束の間の休日2
逆に考えた結果、寝ちゃってもいいさ、と昨日はなった。
「え、じゃあ二人もバジリスク討伐に参加するのか」
「調和の牙は全員参加する、一つよろしく頼むぜ」
家に来たジグルドとロイを家に上げ、用件を聞いたらそんなことを言われた。
彼らも来てくれるのか、調和の牙の四人なら戦力になりそうだ。
これで俺とマーくんを含めて六人…モモはヒーラーだからもう一人くらいアタッカーが欲しいな。
「ボクらがナクト村に行ってた頃、そんな大事件があったとは驚きでしたよ」
「全くだ、最近ギルドで見かける4級のやつらが妙に少なかったのはそいつが原因だったんだな」
ギルドマスターのラルフォイから既に経緯は聞いているらしい、俺が石化病を治したことも。
「ジグルドたちが来てくれるなら心強いよ」
「正直最初は断る気だったぜ?ハッキリ言って死にに行くようなもんだからな、でもヴォルガーが参加するなら勝算があるんじゃないかと思ってな」
「石化のブレスも防げるらしいですね?一体どんな魔法で?」
何かロイは討伐がどうこうより俺の魔法を見ることに興味がありそうな気がする…
まあ今度は前のホーンウルフ討伐とは訳が違うので事前に俺の魔法込みでの戦闘に慣れてもらう必要があるかもしれない、たぶん見せたことない魔法も使うことになるし。
「石化は<ハード・ボディ>で完全に防げると思う、石化以外に使ってきそうな毒なんかも一緒に。ラルフォイは<マインドアップ><ウィンディシールド>があればって言ってたけどなくてもたぶん平気だよ」
「相変わらず知らない魔法ですねえ…後者の二つはモモとミュセが一応使えますから知ってますけど」
「あ、そうなのか、今日はその二人は来てないのか?」
「モモは店のほうにいるぞ、タックスさんの息子と話をしてる、ミュセは助っ人を呼びにベイルリバーに行ってるから今は街にいない」
トニーはモモに会えてテンションあがってそうだな。
それはまあいいとして、それよりベイルリバーとかいう知らない名前の街が出てきた。
どこやねん、と思ってたらジグルドが説明してくれた。
ベイルリバーはコムラードから東のほうへ進むとある街で、そこはリンデン王国ではなくサイプラス共和国と呼ばれる国の一部にあたる。
サイプラス共和国は人ではなくエルフが国家元首をつとめており、ベイルリバーの街は中でもエルフと獣人だけが暮らす街で、人間は入れないためミュセが仕方なく一人で行った。
助っ人というのはミュセと同じくエルフの女性でかつてコムラードで活動していた2級冒険者のようだ。
ていうか獣人気になるなー、俺もちょっと見てみたい。
「なんで人は入れないんだ?」
「「「え?」」」
俺もいつかその街に行ってみたかったのでそう聞いたら、ジグルドとロイ…どころか人見知りモードに入ってずっと大人しかったディーナまで揃って疑問の声をあげた、何がおかしかったのだろう。
「獣人族がいるからに…向こうの大陸はもしかして獣人族はいないのか?」
「あ、ああ…俺のいた島じゃいなかったけど?」
「そっか、ヴォルるんてルフェン大陸の出身じゃなかったっけ」
たまに思い出したように出てくる俺の島出身設定。
ジグルドとロイは最初にあった頃話した、ディーナは…生い立ちを話された日に少し話を…まあ…俺だけ聞くのもあれだったんで…ピロートークみたいな感じになりましたけど。
「人族の国と獣人族の国は結構な頻度で戦争があってな…リンデンは今のところ平和だが、以前は戦争していた。戦争の主な原因は獣人族を奴隷として使っている街が人族の中にあるからだな…」
「コムラードでは幸い獣人族の奴隷はいないですよ」
「私は王都で見たことあるわ、首輪をつけられて馬とか牛と同じみたいに扱われてた」
うわー…人権なさげ。
人間と同じ知性を持つなら、奴隷なんかにされたらそりゃ怒るよなぁ。
個人的にはリアルなバニーガールが見たかったのに…
「なるほど…この大陸じゃ人と獣人は仲悪いってことなんだな…残念だ」
「まあな、おれたちのパーティーも獣人族を奴隷にするのは反対している、しかしリンデンの王が認めている以上なかなかどうにもならない問題だ」
「皆仲良くなれればいいのに…」
なんとなくジグルドは落ち込んでいるように見える。
おそらくずっと前からそのような気持ちを持っているのだろう。
えーい神様連中は何やってんだよ、こういうことにはノータッチの方針なのか?
