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ギルドマスターの憂鬱2

また短くまとめられない!

「これは一体…」


 翌日、僕は門番からの知らせを聞いて、街の外へとやってきました。

そこには大勢の冒険者たちが集まっていました、ですが皆、一様に元気がありません。

装備はボロボロで怪我人も多く、疲れ果てている様子です。


 僕は門番と話していた、この一団のリーダーであろう男に事情を聞きました。


 聞いてみて改めて彼らの馬鹿さ加減に驚かされました。

ここにいる全員、バジリスク討伐に行った者たちだと言うのです。

ギルドで依頼を出していないのになぜ?という疑問にはコムラード伯爵に直接雇われた、という答えが返ってきました。


 あの臆病者の伯爵め…僕に黙って勝手なことを…

ここまでのことをするのは鉱山を閉鎖するのがよほど嫌なんだとはわかりますが…


 ここにいる冒険者共を確認したら全員4級でした、3級以上が討伐に必要とされていましたが数を揃えれば4級でもいけると踏んだんでしょう。

話を聞けば実際にバジリスクを鉱山の外におびき出して倒したらしいですからね。

そこで話が終わりなら、僕はここに呼び出されてないでしょうが。


「ボスが出てきたんだ…鉱山の奥からバジリスクをぞろぞろ引き連れて…」


 リーダーの男は恐怖からか、憔悴しつつ僕にそう言いました。

バジリスクだけでも厄介なのに群れを作って率いるボスまでいるとは…

これはもう1級冒険者のパーティーが必要かもしれません。

4級の彼らが敵うはずありませんね、必死にここまで逃げたようです。

ただ、全員が無事に逃げ延びた、というわけにはいかなかったようですが。


「まあ話はわかりました、ギルドを通さずに直接金が欲しいのであれば冒険者の資格など不要ですよね、今後は傭兵でもやって頑張ってください」

「違うんだ!俺たちは金のためにやったんじゃない!」


 僕の言葉にリーダーの男が反論してきました。

金じゃなければなんのためです?まさか平和のためとでも言う気でしょうか。


「領主がこのままじゃ、ラルフォイさんは責任をとってギルドマスターを辞めることになると…」

「…領主…コムラード伯爵がそう言ったんですか?」

「ああ…俺たちはラルフォイさんが来る前から冒険者をやってる、だから昔の冒険者ギルドがどれだけひどかったかよく知ってる、それを変えてくれたラルフォイさんに恩を返したくて…」


 恩?僕は自分のために仕事をしていただけで恩を売ったつもりはないんですけどね。


「俺だけじゃない!ここにいる…いやバジリスクに殺されちまったやつらも含めて全員が同じ気持ちなんだ!」

 

 全員、ですか…彼らは全員が僕のためにバジリスク討伐に行ったと?

僕のためだと言うなら事前に相談してほしいものです。

コムラード伯爵に僕からギルドマスターの権限を取り上げるほどの力はありません。

冒険者ギルドは伯爵の持つ組織ではないのですから。

彼らにはもう少し頭のほうを鍛えさせるべきでした。


 僕は彼らに、級をひとつ落として5級からまたやるなら冒険者を続けても良いと告げました。

全員がその条件で納得したので、次は怪我人の治療のため街に入ろうとしたのですが、そこで異変は起こりました。


「いやああああ!あ、あたしの手が石になってる!!」


 冒険者の一人が叫び声をあげました、様子を見ると、右の手首から先が石化しています。

バジリスクに噛まれた?いや、それならとっくに石になって死んでいるはず、なぜ今なんです?

僕が考える間もなく。それを境に次々と悲鳴があがり、その者たちの手や足が石化しはじめました。


 やむをえず、全員を一旦、街に入ってあまり人目につかないスラムの建物に収容しました。

こんな状態で街中でパニックを起こされてはたまりません。

何人か錯乱してアイシャ教の教会へ駈け込もうとしたので殴り飛ばして気絶させて運びました。


 僕はそれから原因を探りました、そして40年ほど前に、リンデン王国の西にあるドワーフたちの国、オーキッドで同じくバジリスクのボス討伐を行ったことがあるという情報を仕入れました。

それによるとタイラントバジリスクと名付けられた巨大なバジリスクのボスは、その口から吐きだすブレスに石化作用があり、直接あびる以外に、少量でも体内に入るとゆっくりと石化してしまうらしいのです。


