怪しい人だらけ
なんか昨日だけPV多い、なんでだ
俺は冒険者ギルドに出かけてくることをタックスさんに伝えると倉庫から出てディーナを探した。
すぐ見つかった、マーくんと既に訓練していたからだ、ちゃんと先にはじめてたんだな。
俺が二人に近づくと、向こうもこちらに気づいた。
「ヴォルるん遅いよおおおお」
駆け寄ってきたディーナが半べそをかいている。
「私、腕が折れたんだからあああああ」
折れた!?ええ、そこまでやったのか?
俺は慌ててディーナに<ヒール>をかけた。
「あああ…あ…痛くなくなった!」
「おい、甘やかすな、そいつが言ってるのは嘘だ、腕が折れたりなどしていない」
マーくんに怒られた、いや、それより腕折れたは嘘なのか?
詳しく聞くとどうやら木剣を使った戦闘の練習をしてて、ディーナは軽く叩かれただけらしい。
それを大げさに言っただけのようだ。
「えへへ、ヴォルるんにはじめて魔法かけてもらっちゃった!」
ディーナは喜んでいるがこれもう3回目だからな、本人気づいてないけど。
「ヴォルガーが来るまでは痛みを我慢できていたではないか…」
マーくんはやや呆れ気味に言った。
すまん、どうやら甘やかしすぎていたようだ。
今からは厳しくやってくれ、と言いたいところだが別の用件がある。
「なあマーくん、ラルフォイは今日ギルドにいるかな?これから会いに行こうと思うんだけど」
「やつの予定など知らんぞ、我はヴォルガーのことを頼まれた日からやつには会っていないしな」
じゃあここでの訓練のことは報告していないのか。
マーくんはたぶん嘘ついてないだろうし。
「それより何しに行くのだ?何の依頼もこなしてないうちは5級試験は受けられんぞ」
「いきなりそんなことしないよ、ちょっと確認したいことがあるんだ。二人とも一緒に来てほしい」
「よくわからないけどヴォルるんが言うなら勿論着いてくわ!あ、上着取ってくる!」
ひょっとして訓練さぼりたいだけでは?と思えるような速度で、前に買ってやった革のジャケットを取ってくるとディーナは準備完了!と言った、準備もなにも上着を着ただけであとは手ぶらである。
「冒険者カードはちゃんと持ってるか?」
「持ってる!ほらここ!」
ジャケットの胸ポケットからカードを取り出してディーナはそれを見せてきた、すぐ失くしそうな不安さがあるがひとまず持っているようなので絶対失くすなよと念を押しておいた。
俺も外出用の荷物を持つと、マーくんとディーナを連れて街へ出た。
マーくんに確認とはなんだ?と聞かれたが、今の段階でハッキリとは言えないので、明日からは朝も時間が取れる予定になったから依頼のことも考えて下見に行くとかなんとか言って適当にごまかした。
ディーナは露店の匂いにつられて何か食べたいとか言い出したがそんな暇はないと言ってギルドへ急いだ。
さっき甘やかすなって怒られたばっかだしな。
………
冒険者ギルドに着くと相変わらず受付のニーアが暇そうにしていた、この時間はそもそも暇なんだろうな、すでに依頼を受けてる冒険者は仕事中の時間になるわけで。
「ギルドマスターに会いたいんだけど、大丈夫かな?」
俺はニーアにそう聞いた、敬語はやめた、というかこの世界の人はあまり敬語とかにこだわらないことに最近ようやく気づいた。
たぶんよっぽど偉い…貴族とかに会う場合必要なくらいで、後は個人の性格によるところが大きいだけだ。
「部屋にいるよー、あれ、今日も会う約束だったの?」
ニーアも最初からずっとこの調子だったしな、客商売みたいな意識はないらしい。
「ええまあ、あ、案内はいいよ、部屋覚えてるから」
全然約束などしてないけど当たり前のように俺は階段のほうへ行こうとした。
後ろの二人にもとりあえず着いてきてもらう。
「待ってー」
ニーアに引き留められた。
さすがにアポイントメントなしに勝手に行くのはダメか?
