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大人げない

10代はナイーブなんだ!やめろよ!

 タックスさんとの話がちょうど終わった頃、店にマーくんが来た。

タイミングが良かったのでタックスさんにもマーくんのことを紹介しておいた。


 それから敷地内にある家までマーくんをひとまず案内した。

ディーナはいなかった、たぶん馬のところだ、後で呼んでくるか。


「ヴォルガーはここに一人で住んでいるのか」

「ああ、まあうん、一人で住んでいた」


 今日から二人になりそうだが、それは説明しなくてもいいや。

マーくんは椅子に座ると背負っていた荷物袋を下ろした。

結構でかいけど何をそんなに持って来たんだろうか。


 今更だけどマーくんはラルフォイに頼まれて俺のところへ来ていると言った。

もしかして彼はラルフォイの部下で密かに何か別のことを頼まれていないだろうか、と思ってみたりしなくもないが、どうにもマーくんは純粋な気がするので疑う気持ちがあんまり湧いてこない。


「ヴォルるーん、いるー?あ…マーくん来てる!」


 もはやドアを叩くことすらせずに普通にガチャっと開けて家の中へディーナが入ってきた。

いいですけどねもうここに住むわけだし、話はまだ聞いてないだろうけど。


 マーくんはディーナにも『マーくん』と言われ一瞬ピクっとしたがそれだけで特に気にした様子ではなかった。

これから何をするのか聞くところだから一緒に座って聞けと、ディーナを席に着かせた。


「ねえねえ今日は何するの?」

「うむ、先ほど敷地内を見たが、十分な広さがある。そこで俺がまず相手をしてやろう」


 マーくんはそう言って椅子から立ち上がった。


「おおいちょっと待ってくれ、それは戦闘訓練をするということか?」

「当たり前だ、他に何がある?」


 えーあれ…座学とかはないのかな…戦闘能力がやっぱ必須技能なんだろうか。

どうしよう、ディーナなんか完全に固まってるぞ。


「お前らのエモノを聞くのを忘れていた、適当に持ってきたからそこから選べ」


 そこ、というのはマーくんが持ってきた荷物で、中には木製の剣が何本か入っていた。

長さなどに違いはあるが全部剣である、剣一択なのか。


「マーくん、残念なお知らせだが俺は武器を使えない」

「わ、私も使ったことない…」


 マーくんは俺たちを見た後「なら素手でいい」と言って外へ出た。

何か色々持ってきてくれたのにゴメン。


「よし、ではどちらが先でもいい、かかってこい」


 外に出て、他の建物の邪魔にならないような場所へ行くと、早速そんなことを言われた。

ファイティングポーズをとる前にちょっと待ってくれ、このままだとディーナが久しぶりに気絶しそうだ。


「マーくん質問いいか!」

「む、なんだ」

「冒険者の仕事って戦うのが基本なのか?」

「我にとってはそうだ、他に雑用のような仕事もあるにはあるが」

「まずその辺から教えてくれないか?どういう仕事があるのか」

「ぬう…せっかくヴォルガーと戦えると思って楽しみにしていたんだが…仕方ない」


 いやそんなこと楽しみにされても困る、ラルフォイに何を吹き込まれたんだ。

しぶしぶと言った感じでマーくんは軽く冒険者の仕事について説明してくれた。


 それによると街中でやる仕事もあるのだが、そういうのは朝早くに来た6級冒険者たちがほとんど受けていってしまう。

普通に考えたらリスクが少ない仕事は、力がない者にとっては人気なのは当たり前だ。

ただマーくんに言わせれば、そうやって朝早くに来て簡単な仕事だけ選んでやる生活は長く続かないらしい。

貰える報酬も少ないから仕事が受けられなかった日が続けばその生活は破綻してしまう。


 そして5級以上からは、護衛や警備、街の外でやる作業や魔物の討伐自体がメインの依頼になってくる。

よって一生6級でやっていこうなどと甘えたことを抜かすなと言う感じだった。


「じゃあ昼頃に行っても私にできそうな仕事はないの…?前は何人かギルドにいる人も見たけど」

「ああいうのはパーティーに入れる仲間を探しているか、待ち合わせでたむろしているだけだ。中には新人冒険者を引っかけて食い物にしようとしているゴミみたいなヤツもいるがな」


 ディーナに絡んできたハゲの大男みたいなやつのことだろうか?