神の仕事ってじゃあなんなんだ、特にあの創造神のジジイ。
自分が生み出した種族同士の問題なんだからちょっとは気にしろ!
何を呑気に日本で観光してんだ!
「あの、全然関係ない話になるんですがボクずっと気になってることがありまして」
ロイが空気が重くなったことを気遣って…かどうかは知らないがそう言った。
何が気になっているのか尋ねると
「そちらの女性…ディーナさんのことはモモからも聞いてたんですが」
ディーナのことは一応、二人を家にあげたときに簡単に紹介はしている。
「ヴォルガーさんの恋人なんですか?」
………非常に答えにくい、なんだろう、改めて言われるとそうなるのだろうか。
一緒に住んでるし…いやでもなぁ、なんか成り行きでずるずる来てるからいまいちそういう感じしないんだよなあ。
「そうです!!」
俺が迷っているとディーナが勝手に答えた、おい。
「なんだそうなのかよ、ミュセのやつは二人はそんな関係じゃないらしいとか言ってたのに」
「いやーそれにしては変だなあと思ったんですよ、ボクらが来た時にディーナさんは二人分の食器洗ってましたし、表には洗濯物を二人分干してましたし」
あのレズエルフめ、人のプライバシーをなんでも仲間に伝えるんじゃねえ。
それとロイ、むやみに人の家を観察するんじゃねえ。
「一緒に住んでいます!!一生私の面倒を見てもらう約束もしました!」
「よーし黙れ、そんな約束はしていないからな」
これ以上ディーナを調子に乗らせるのはよくないと判断した俺は、別の話題にすることにした。
「あのさあ結局ジグルドたちは、バジリスク討伐に参加するってのを言いに来ただけ?」
「ん?それもあるが、後はあのマグナもここに来るって聞いてな、一度実力を見てみたかったんだよ。後は討伐前にヴォルガーの魔法について実戦で確かめる必要があると思ってな、以前組んだ時とは別の魔法も使うんだろ?」
まともな答えが返ってきた、ジグルドはしっかりしてるんだよなあこういうとこ。
「確かに、俺の魔法は基本的に他人にかけて能力を強化するからいきなり本番で使うよりは、一度ためしてジグルドたちにも知ってもらいたいとは思っていた」
「わは!それは楽しみです!今度は一体どんな魔法を見せてくれるんでしょう!」
ロイは魔法オタクかな、興奮しすぎだ。
「それじゃマーくん…ああ、マグナが来たら一緒に訓練しよう、その時に見せる」
バジリスク討伐は俺、マーくん、調和の牙…そしてミュセが連れてくるという助っ人、この七人くらいが安定して支援できる範囲だと思ったほうがいいだろうか…
「ヴォルるん、私はどうしたらいい?」
「ディーナはバジリスク討伐には連れて行かないから…これは何を言っても絶対だぞ」
「それは…わかってるわ、さすがに私が一緒に行って何かできるわけじゃないもの」
「そうか、ならいい、まあ今日の訓練は…見学ってところじゃないか?」
俺がそう言うと、ディーナはさぼれる口実に喜ぶかと思ったが、別に喜んではなかった。
仕方ないよねという感じで「うん」と答えただけだった。