彼女のわりかしいい加減な性格なら通れると思ったのに。
「ミーナがさーマグナさんと話をしたいんだってー」
「ぬ?我か…?何の話かよくわからんが…」
ミーナとは確かもう一人の受付の女の子だ。
ディーナの冒険者登録をした人、俺は彼女の名前をディーナから聞いたことがあるだけで、直接話してないからまだどんな人かよくわからない。
「我はここに残っても構わんか?」
「ああ、呼ばれてるなら仕方ない、俺とディーナで行ってくるよ」
マーくんはミーナの待つカウンターのほうへ歩いて行った。
俺とディーナはそのまま二階の階段へ、今度は別に何も言われなかった、マーくんに用があっただけか。
ディーナは「また冷たい水くれないかな」とか言いながら大人しく着いてきている。
何しに来たとかいう疑問は抱いていないようだ、こいつはこのままでいい。
部屋の前まで着き、ドアをノックした。
中から「どうぞ」とラルフォイの声が聞こえた。
「おや、今日はお二人でまた…どうしたのですか?」
部屋に入るとラルフォイが俺たちを見てそう答えた。
「ああ、ちょっと話がしたくてな、ほら、マーくん…いや、マグナを俺のために寄こしてくれたんだろ?それの礼も言おうと思ってな」
「いやあ、いいんですよ!彼も乗り気でしたからね!普段は新人冒険者のためにこんなことしませんけどヴォルガーさんは何かと期待の新人ですから!」
何を期待してるんですかねえ…
ラルフォイは俺たちにまあどうぞ座ってといつものように言ってから自分も仕事用の机から離れ、ソファーに座る。
俺たちもソファーに座ったが、ラルフォイはなにかに気づくと、立ち上がって青鉄庫から水を持ってきてくれた。
ディーナ!恥ずかしいから青鉄庫をじっと見るのをやめなさい!
「それで、わざわざお礼を言うために来てくれたんですか?」
「それはついで、実は冒険者カードのことで変なことがあってな…」
「カードですか?何か不備がありました?」
「まず俺のこの…あ、ディーナはちゃんとカード持ってきてるか?」
俺は自分の冒険者カードを取り出しつつ、ディーナにも確認した。
「もう!ちゃんと持ってるよ!ほら!」
来る前にも聞かれたから少し怒った様子でディーナは冒険者カードを胸ポケットから取り出す。
「ん、あれ、お前のカードなんか変な虫がついてるよ」
「ええっ!?やだもう!」
ディーナはカードからパッと手を離した、カードは床に落ちる。
「おいおい大事なものなんだから簡単に手離すなよ」と言いながら俺はそれを拾った。
ラルフォイも「失くしたら再発行にお金とりますよー」と一言付け加えてきた。
「ねえ虫まだついてる?」
「いや気のせいだった、何もついてない…ああ失礼、それで俺のカードを見てほしいんだが…」
俺はラルフォイに冒険者カードを渡した。
「では拝見いたしましょう…あれ、これはヴォルガーさんのじゃありませんね、メンディーナさんの物と間違えてますよ」
ラルフォイはカードを返して来た。
それで俺は確信した。
「…いつからディーナのことを知ってるんだ?」
「はい?以前ここにヴォルガーさんと一緒に来られたときからですが…」
「こいつはその時、自分のことを『ディーナ』だと言ったんだぞ?」
「…ああ、名前はあの後に書類を見ましたから知ってますよ」
「じゃあ余計におかしい」
ラルフォイは笑顔を崩さない、ディーナは俺が何のことを言ってるのかわかってない様子だ。
「普通は会ったばかりの人間の名前が違ったら少しは疑問を抱くもんだ、でもお前の態度にはそれが全く見られない」
「それってそんなにおかしいですか?何か理由があるのかと僕なりに気をつかって、そのことには触れないようにしていただけですよ?」
