ディーナの夜
長い一日だった。
冒険者ギルドを出てタックスさんの店まで戻ると俺はまずタックスさんに報告に行った。
冒険者になったことに加えて、明日の午後からラルフォイに頼まれた冒険者が俺のことを鍛えに来ることも伝えた。
それから最後にディーナも冒険者になってしまったことを明かすと、タックスさんは驚いていたが、真剣な顔をして俺の横で大人しくしていたディーナを呼ぶと、話があるといって店の奥に行ってしまった。
あーあ、お説教タイムに違いない。
帰り道の途中、ディーナには怒られたらなんて謝るか考えとけよと言っておいたがどうなることやら。
それから、俺が家に戻って夕飯を作って食べ、もうそろそろ寝ようかなといった時間のころ、誰かが玄関のドアをノックした。
こんな時間に何だよと思いつつドアを開けるとディーナが外に立っていた。
「ねえ、中に入って話をしてもいい?」
「え、今から…?もう夜遅いが、明日じゃダメな話なのか?」
「今がいいの」
どうしても今すぐ話がしたいようなので、家の中に入れてやった。
ランプをつけるのが面倒だったので<ライトボール>を使って明かりの代わりにすると
「本当に光魔法が使えるんだね」
ディーナがそう言った、でも声に元気がなかった。
タックスさんによっぽど叱られたんだろうか。
いつも授業中に使っているテーブルまでいくとディーナが定位置に座る。
俺はその向かいに座った。
「で、どうしたんだ?」
「…あのね、私のことちゃんとヴォルるんに話しておきたいと思って」
「なんのことだ?」
「私は小さい頃、両親に捨てられて、孤児院に拾われて育ったの」
え…唐突になんか重い話始まったんだけど…
急に何の話なのこれ?とか思ってる俺にディーナは自分の昔話を語り始めた。
「昔から孤児院にいたまわりの子よりも体が大きくて、オーガ女と言われてよくいじめられてたわ」
オーガってあれだろ、ゴブリンのでかいやつ、子供は容赦ないな。
「それが嫌である時、孤児院を飛び出して出て行ったの、何も考えずに」
「おいおい…それいくつの時だ?」
「ん、よくわからないけど…12くらいだった…かな?」
「もうそれきり孤児院には帰らなかったのか?」
「うん、普通ならそこで私の人生終わってた、でもタックスさんの、亡くなった奥さんに運よく出会えて、事情を話したら家においてもらえたの」
そこでタックスさんと縁ができたんだな。
「その頃はまだトニーも小さくて、私がよく面倒をみてたわ」
「ああそれでディーナ姉ちゃんとか呼ばれてんだ?」
「最初はでか女ーって言われたけどね」
そこでもかよ。
「でもトニーが9歳になった時、奥さんは病気で亡くなって…私はすごく泣いたわ、でもトニーは泣くのをこらえてタックスさんに仕事を手伝うと言ったの」
「トニーそんな小さい頃から仕事をしてたのか…」
なんか出会う人皆、子供時代の人生ハードすぎない?
