パクチーが嫌い
あと年とってからカレーにじゃがいも入ってるのも嫌になってきた。
「冗談ですよ?その気があったならとっくにそうしてますから」
「そういう冗談はよせ、話が面倒になるだけだ」
「しかし、僕がアイシャ教の人間で、そういう指令を秘密裏に受け取る可能性は十分あるということです」
ラルフォイの言うことはまるで信用できないが、ここで全く関係ない嘘はつかないだろう。
俺はとりあえず、隣に座るディーナの頬をぺちぺち叩いて正気に戻した。
これからお前に関係する話をするんだから気絶されていては困る。
「あうあう…」
ディーナは気が付くと俺にしがみついて怯えだした、仕方ないのでこのまま話をしよう。
「怖がらせてしまったようなので、その誤解を解くための話をしましょう!」
「ディーナを調べていた理由をまず言え」
「それはわかりやすいですよ、要は王都の偉い人たちはいまだに諦めきれないんです」
「神託のことか?」
「ええ、大体ご存知かと思いますが、アイシャ様は神託でメンディーナさんにいろいろお願いをして、その願いを叶えた対価として様々な報酬を与えた、それがもしかしたらまたあるかもしれない、だから念のため生かして監視しておこう、というわけです」
やっぱりそんなところだろうか、他にわざわざ生かして見張る理由が思い当たらない。
ただ気になるのはコイツがディーナたちの情報を掴むのが早すぎること。
魔動車で逃げる以上の速度の伝達手段がないと、タックスさんの元へマリンダさんを家政婦として送り込めないはずだ。
「王都の出来事をどうやって知ったんだ?」
「精神クリスタルがあるからすぐ伝わりますよ、あれは冒険者登録以外に通信手段としても使えますから、僕のところにも命令が来ましたね、メンディーナさんを見つけたら連絡せよと」
また白露水晶か…あの謎の物体が電話みたいなものってことなのか。
これも詳しく調べたいことのひとつだな、今あまり気にしないでおこう。
「ともかくですね、僕はディーナさんの監視が任務なので危害を加えるつもりはありません」
「…う、嘘よ!だって髪が黒いのにアイシャ教に入れるわけないもの!」
ディーナよ、アイシャ教と関係ないやつだったらそもそもお前を監視はしないと思うぞ。
「一般的にはそう思われてるからこそ、僕はアイシャ教の汚れ役として雇われてるんですけどね」
「はぁ、全く…神に仕える者がそんな有様でいいのかね…」
「あはは、どれだけ偉い人であっても所詮は人ですから!信仰だって金を集める手段の一つにすぎませんよ!」
楽しそうに言うな、真面目な信者が聞いたら暴動ものだぞ、これだから宗教関係は嫌なんだ!
ディーナも口ではああ言ったもののラルフォイの言うことのほうが合ってると察したのだろう、悲しそうな顔をして黙ってしまった。
意外とハードな人生送ってるからなー、人の持つダークな部分を見たのも一度や二度じゃないはずだし。
「それで?ディーナのことはわかったが、俺に冒険者になれとかちょっかいかけてきたのは一体何のつもりなんだ?」
「それは僕の独断です、もしかしたら貴方の方がメンディーナさんより、見張る価値がある存在ではないかと思いまして」
「はあ?何でだよ?」
「ここに来る前はナクト村の人を治療してたそうですね?それも一人二人じゃなくて百人以上」
あー…それも知られてるのか、まあ隠せるようなことじゃないから当然だけど…
「さらに、3級冒険者のパーティー『調和の牙』を一人で軽くあしらえる魔法使いだとか」
「ジグルドたちの強さで3級なのか」
「ちなみにマグナさんは戦闘能力だけで言えば2級はありますよ、彼の相手も平然とできるそうですね?」
昨日の出来事まで既に知られている、なんてこったい。
そしてマーくんの悲しい新事実、戦闘能力以外の面で問題あるから4級なんだな。
「だからなんだ?冒険者として街に貢献しろってことか?」
「冒険者を勧めたのはですね、噂が本当かどうか僕が確かめたかったからですよ、だってヴォルガーさん見張ってても、教師のようなことをしてのんびり生活してるだけで、魔法を全然使わないですし」
「え…俺の力が見たかっただけ…?じゃあ普通にそう言えよ!」
「ええー僕の気持ちもわかって下さいよー、僕からしたら突然監視対象の近くに現れた謎の人物、調べてみたらナクト村から来た凄腕の魔法使いで、それ以前の詳しい素性は誰も知らない。メンディーナさんの傍にいることが多いのでもしかして実は護衛として雇われたのか」
そんな風に思われてたのか俺は。
