あんまり意味ないって
マーくんにはある。
マーくんと訓練を初めて何時間たっただろうか。
俺は井戸のそばで腰をおろして汗をぬぐっていた。
「こひゅーっ、こひゅーっ」
俺のそばであまり聞いたことのない呼吸音を発しているのはディーナ。
地面に大の字になって倒れている。
数分前にはゲロを吐いてた、酔ったからではない、疲れすぎたからだ。
ディーナほどではないが俺も結構疲れた…
マーくんの指示のもとはじめたランニングだったが、ディーナは体感で30分くらい走り続けて力尽きた。
これはかなり根性みせたと思う、正直もっとすぐへばると思っていた。
まあ日本みたいに便利な文明の利器に頼った生活はしていないので、この世界の人は元々それなりに体力はあるのだろう。
俺はディーナがへばった後もまだ余裕があったので、マーくんの相手をさせられた。
なにかもうそれは訓練じゃなくて、マーくん的に俺の防御魔法を突破できないのが相当悔しかったらしく、わざわざ俺に防御魔法を使わせた後、滅茶苦茶攻撃してきた。
マーくんは魔法なしの素手による攻撃のみだったが、ありとあらゆる方向から仕掛けてくるので俺は緊張感で凄い疲れた。
魔法をやめたのは本気でやると敷地内に被害がでるから、だそうだ。
それでもやっぱマーくんすげえよ…戦闘中に<ディバイン・オーラ>の弱点を見抜かれてしまった。
<ディバイン・オ-ラ>で魔法は防げないことはすでにバレていたけど、効果時間が3分ほどしかないことも気づかれてしまった。
おまけに攻撃を防いでる最中には新たに<ディバイン・オーラ>をかけなおせないことも。
ゲームシステムによって作られた穴を見抜くのは意外だったなあ。
おかげで<ライト・ウォール>で壁を作って距離稼いだり、<プロテクション>で肉体の防御力をあけて素手でガードしなきゃいけない場面もあった。
そうやって俺がマーくんと戦闘していると、ディーナが疲労から回復するので、今度はディーナを鍛えるとかで木剣を持たせて素振りをさせていた、また疲れ果てるまで。
ディーナがへばる度に相手をさせられるので、いっそ<ヒール>かけたらディーナ元気にならないかなと思って試したけど肉体疲労は無理なようだった。
まあ体の正常な反応だからな、そういうのは治せないみたいだ。
で、そんなことを繰り返してようやくマーくんも疲れたらしく今日の訓練は終わりとなった。
「ヴォルガーは、訓練を続ける意味はあまりないかもしれん」
一日散々やってマーくんはそんな感想をくれた。
そもそも後半は俺というよりマーくんの訓練になっていませんでしたか?
「はぁ、まあ攻撃できないからな」
「それもあるが、防御に関しては既に完成されていて我が教えることはない、最初こそ動きに戸惑があったが、回数をこなすとそれもなくなった…元々覚えていた動きができるようになった、そういう感じだ」
ゲームの時に得た経験が生きているということだろうか。
確かに後半は恐怖感が少なくなって、冷静になれたように思う。
一応あの無茶な戦闘は意味があったのだ。
「えーじゃあ俺は一体明日から何をすれば…」
「可能ならば、朝にギルドへ行き、我と共に依頼を受けて冒険者としての仕事に慣れるのが最善だ、しかし朝は用事があるのだろう?」
「ああ、そうだな、今のところは無理だ」
「ならそれをまずどうにかしろ、三日に一度くらいは暇を作れ」
うーむ、やはり授業のことをどこかで区切りをつけなきゃならんか。
トニーがもっと続けたいって言ったらどうしようかな…場合によっては授業のない日を作らなきゃならん、よく考えたら今まで休日という物がなかったからそれはそれでいいか。
ただディーナも割り算できるようになるまで教えたいんだが…ああでもディーナは朝じゃなくても時間とれるかもしれないな。
意外となんとかなりそうだ。
「わかった、考えておくよ」
「うむ、それまではディーナを鍛えることにしよう。こいつは正直いつ死んでもおかしくない」
なかなか辛辣なコメントをくれたマーくんは「また明日来る」と言うとあっさり帰った。
俺は内心、夕飯でもごちそうしようと思ってたんだけど、ぶっちゃけたいしたもの作る元気がなかったので引きとめるのはやめた。
明日は頑張って作るか…
ただ今日はもう無理、なんか適当に近くにある露店で買ってこよう、店じまいしてないといいんだけど。
「ディーナ…おい、生きてるか?」
俺は買い物に行くことを伝えようと、グッタリしているディーナに声をかけた。
「はぁはぁ…これ明日もやるの…?ほんとに…?」
「やるだろうな、冒険者になったこと後悔してるか?」
「…し、してないわ、全然へっちゃらよ」
なんとか生きてたディーナは生まれたての鹿みたいにプルプルしながら立ち上がった。
全然へっちゃらには到底見えないけど、まあそれだけ言えるなら大丈夫だろう。
「そうか…じゃあ俺は夕飯買ってくるから…俺の家で待ってろ」
「あれ、私の分は…マリンダさんが作るけど…」
「ああそれ、今日からもう無いから、言うの忘れてたけど、タックスさんが俺の家のほうにディーナも住んでいいってさ、まあ嫌なら別に住まなくてもいいけど」
「え、ほんとに!?嫌なわけない!住む、住むわ!一生私のめんどうみてください!」
なんだよその嫌すぎるプロポーズみたいなのは…老人の介護レベルだぞ…
「ふざけんな、住むならちゃんと家事はしてもらうからな」
「自信はないけどわかったわ、でも料理は…ヴォルるんのが食べたいから…」
「…掃除と洗濯から頑張れ」
「そうするわ!」
俺は、元気を取り戻したディーナに、自分の荷物をこっちの家に運んでおくように言った。
走って店に戻ろうとして足がふらついてこけているディーナを見送りつつ、俺は買い物に出かけた。
街の露店で肉を挟んだパン…パンというよりはナンかなあ、インドとかにある、まあとにかくそれが近くで売っていたので買って帰った。
ディーナは俺が夕飯を作ると思っていたのか買ってきたものを渡されると、ちょっとがっかりしていたが、4つ買ってきたうちの2つを平然と食べた。
ホットドッグくらいの大きさだったから念のために多めに買っておいてよかった。
食事の後は、一人ずつ井戸に行って頭から水かぶって洗ってきた。
二人で一緒に行けばいいのにとか言ってたけど、俺は今日すぐ寝たいから、むやみにセクシーなシーンを見てムラムラしたくなかったんだ!
ムラムラしたくないからディーナには使ってなかったもうひとつの部屋を与えた。
そこにも一応簡素なベッドがあるから問題ない。
なんか不満そうだったけど、ディーナも疲れが限界だったのか、大人しく別々の部屋で寝ることを承諾してくれた。
はあ…明日ちゃんと起きて授業できるかな…
目覚まし時計がないことに少々不安を感じながらも、俺はベッドに横になると、すぐ眠りに落ちた。