俺が同じくらいの時はピンポンダッシュとか ひとの家の壁にうんこかいて喜んでたりとか迷惑なことをやってる記憶しか…いやこれは元の俺がやったことだから今の俺は無罪だな。
「私もタックスさんを手伝おうと思ったんだけど、商人の仕事のことはよくわからなくて、失敗ばかりしてたわ。だから、別の仕事をしようと思って街に出て…」
ディーナはそこで少し、続きを言うのをためらっていたように見えた。
でも何か決心したのか、こっちをまっすぐ見て話を続けた。
「…今日、ギルドで大きな男の人に絡まれたでしょ?」
あれ?急に話が飛んだな。
「私ああいうの初めてじゃないの、リンデンでも…何度かあって…それでお金が稼げるって言われたからその時は…」
「え、いや、もしかしてお前…」
「…前は体を売ってたわ、娼婦だったの」
意外だった、ディーナがそういうタイプには全然見えなかったから。
「あんまり人気はなかったけど、体が大きいのを面白がって私を買ってくれる人がいたから…それで私ってそういうことしたお客さんのことすぐ好きになっちゃって…いつの間にかタックスさんのところを出て男の人と住むようになった」
何か口を挟める雰囲気じゃなかったので俺は黙って続きを聞いた。
「ふふ、私って馬鹿だからわかってなかったのよね、誰も私のことが好きで一緒に暮らしてたんじゃないってこと。皆、私が娼婦を続けてお金を稼いできても何とも思ってなかったんだから」
「ディーナ、辛いなら別に無理して言わなくてもいいぞ」
「ううん聞いて、お願い、変な話になっちゃったけど…そういう生活をしてた頃にアイシャ様からの神託があって、どうしていいかわからなくてタックスさんを頼って、後はヴォルるんも知ってる通りこの街まで逃げてきたの」
俺はこの話を聞いてなんと言えばいいのかわからなかった。
ディーナはその神託に関わっていたのが俺だと知るとどう思うだろうか。
俺のことを殺したいほどまだ憎んでいるだろうか。
「…アイシャのことを憎んではいないのか?」
「え?アイシャ様のことはそんな風に思っていないわ、だって短い間だったけど、夢のような生活をさせてくれたんだもの、それに…」
「それに?」
「それが無かったらヴォルるんに会えなかったもの」
ディーナは笑顔でそう言った、うっ、不覚にもその顔を見てドキッとした。
「…え、ええと、それで結局何の話なんだ?」
「私ね、今のままじゃダメだと思って、タックスさんに頼ってばかりのままじゃいけないし、それにヴォルるんもいつかは先生をやめていなくなるから…」
「だから冒険者になったのか?」
「うん…本当は…娼婦に戻ろうかとも思ってたんだけど…」
「い、いや、そこまでしなくても別に他の仕事はあるだろ?」
「無いよ、私は何の取り柄もないもの」
何でそんな風に言うんだよ…
「だからって冒険者はないだろ、街の外での仕事もある、死ぬかもしれ」
「だって!もう嫌なんだもん!!」
ディーナは俺の言葉をさえぎるように 声を上げた。
「ヴォルるんに会ってから、もう娼婦をするのは嫌になっちゃったのよ!今日、あの大きい男の人に一晩相手をしろって言われてハッキリわかったわ、ヴォルるん以外の人とはもう、そういうことしたくないの!!」
「え…あ…えっと…」
「だから冒険者になるしか私にはないの!うわあああああああん!」
戸惑う俺を前に、ディーナは泣きだしてしまった。
「いやおい泣くなよ、わかった、わかったから」
「びゃああああじゃあもうどごにもいがないでえええええずっどごごにいでええええ」
「いやそのずっとは…」
「やっばりわだじのごどきらいなんだあああああだがらいなぐなるんだあああ」
どうしよう…手に負えなくなってしまった…
「嫌いじゃないって!」
「…ぼんどに?」
「ああ、だから…もう鼻水を拭け…」
ディーナのそばにいって涙と鼻水まみれの顔を見た後、何か拭くものをとってこようとしたら腕を掴んで引き留められた。
そしてディーナは立ち上がって…なぜかTシャツを脱ぎ始めた。
あ、ブラジャーみたいなのしてる、いや、そうじゃなくて。
「何で脱いでんの!?」
「…私、ヴォルるんにもらってばっかりで…何も返せないから…今日は服も買ってもらったし…」
「い、いやいいよ気にしてないから、大した額じゃないし」
「私が気にするの!でも私には体で払うくらいしかできない…ヴォルるんは私なんか抱くの嫌?娼婦をしてたから汚いと思ってる?」
「汚くなんかないって!美人だと思ってるよ!前にも言ったろ!」
「じゃあ…来て」
ディーナは隣の寝室に俺を引っ張っていった。
そして…
俺はわけもわからぬうちにベッドに押し倒されてしまった、あーれー。