「あれ、じゃあマーくんは昼にギルドで何してたんだ?」

「我は魔物の素材を売りに行っていただけだ」


 なんだそうなのか、じゃあ会えたのは運が良かったんだな。

あとギルドはそういう買い取りもしてくれるってことか。


「どうしても戦闘以外というなら…あれなら昼に行っても残ってることがあるぞ」

「え!なになに!教えて!」

「糞を回収して肥料を作る仕事だ」


 ああ…まあうん、それはそれで需要があるけど重労働なんだろうな。

ディーナもそれを聞いて、あれかぁ…辛そう…と言っていた。


「それが嫌なら戦えるようになれ」


 く、やはりそうなるのか…だが俺にはひとつ不安材料がある。

果たして俺は戦闘訓練をしたところで強くなれるのだろうか、ということ。

正確には魔物を倒すような技能が得られるのか。


 作ってもらった冒険者カードを確認したら、そこには『クラス ふわふわにくまん』の文字がしっかりと刻んであった。

このある意味呪われたクラスがほわオンの称号システムと同じ効果を発揮していた場合、俺は絶対に何も倒せない。


 試してみるしかないか…殴り合いとか苦手なんだけどな。

若い頃に喧嘩をしたことの思い出くらいはあるけどさ、本格的な格闘技なんかさっぱりだよ。

まずは、せいけんづきの型の練習とかじゃ…ないんだろうなあああ。

はあ、まあいいや…やるか…この体になってから、ずっと気になってることもあるし。


「わかったよ、じゃあまず俺が相手になる」

「よし!ようやくやる気になったか!」

「ええっ!?大丈夫ヴォルるん!」

「まあ訓練だから…マーくんもわかってるだろ、ああそうだ、俺って魔法を使うのがほぼ戦闘で必須なんだけど、魔法はあり?」

「フフフ、勿論いいぞ、まずはどの程度できるのかを見る組手だからな!」


 マーくんは楽しそうに構えて「行くぞ!」と開始の合図をした。

5メートルくらいの距離が俺とマーくんの間にあったが、何の意味もなかった、気づけばもう俺の目の前には迫るマーくんの拳があった。


「うわっ、とと」


 俺はそれを右腕を振り上げて払いのけ、<ウェイク・スピード>とつぶやくと即座に下がって距離をとった。


「ぬ、突然動きが速くなったな、この一瞬で魔法を使ったのか!」


 マーくんは先ほどはやはり手加減していたのだろう、魔法で加速した俺にもすぐついてきた。

今度は俺に足払いをしかけようとしている、俺はそれに対応しようとして視線を足元にやった。

その瞬間、ガン、と肩に手刀を入れられた、足払いはフェイントだったのだ。


「いて」


 思わずそう言ってしまったが、それだけである。

別にめちゃくちゃ痛いわけではない、むしろそんなに痛くない。


 やっぱりおかしい。


 マーくんの動きの速さで殴られたら、いて、じゃ普通済まないと思う。

それ以前に俺がその動きを目で追えているのも変だ。


 前々から、魔物の動きがわりとはっきり見えていた。

ジグルドやミュセと軽く戦ったときもそうだった。

重い物を運んでも平気だし、走ってもあんまり疲れない。

アイシャが俺に何かしたのか、元々この体が高性能なのかわからないがとにかく、地球の日本人だった俺とは確実に違う。


「…動きは素人だが肉体は異常に鍛えられているな」


 攻撃したマーくんもおかしいと感じとったのか、一旦俺から離れた。

その隙にすかさず<ディバイン・オーラ>を使う。

これが今のところ突破されたことはない、殴られてもある程度平気とわかったので今度はこれをどう破ってくるのかマーくんの強さを見てみよう。


