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ギルドマスターの憂鬱3

中間管理職かな?

 謎の男ヴォルガーは冒険者登録をするため、再び僕の元へやってきました。

見るからに渋々といった感じでしたが、それは、僕の言う通りに行動しているのが気に入らないからでしょう。

まあそれはそうなるように仕向けたので別に構わないんですが。

彼がそうして僕に反感を持つ分、今後は僕以外からの提案を受け入れやすくなりますしね。

話があるときはマグナクライゼスや受付のニーアなどを通して要求すればいいだけです。


 しかし予想外なことはヴォルガーと一緒になぜか元聖女もここに来ていることです。

これは本当に意図がわかりません。

タックス商会がヴォルガーへの監視役として付けたと事前に聞きましたが、部屋に入って挨拶するなり、それは間違いで勝手についてきただけ、と説明されました。


 本当にそうなのか?

まさか僕がアイシャ教の人間だと知って、反応を見るためにわざと連れてきた?


 いや、それはありませんか…もしそうなら日常生活にわずかでも変化があるはずです。

マリンダからは特にそう言った報告はきていません。

それにこの女は非常に憶病でだらしなく、無能なくせに人一倍食事の量が多い…マリンダの報告にやや悪意を感じることもありましたが、おおむねそのような人物だと聞いています。

僕が監視していると知ってるならばまずここにいないでしょう。


 果実水を用意しながら時間を稼いで考えてみましたが結論はでません。

仕方ないですね、初対面の挨拶だけ交わしてなるべく今は関わらないようにしておきましょう。

僕は自分の名前を名乗ってから元聖女に名前を聞きました。


「ディーナです」


 緊張しているのか固まった姿勢で元聖女はそう名乗りました。

報告ではメンディーナ、とありましたが…外出時は偽名を使っている?

偽名にしては安直すぎるような…なんにしろ、ここで名前について反応するわけにはいきません。

僕と彼女は初対面なのですから。

隣のヴォルガーも特に彼女の名前について気にしていません、ひょっとしたら単なる愛称みたいなものという可能性が高い気がします。


 彼はそれよりも果実水を入れていた青鉄庫のほうに興味を示しています。

まあこれは赤鉄板ほど出回ってないので珍しいのかもしれませんね。

しかしあれが物を冷やす道具だとなぜか一発で見抜いてました。

相変わらずよくわかりません、僕があそこから水を取り出したからそう結論付けても変ではないですが、受付のニーアなんかは、最初あれの中に氷を隠していると思って数日間何度も開けて確かめていました。

半分くらいは口実で開ける事が目的だったんでしょうけど、果実水を飲みたいがためにね。


 まあいいです、それより今日の本来の仕事をこなしましょう。

無駄に、にこにこしてるのも疲れるんですよ。


 僕はヴォルガーと冒険者登録について話をすすめました。

彼は登録するから余計なことをやめろ、と言いました。

なんとでも取れる曖昧な言い方ですが、この『余計なこと』は僕がアイシャ教に告げ口することであって、監視のことではないでしょう。

なぜならすぐに冒険者登録をするための方法を聞いてきて、書類を渡してもあっさりサインしようとしたからです。


 案外うまくいきましたね、後は数日様子を見て使えそうな人物なら…


「私にもください」


 少し気を抜いていたらメンディーナが突然そう言いました。


 は?一体何を?まさかこの書類を自分の分も用意しろということか?

冒険者登録をするつもりなのか、しかし彼女は戦闘能力など皆無のはず。

そもそもタックス商会で世話になっているのにわざわざ冒険者になって何の得があるんだ?

大体冒険者になれば身分を偽ることはできない、逃亡している身なら不利な点のほうが…


 しまった!ついあまりに理解不能な発言を聞いてマヌケ面をして考え事に集中していた!

見ればヴォルガーも僕と同じような反応をしている、彼にとっても予想外のことか。


 僕は内心焦りました。

ですがヴォルガーは、メンディーナが改めて冒険者登録のための書類をくれと言ってもあえて彼女を無視するような態度をとって僕に話を続けるよう言いました。

考えるのが追い付かなくなった僕はひとまずヴォルガーに説明を続けていると…


 メンディーナは途中で部屋を出ていきました。

ヴォルガーはいじけただけ、などと言ってまるで気にしていません。

ともかく僕はそれならもうヴォルガーのことに集中しようと思い、後は何もつまづくことなく、冒険者登録を終えました。


 後日、マグナクライゼスも予定通り彼の元へ行きました。

さらに好都合なことにタックス商会の庭で訓練をはじめたので、マリンダがその内容を詳しく見ることができました。

報告によれば驚くべきことに戦闘能力はマグナクライゼス以上で見たこともないような魔法を使っていたとありました。


 彼は一体何者なんだ?

噂は真実なのか、ならばあの元聖女よりよほど使い道がある。

バジリスク討伐もできるかもしれない、だがもう失敗はできない。

彼の訓練と同時に戦力も集めておけば…バジリスクの話をする時に協力してくれる可能性は高まる。

 

 僕の計画に光明が差しました、数日コムラード伯爵を抑えておけば、なんとかなるかもしれません。


 ですが、また、またですよ?