 生き残った冒険者たちにも確認しましたが、全員直接ブレスを浴びてはいませんでした。

しかし、罠を仕掛けたり、バジリスクを外まで誘導するために特定の通路をふさぐ作業などをして鉱山には皆一度入っています。


 これは恐らく、鉱山の内部にそのタイラントバジリスクのブレスが充満していますね…

皆、知らぬうちにそれを吸い込んだのでしょう。

過去の記録では光魔法の<マインドアップ>、風魔法の<ウィンディシールド>、この二つを使えば石化ブレスを防御可能だともあったのですが…もう手遅れです。


 過去の記録からはわからなかったので、治療する方法について僕はアイシャ教の伝手を使って調べました。

まあ結論から言うとクソですかね。


 石化病は石化したものに触れると感染する場合もあるので死ぬまで隔離せよ。

それがアイシャ教の石化病に対する方針です。

ひょっとしたら治せないことを隠すための方便かもしれません。

大分後で気づきましたが、僕は石化した人を殴ったり、運んだりしてますが石になりませんでしたから。

 

 スラムの建物に入れた冒険者たちは、石化した仲間の面倒を見ていましたが、時間差はあったものの結局全員が石化しはじめると、もう助からないと本人たちも気づいたのか、大人しく死を待つように静かに過ごすようになりました。


 そんな時でした、マリンダに監視させていた元聖女のそばに妙な男が現れたのは。

タックスという商人が連れてきた男。

単なる使用人かとも思いましたが、マリンダからの報告はよく分からないものだらけです。

食事を出したら警戒された、店の手伝いはせず元聖女と商人の息子に学問を教えている、ナクト村では村人を光魔法で治療していた、など。


 特に最後のは気になったので、ナクト村へ行っていた調和の牙の四人から僕は話を聞くことにしました。


 ジグルド、ミュセロレリアの二人はその話を避けているようで特にこれといって聞きだせませんでした。

ロイは三節の魔法を使える人物などとふざけたことを言ってましたね。

三節の魔法など、おとぎ話じゃないんですから…


 後はモモに話を聞きたかったんですがミュセロレリアがしょっちゅう一緒にいるので少々困りました。

なんとか一人でいるところを見つけ、話を聞くと、モモはとにかくそのヴォルガーという名の謎の男を尊敬しているようでした。

無駄にいろいろ長い話を聞かせてくれましたが、彼女の話は要約すると、大体「とにかくすごい」で終わります。

村人を何百人となおしたとか、光輝く宮殿を呼び出すとか、無詠唱で肩こりを治す魔法が使えるとか…最後のだけ急にスケールが小さくなりましたけど。


 ともかく、総合すると一度会ってみるべきかもしれない、僕はそう判断しました。

もし言葉通りの人物なら冒険者ではおそらく1級の実力を持つ可能性がある。

マリンダは警戒していますが、話を聞く限りでは性格は単なるお人好しのようにも思えます。

できればそうあってほしい、という僕の若干の願望かもしれませんね。


 ミュセロレリアとモモの二人に連絡役を頼み、ヴォルガーという人物にいざ会ってみると…


 平凡な村人の様に見えました。

とても強そうではないですね、僕も人のことは言えませんが。

後は村人にしては礼儀があり、腰が低い。


 これが本当の性格かどうか試そうと思って僕は冒険者になるように彼にすすめました。

かなり挑発的な態度で言ってみましたが、逆上して襲ってくるようなことはありませんでした。

それに彼は光魔法が使えるというのにアイシャ教のことを何も知らない。

僕と同じような役割を持つ人間、という可能性もほぼ消えました。


 冒険者のことについてはほとんど何も知らないようなので、説明してみたところ『報酬の5%』という言葉を出しても簡単に理解していました。

この5%というのが実際どれくらいの数字なのか理解できる人はあまりいないので受付の子は新たな冒険者に説明するとき苦労しています。

人に教えてるだけあって頭はかなりいいようですね。


 と、なるとますます彼の素性がよくわからなくなります。

ナクト村にそんな学者と呼べるほどの頭脳を持つ人はいなかったと思いますし、凄い腕があるのにもかかわらず冒険者になろうとしたこともない。

年はそれなりに重ねてるようですが…一体これまでどこでどんな生活をしていたのか想像できません。


 彼が部屋を出た後、こっそり観察していると、なぜか珍しくギルドに来ていた一人おかしい4級冒険者…マグナクライゼスと話をしていました。

正直あの男だけは僕も少々苦手です。

根本的に何を言ってるか理解不能なことが多々あるからです。


 そんなマグナクライゼスと会話しているヴォルガー。

謎の人物同士話が合うのでしょうか、妙に話がはずんでいました。

そこで僕は、マグナクライゼスにヴォルガーのことを頼んでみたのです。

彼の面倒くささならヴォルガーが冒険者になれば必ず戦いを挑むでしょう、そうすればマリンダに観察させてどの程度の実力があるかわかるかもしれません。

そして使えそうなら、バジリスクをなんとしても…


 ふと僕はなんでこんなにバジリスク討伐に必死になっているのだろうと考えました。

鉱山が使えないと僕が文句を言われるからですね、それ以外はありません。

今日もスラムに様子を見に行きましたが…もう皆、長くないでしょう、ほとんど何もしゃべらなくなりました。

彼らが皆死ねば、僕の頭を悩ませるものが一つ消えてくれるでしょう。

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