「なんだ!?ハハハ、なんだこれはぁ!」


 俺がまた魔法を使ったとすぐ気づいたマーくんは殴る蹴るの連打を浴びせてきた。

しかしそれらは全部俺に届かなかった、俺を包むガラスの球体のような壁が一定距離からマーくんを近づけさせない。

マーくんはその壁に楽しそうに攻撃してるだけ。


「どうかなマーくん、今のところこの魔法を破ってきた人はいないんだけど」

「ぬううううん!硬い!素手の攻撃では無理か!」


 とか言いつつめちゃくちゃガンガン殴るからちょっと怖い。


「ならばこれでどうだ!闇よ!集いて力となれ!<ダークボール>!」


 マーくんは殴るのをやめて魔法を使った。

闇魔法だ!マーくんは闇魔法が使えるのか!なんとなくそんな気はしてたけど!

黒いバレーボールくらいの球体が俺たちの間に出現する。


「<レジスト・マジック>」


 俺がそう唱えた後、黒い球体は<ディバイン・オーラ>を突き抜けて俺に命中した。


 別になんともなかった。

<レジスト・マジック>は魔法攻撃に対する防御力を高める魔法である。

これを使った上でどれくらいダメージがあるのか知りたかったがどうやら無効化してしまったようだ。


「…<ダークボール>!」


 バシュン、と俺に当たると変な音をしてまた黒い球体は消える。

マーくん無詠唱で使えるんじゃねえか、さっきの詠唱なんなの?まさか言いたかっただけか?


「あー…その程度だと俺には効かないから」

「ク…ククク…避けるまでも無いということか…」


 やべ、ちょっとショックを与えてしまっただろうか。


「どうやら久々にコレを使う相手に出会えたようだな」


 マーくんはどうやらショックではなかったらしく、いかにもな台詞をはいて包帯で巻かれた右腕を俺に見せつけてきた。

まさかその包帯でヤバイ力を封印しているとかいうアレか! 


「闇よ!我が呼び掛けに応じ力となれ…漆黒の意思は忠誠を示す刃とならん<クリエイト・ダークブレード>」


 先ほどより幾分真面目な態度で詠唱をしたマーくんの手には黒い剣が握られていた。

包帯は特に関係ないようだ。

それより俺の知らない魔法だ、似たようなので<ダーク・エンチャント>という持っている武器自体に闇属性をつける魔法はあったが、これは剣そのものを闇魔法で作りだしている。


 どっちにしろ物理と魔法のあわさった攻撃をしてくると思っていいだろうな。

防ぐのはちょっと面倒そうだ…というか俺素手なのに平然と武器とか使うわけ?


 マーくん大人げない、と思ったがまだ10代だった、ならば仕方ない。

こうなったら俺も、大人の大人による大人げなさを見せてやる。


「クク…どうだ、その守りで魔法は防げないのだろう、ならばこの…」

「<ライト・エンチャント>」


 俺は光属性を武器に付与する魔法をかけた。

自分ではなくてマーくんにかけた。


 その結果どうなったかというとマーくんの闇の剣は反対の属性である光を付与されて消滅した。

光と闇の融合はおこらなかった!残念!


「………我の剣は?」

「危なそうので消した、えーと、まだ続けるか?」


 マーくんはさっきまで剣を握っていた手を閉じたり開いたりした後「もう教えることは何もない」と言ってその場を去ろうと…いやいや、ちょっと待って!


 10代の心は傷つきやすい。


 俺は黙って帰ろうとするマーくんを一生懸命引き留めたのだった。

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