「気をつかってるならさっきカードを返すときに『メンディーナ』とは言わないはずだ。もう小芝居はやめろ、初対面のときからお前のディーナに対する態度は不自然すぎるんだ」
俺ははっきりと、お前のことを疑ってるぞという感じでラルフォイに伝えた。
ラルフォイは特に何も答えない。
「何が言いたいかっていうとだな、人を使ってコソコソ俺たちのことを調べるのはやめろということだ」
「勘違いされてるようですが…マグナさんはそういうのじゃありませんよ」
「それは知ってる、俺が言ってるのは…マリンダさんだ」
そこで初めてラルフォイの表情が変わった、笑顔ではない、無表情だ。
マリンダさんのことが怪しいと思ったのは、他にそう思える人がいないからだ。
タックスさんとトニーはディーナと一緒に王都から逃げてる家族みたいな仲だし、マーくんは知り合って間もない、スパイのように使うにしてはあからさますぎて怪しまれるに決まってる。
マリンダさんは元々この街にいたのをタックスさんが家政婦として雇っただけだ、彼女は普段仕事が終われば家に帰るから、街でラルフォイに会っていてもおかしくない。
「え!?なんで急にマリンダさんが出てきたの!?」
「うん今ちょっと真剣なところだから、後で説明してやるから」
大人しく水でも飲んでて、と近づいてきたディーナの顔を手でおしのける。
「はは、いやあまいったなぁ、もうバレちゃったんですか」
「それはマリンダさんがお前の部下だと認めたってことだよな」
「ええ、そうです、彼女は僕の部下ですよ、ああーやっぱりね僕もまずったなあと思ったんですよ、でも仕方なくないですか?ヴォルガーさんだってあの時かなり驚いてましたし」
「ね、ねえ!私にもわかるように説明してよ!」
ラルフォイが言ってるのはディーナが冒険者登録をするので書類をくださいと言ったときのこと。
「だからな、何が目的か知らないけど、俺がタックスさんの店に来る前からコイツはマリンダさんを使ってお前のことを調べてたんだよ」
「ラルフォイさんとマリンダさんがなんで関係あるの!?」
部下だって言ったじゃねーか!もう10秒前のことも忘れたのかよ!?
「なんで調べていたか言わなきゃダメです?」
「ダメに決まってるだろ、言わないつもりなら何があっても俺はもう街を出ていく、ディーナを連れてな」
「あー言います言います!困ったなあほんとに」
もしかしたらと思っていたけど、こいつは俺に街を出ていくはめになるとか脅しておきながら、実際にそれをやられると困る立場にあるみたいだ。
最初はディーナだけ必要だったのかもしれんが、途中から俺のことも何かしらの理由で必要になった。
俺たち二人を監視できるようにわざとあんな言い方をしたんだ。
普段の俺が何をしているかとか、ディーナやタックスさんの性格も調べたうえで。
「ヴォ、ヴォルるんと一緒ならどこへでも行くわ…」
お前は今そんなことを言わなくていい!ラルフォイに聞いてんだよ!
「ラルフォイ早く言え、ディーナのことはもういいから」
「はいはい…えーとですね、うん、まずこれから言いましょう」
ラルフォイはまたいつもの笑顔に戻ると軽い調子で言った。
「僕はアイシャ教の人間です、表向きは入ってないことになってますが、まあ言ってみれば教会がやりづらい仕事を代理でやるような便利屋ですね!」
「…非常に嫌な予感がするが具体的な仕事は?」
「例えば、逃げた元聖女を暗殺する、とかでしょうか!」
ちょっと聞いて後悔した。
ディーナは…だめだなこれ、完全に意識がどこかへ行って固まっていた。