予想外のことが起きました、それも特大級の。


 さらに後日、ヴォルガーがメンディーナを連れて僕の元へやってきました。

カードの不備があるとかなんとかよくわからないことを言って…

結論から言えばそれは僕をひっかけるための罠だったんですけどね。


 ともかくヴォルガーは僕が監視をつけていることに気づいていました。

マリンダが何かしたわけではありません。

僕の…失敗です、メンディーナに対する僕の態度から、監視していることまでたどり着かれました。


 監視の理由について答えなければ街を出ていくと言われました。

今出ていかれると非常にまずい、僕はもうメンディーナがこの街にいることを王都の教会に報告しています。

それ以上に隠したいことができたのであえて元聖女のことだけは伝えたのです。


 それ以上のこと…それがヴォルガー。

このままでは元聖女とヴォルガーの両方を失ってしまいます。

二人とも今後の計画のために必要でした。


 やむをえず、僕は真実を語りました。

そして計画を早めるために…ヴォルガーをスラムにいる石化した冒険者たちの元へ案内しました。


 彼らはもう食事をすることさえ拒否して死ぬのを待っていました。

自ら死にたくても体が思うように動かせず、死ぬに死ねないのです。

なのにこれまで僕に殺してくれと頼んできた者は…一人もいませんでした、恐らく僕にこれ以上迷惑をかけたくないという彼らの最後の想いなのでしょう。


 そんな彼らを見せると、ヴォルガーより先に、共に着いてきたマグナクライゼスが反応しました。

どうやら石化病を知っていたようです、それも感染するという話まで。

危険性がある場所だと思って激怒しています、僕の話を信じてくれません。


 こんなところで言い争うために連れてきたわけではないのに相変わらず面倒な男だ。


 僕は内心どう落ち着かせるか考えていると、ヴォルガーが間に入ってとんでもないことを言いました。


「ちょっと行ってすぐ治してくるから」


 僕はこの時ばかりは思考停止しました。

人生ではじめてですね、何を言われたのかここまで理解できなかったのは。


 おかげでヴォルガーが一人で中に入った後も少し外でぼけっとしてしまいました。

マグナクライゼスが慌てて彼の後を追ったのを見てからようやく僕もついて行かねばと思いました。


 中ではヴォルガーが石化病の冒険者に魔法を使っていました。

見たこともない魔法です、もしかして本当に治せるのか…?


 僕はよくわからない気持ちでそれを眺めていました。

そして…魔法が終わった後、石化病は…治っていませんでした。


「…まあ僕も、そこまでの期待はしていたわけじゃないですけどね…」


 僕の口からそんな言葉が出ていました。

それでようやく気付けました、僕はこの石になって死んでいく馬鹿な冒険者たちを助けたかったのだと。

自分でも思ったより、ギルドマスターの仕事が好きだったようです。

それからそこに集まる冒険者のこともね…


 ここで本当は、バジリスク討伐の話を言えばよかったのに僕は黙っていました。

言いたくてもなぜか言えなかったのです。


 ヴォルガーが病気の原因についてたずねてきました。

それでようやくバジリスクのことを言い出すと…彼はなるほどと言いました。

バジリスクのことを知っているようです。


 そして…


「<ホーリー・ライト・ブレッシング>」


 ヴォルガーは見るからに凄まじい魔法を使いました、何の詠唱もなく。

神聖な光の柱が足が石になった冒険者を包み、天へと登るように伸びて行ったあと、美しい光の破片となって最後は消えていきました。


 何なんだ今のは、回復魔法の一種なのか?

大司教のクソジジイだってあんなもの使えない。

一瞬だったが…恐ろしいほどの魔力だった。


 ヴォルガーがこっちを見て何か言ってましたが僕はそれどころではありませんでした。


「あーっ!この人の足治ってる!ヴォルるんすごい!」


 メンディーナの言葉を聞いて、慌てて僕は魔法をかけられた者に駆け寄りました。

マグナクライゼスも同じように僕の横へいます。

二人で冒険者の足を見ると…治っていました、石の肌はありません、人の足です。


 はは…奇跡とかいうものはどうもあるところにはある、みたいですね…


………


 ヴォルガーは全ての石化病に侵された冒険者を治療しました。

会話しているうちに、もうこの男についてあれこれ考えるのが馬鹿らしくなりました。


 どこの誰であろうがもうなんでもいいです、今ここにいてくれたのだから。


 そしてこの、ただ病気の人を治したいという気持ちだけで僕に着いてきてくれた彼をアイシャ教のやつらに渡すわけにはいかない、あの腐った老人どもから守らなくてはならないと強く思いました。

そうなるともう目立つ行動は控えなければ…バジリスク討伐も彼にやらせるのはまずいかもしれませんね…


「まあついでだし、タイラントバジリスクも討伐するか」


 僕が一生懸命考えているのに背後でそんな声が聞こえました。

振り向いて一言いってやろうとしたら足がもつれて…僕はころびました。


 あーまったく!僕はこんなに苦労しているっていうのに!

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