煙はやたらあがるわ、魔法うてば地形が変わるわ、モモの悲鳴がハートに響くわ。
魔力消費による疲労がこの程度ならほぼ無いことがわかったことだけは幸いか。
俺より先に戦ってた四人のほうが魔力切れで限界になった。
そういう訓練を何日かしてると、ディーナがある日「私、見てるだけで暇だからギルドで依頼を受けて仕事しようと思うの」と言い出した。
確かにそうだった!ディーナは見てるだけでした!
アレに混ざれとはさすがに言えないから放置しっぱなしでした!
正直すまん、と思った。
おそらく戦ってたマーくんたちも思ったんだろう。
しかしディーナ一人でいきなり依頼をやらせて大丈夫だろうか…
恐らくその不安も俺だけでなく皆が思ったに違いない。
だからディーナにも戦闘訓練をやらせるために、ジグルドたちと合同で訓練しない日は初歩的な討伐依頼をさせることにしたのだ。
「やあああ!とおおお!てやああ!」
掛け声はいいんだがディーナの攻撃はピンク色のウサギには全くあたっていない。
この魔物、ピンクラビットというまんまな名前をしてるんだが、こいつはほわオンのチュートリアル戦闘でも見たことがある。
チュートリアルに出てくるくらいだからゲームじゃ最弱クラスの敵だった。
この世界じゃどうなんだ?と思ってマーくんに聞いたら「素人でも倒せる」つまり同じく弱いらしい。
「おぶう!」
普通の白いウサギに比べたら好戦的で、攻撃をしかけたら逃げずに反撃をしてくる。
バスケットボールくらいの体長でちょこちょこ跳ね回りながら、時に思い切って体当たりをしかけてくる。
それを腹などにうけるとさっきのディーナみたいな声が出る。
ゲロってしまいそうなのをなんとかこらえたようだ。
俺は心の中でディーナ頑張れ!と割と真面目に応援していた。
自分にヴォルガーとしての能力がない状態、単なる日本人として戦っていたら、きっとディーナを笑えないから…
「おいよく見ろ、そいつは攻撃手段は体当たりだけだ、剣を振り回すより向かってきたところに剣を当てろ」
マーくんの的確なアドバイスが飛ぶ、ちなみに支援魔法はかけるなと言われている。
俺が支援すると強くなりすぎてディーナの訓練にならないので。
「びゃあああああ!」
なんかもう半分ちょっと泣いてるかのような声と共に、ディーナは木剣を振った。
今度はマーくんに言われた通り、飛び上がってきたピンクラビットに合わせるように。
ドガッ、と音を立ててピンクラビットに当たった。
「あ、あたった…」
「ぼんやりするな、続けて攻撃してトドメをさせ」
ふらふらしているピンクラビットにディーナは慌てて木剣を振り下ろした。
「ぎゃん!」
え、そんな声出すんだ、という俺の変な感想と共にピンクラビットは動かなくなった。
「た、倒した…私が殺したのね…」
「そうだ、よくやったな」
ディーナは少しピンクラビットの死体を見つめていた。
見た目が結構かわいらしいだけに罪悪感があるのだろうか。
「やったあああああああ!」
特にそういうのはないようである。
「おめでとうディーナ、ところで腹は大丈夫か?」
「…あっ、おなかいたい!痛いいいい!」
急に痛がりだしたので<ヒール>しておいた。
「ふう、もう痛くないわ、さすがねヴォルるん!大好き!」
「おい次からあの程度のことでいちいち<ヒール>などするな」
ディーナには喜ばれたが、マーくんに怒られた。
「マーくんは私に死ねって言うの!?」
「死ぬような傷じゃなかっただろうが!?」
「いいえ、ほおっておいたら間違いなく死ぬような痛みだったわ!」
「嘘をつくな!ええい、次から痛いようなら我が先に見てやる!」
「えっ、服を脱いでマーくんに肌を見せろってこと!?マーくんのエッチ!」
「ちちち、ちがうわ馬鹿が!誰が貴様の裸なんぞ見て喜ぶか!」
おう…ごめんよマーくん…俺は喜んだことがあるよ…
いやそんなことより二人をとめなきゃ。
「まあまあ二人とも…それよりピンクラビットの死体はどうすればいい?」
「ん?ああ…一応依頼では毛皮を納める必要がある、肉は依頼にないが買い取ってくれるぞ、美味いからな」
「この場で解体したほうがいいのか?」
「いや…木剣で倒した分、毛皮に傷がない、血抜きだけしてギルドの解体屋へ持っていったほうがいいな」
冒険者ギルドに解体してくれる人いたのか、ニーアやミーナは受付だからいくらなんでもそこまでしないよな、まだあったこと無い人がいたんだな。
「美味しい肉…俄然やる気が出て来たわ」
「ククク…言うではないかディーナ。ならもう何匹か倒してみろ、そうすれば余分なやつで解体の練習もできる」
どうやらさっき言い争っていたことは二人とも、もうどうでもいいようだ。
この二人、全然似てないようで、ある点では共通してるんだよな。
それは、単純ということである。
そんなことを思いながら、俺は二人を眺めていた。