ディーナの傍にいたんじゃないよ、ディーナが俺の傍にいただけだ、意味は同じだが。
「おまけに初日の夕食こそマリンダの用意したものを食べたが、以降は自分で用意したものしか食べない何かを警戒した行動に出る。もしかして護衛ではなくて、アイシャ教の暗部を探りに来た別教会の人間か他国のスパイの可能性もでてきた」
マリンダさんの飯は…不味いわけじゃないけどあんまり好きなタイプじゃなかっただけなのに。
だってパクチーみたいなのがいっぱい入ってたんだよ、パクチー嫌いなのに。
「僕としては一番嫌なパターンは、ヴォルガーさんはメンディーナさんを利用しようとしている別組織の人間で、彼女をさらって街を出て行くのが目的の場合でした、噂が本当なら実力行使に出られたら恐らく僕では止めようがないので」
「随分な悪党だな俺は」
「今そうは思ってないですよ、マリンダの報告を何日か聞いてるうちにそれは考えすぎな気がしまして、だから冒険者登録をすすめて反応を見たんです」
「で、脅しておいて、俺の反応を見る限り最悪のパターンは消えたわけだ?」
「ええ、逆に僕にとって必要な人物だとわかりました、ですのでお願いします、僕に協力してください」
ラルフォイは至って真面目な顔で言った、いつもの笑顔はもうどこにもない。
「内容による」
「ここでは言えません、というか直接見てもらう必要があるんです」
「なんだ、病人か?」
「ええ…僕に着いてきてもらえませんか?」
病人と言われちゃあ断りづらい…嘘か本当かまだわからんが着いて行くか。
俺は肯定の意思としてその場を立ちあがった。
ラルフォイも続いて立ち上がり、先に部屋を出て行こうとする。
「…難しい話終わった?」
「うん大体そういう反応だとはわかってた、いいから行くぞディーナ」
俺は途中から話を聞いてないことがまるわかりのディーナを連れてラルフォイの後へ続いた。
………………
………
俺たちは冒険者ギルドを出て街を歩いている。
マーくんも合流して共にいる、俺たちがラルフォイと共に部屋から出てくるまでミーナとずっと話をしてたみたいだった。
何の話をしてたのか聞いたら一緒に食事がどうとかよくわからんことを散々言われたらしい。
恐らくそれはデートの誘いだったのではなかろうか…
たぶんマーくん的に心惹かれるワードが出てこなかったのでちゃんと聞いてなかったと思われる。
「貴様が外を歩くとは珍しいな」
逆ナンを華麗にスルーしてきた男マーくんは先頭を歩くラルフォイにそう言った。
「マグナさんも着いてきてくれたのは意外でしたよ」
「フン、何かこっちのほうがミーナと話しているより面白そうだからな」
ミーナさん結構可愛いのに…かわいそうな現実。
「ね、ねえ…どこまで行くの?この辺よく知らないんだけど…」
ディーナが言うように俺も今いるあたりが街のどの辺かよくわからない。
辺りを見ると、建物は古びたものが増え、ボロボロに朽ちている家もある。
道を歩いている人はほとんどおらず、人の気配がないように思えるが、周囲の建物からは、誰かがこっちを見ているような嫌な感じがする。
露店も全然出てないし…なんかちょっと臭い。
めちゃめちゃこの辺治安悪そうなんだけど…
「ここらはスラム街だ、あまり我と離れるなよ、一人で歩いていたら確実におかしなのに絡まれるぞ」
マーくんの言葉を聞いてディーナは俺とマーくんの間に挟まれるような位置まで駆け寄ってきた。
さりげなく俺たちを盾にするんじゃない。
それからさらに少し歩いて、ラルフォイは一軒の建物の前でとまった。
ナクト村にあった宿屋みたいな建物だ、こっちはだいぶ傷んでるけど。
「ここはある病気の人が隔離されています、まあ危険はないのではいりますよ」
ラルフォイがドアをぎぎぎっと開けて俺たちは中へと入った。
そこはベッドがいくつか並べておいてある空間で、それらすべてに人が横たわっていた。
開いてるスペースの床にも何人かござのような物をしいてその上に寝ている。
「この人たちは何の病気なん…」
「ひいいっ、こ、この人っ、足がっ足が変っ!」
俺がラルフォイに尋ねる前にディーナが入り口付近の壁にもたれかかっていた男を見て慌てだした。
「なっ!ふざけるなよ貴様、なにが危険はないだ!おい、今すぐここを出るぞ!」
マーくんが突如怒って俺とディーナに建物を出るように言った。
「こいつらは石化病だ!絶対に触るな!」
壁にもたれかかっている男の足を見た。
その人の破れたズボンから見える足は…灰色で、まるで石そのものだった。




